廊下
前代未聞の事態に会場は興奮と混乱で満ちてい
た。表彰式に上がる選手達は控室に向かっていた
「やぁ、君が倉瀬君かな?」
背後から光流が声をかけると「…誰だ?アンタ。」と倉瀬は警戒した様子で鞄を背中に隠した。
「アレだけ熱い試合をしたんだ。せめての礼儀として挨拶に来たんだよ。とは言ってもボクは選手じゃないんだけど。」「あー、なるほど話は聞いてる。選手に嫌われるなんて監督としてどーなのさ。」倉瀬は一つ後付さりをした。「それは自分のオーナーに言いなよ。ボクは柳瀬光流、その資料には微塵も興味ないから安心してよ。」壁から剥がれかけていたポスターを伸ばしながら言った。「んで知ってんだよ…」「僕は長生きだからね。そもそもオールドタイプのコアじゃ脳波による制御は出来ないし、外付けのコンピュータ付けるくらいなら新型にプログラムを組み込んだほうが数倍安上がりだよ。」「アンタ…なんで内容まで知ってんだよ」「これは企業同士の戦争ですから。」ゆっくりと後退りする倉瀬は背後からのその声に引き留められた。「碇君、ご苦労さま。」「こんなの台本にありませんよ。アドリブはよしてください社長。」「説得だよ!」「そうですか?脅しに見えましたが。それはそうと社長、こちらを。」碇は鞄から紙の資料を取り出しそれを光流に渡す「取引先はやはりギャングの手の者です。」「じゃあ全部無し。用意してた契約書も全部破棄ね。」「それと…これは貴方に。」碇が鞄から取り出したのは1台のタブレット端末だった。「き、急になんだよ…ってこれ、なんで俺の――」「雇い主に借金を返すためにひたすら試合をする、それも3年間。ですが利息分も全部回収されていますね。では、貴方を縛るものは何か。」「脅しか?何が欲しい。」強がる倉瀬を見た光流はくすっと笑って「キミが欲しい。」そう言った。
「そもそも鼻につくんだよね〜。利益のために選手を使いつぶしたりさ、人の苦労を簡単に踏みにじる奴だし。ま、会ったこともないんだけどね。」「何が言いたい。」「法が機能しない以上、司法で裁くことはできない。じゃあメタコンて潰すしかないでしょ。」光流は倉瀬に右手を差し出す。「なんでそんな簡単に言えるんだよ」「できるから、じゃ不十分かな?」「俺には彼奴等への恨みとかねぇぞ。」「これは清掃だよ。目障りな輩は全部排除する。それがボクなりの道理だよ」「思ったよりも乱暴なヤツなんだな、アンタ。」倉瀬は光流に背を向けた。「俺はもう乗る気はねぇぞ。」「乗るかどうかは後で決めればいい。これはボクのチームに入って欲しいって話だからね。」「お断りだね。」「…キミの妹さんを探すのも手伝ってあげられる。」そのひと言で倉瀬は完全に固まった。




