焔の終わり
「キミの妹を探すのも手伝ってあげられる。」光流の言葉は嘘には聞こえなかった。これまで感じていた薄く軽い言葉とは違うものを感じた。この男は本気で自分を引き込もうとしている。
倉瀬克己には分からなかった。自分達に負けた人間を、自分達よりも立場のない人間を、なぜ脅してまで欲しているのか。混乱と恐怖で温い汗が滲み出る。ただ怖かった、底しれぬ闇を感じていた。自分のすべてを見透かされ、掌の上に転がされているような恐怖だった。
倉瀬克己には妹がいた。スラム出身でありながらも1本の細く小さな希望を抱いていた。青い空を眺めては鳥に憧れている、そんな少女だった。名前を華純という。
2人は8年の歳月を共に過ごした。華純が生まれてからの8年間が唯一の時間だった。法や政府の機能が失われてから、ギャングや海賊が横行した。貧乏な生まれの女子供はかつての大昔にされたように、奴隷として売りに出された。
克己の父親は華純と母を奴隷として売った。
程なくして克己の目の前に母だった死体を投げ捨てられた。
克己は怒りのまま父親を殴り殺した。そして自分の喉を切ろうとしていたところをギャングに拾われる。
そこからの13年間は働き、売られ、買われて、働きを繰り返して、数刻前までとある研究所に雇われていた。
克己は妹のことを何処か諦めていた。
「知らないんでしょ?どこにいるのか。」光流の声はさらに重みを増した。
「アンタなら…見つけられるんだな…」倉瀬の心は不安と安堵と喜びでグチャグチャになっていた。自分のことを調べ尽くしたのならば、もしかすると――
「約束する。」
克己はその言葉に賭けることにした。
表彰式に光流の姿はない。美娘は幸い最後の番だった。
無事に大会は幕を下ろし、空はもう真っ暗になっていた。
「あっという間に終わっちゃった…」美娘は実感のわかない様子だった。「あんなやられ方されちゃ、心も折れちまうな。」克己は美娘の肩をポンと叩いた。「それは…ごめんなさい?」「謝んじゃねぇよ。恨んじゃいねぇし。」「でも…」「ん?」「楽しかった。」「そりゃどうも。」
「さてと、熱烈なファンがお待ちだよ。」光流は入場口で待っていた。「とは言っても時間ないし見つからないように出るよ。碇君、地下エレベーター抑えてある?」「はい、すでに手配済みです。いつでも出せますが」「じゃあ行こうか、倉瀬克己君。」光流は帽子を深く被った。「ちょっと待って…なんでこの人も?」美娘は突然の発言に少し戸惑っていた。「いろいろあるんだよ。キミもしばらくは休暇にするから、休んでおいて。…というか休暇にせざる負えなくなった。」「…そう。わかった。」「聞かないんだな、理由。」「聞いた所で意味はないもの。」「…何か寂しいな、お前。」克己の目に美娘は孤独に見えた。「そう。ただ、信頼してるって言うのもあるけどね。」「好きか?アイツのこと。」「まさか。万に一つもあり得ない。誂うのはよして。あんまり馴れ馴れしいとモテないわよ。」美娘の表情はずっと硬いままだった。




