倉瀬克己という男
「何があっても被弾だけはしちゃダメだからね。」「無理言わないで。」「無理じゃないと判断したから言ったんだよ。」「はぁ…」
休憩室で昼食を取りながら光流が作戦の説明をする。試合というのも忘れるほど、日常の会話のようなノリだった。
「防御力なんてはなからないんだから…レイヴンは機動力特化、被弾前提の立ち回りはできない。つまり無傷が絶対条件。」「そんな事ないと思うけど…」大げさに話す光流は真剣な顔だった。
機体名クライスクリーム、倉瀬克己。みんなの嫌われ者。
「悲しい悲鳴…ってか意味重複してんじゃん。」
克己はいつも1人だ。
選手控室は全選手共有ではあるが使う人は少ない。大抵の会場では掃除が行き届いていないため、そういったイメージが選手に刷り込まれているのだ。
克己のただ一人がいる控室の扉が開いた。
「ここ控室であってる…よね?」美娘が扉から顔をのぞかせる。「あってるけど…アンタも選手か?」「あ、はい。」「よく控室来れたな。」「え?」「普通の奴は控室来ねぇんだよ。」「え?」「どうしてここに?」「その…うちの監督がしつこくて。」「うざったいから逃げてきたと。」控え室は綺麗に整理整頓されており、一番奥のロッカーだけ閉めてある。「試合は、まだなのか?」「第三リーグなので、このあとです。」「そうかそうか!じゃあ決勝で待ってるぜ。」「って事は第二リーグまでで勝ち抜いてるってことか…」「そ、アンタ見てねぇのか?俺の試合。」「えっと、その、どの試合で?」「はぁ…ほら、滅茶苦茶ブーイング受けてた。あれが俺。」「へ、へぇ…」お互いに言葉が出てこなくなった。そう、気まずいのである。
「その…なんであんなにブーイングを?」「不意打ちとかカウンターばっかりしてたら、あの有様。」「あはは…」
再び口数が減った。つまり、気まずいのである。
「なんで不意打ちを?」「……勝ちたいから?」「勝つだけならそんな事しなくても…」「簡単に勝てないからやってんだよ。」「でも、見てる限りそんなに苦戦してるようには…」「ここじゃ苦戦はしねぇよ。ただ、決勝はわからねぇ。使わざるおえなくなるかもしれん。」「不意打ちを?」「いや、この話は終わりだ。ほら、時間もうすぐだろ?」「え?あ!じぁあこれで!」




