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異世界からお家に帰りたいサクヤは、大切なものも手放したくはない  作者: 夜凪


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9/12

9 駄々こね子ライオン VS 大人の事情

 美味しかったけど、いまいち何を食べたのか覚えていない会食を終えた頃には、結構な時間が立っていた。

 正直疲労感半端ない、ので帰りたい。

 けれど、ここでまた引き留める強敵が出現した。


 ひと眠りして目が覚めた双子である。


 最後のデザートはなんと生クリームたっぷりのケーキだった。

 あったんだね、生クリーム!

 市場に牛乳が売ってあるのは知ってたけど高級品で、手がでなかったんだよね。


 しょうがないからヤギを飼っているんだけど、独特な匂いが苦手で・・・・。

 絞れる量に限りがあるのを幸いと、「栄養あるから」とチビ優先で回しているので思いつきもしなかった。


 久しぶりの生クリームスイーツに感動してたら、再び隣からケーキの皿を押し付けられるハプニングがあったけど、なんなんだろう?

 食いしん坊キャラと思われてる?

 いや、ありがたくいただきますけどね?


 なんて思いつつ堪能してたところに、双子が駆け込んできたんだよ。

 お風呂でも入ったのか、ピカピカに磨かれてシンプルな白いワンピース姿で駆け寄ってくる姿はとても可愛かった。


 けど、良家の子息令嬢としてはアウトだったんだろうね。

 皆さん、バーンッと開けられた扉に目が丸くなってたから。


「おや、二人とも目が覚めたのか?」

 そんな中、動揺1つ見せず嬉しそうに目を細めたラディ―ンさんはさすがお父さん。

 だけど、子供達を迎え入れるために立ち上がり両手を広げた姿のまま、固まっちゃったのはごめんなさい。


 双子が飛びついてきたのは私だったんだよね。

 完全に油断してたから椅子ごと後ろに倒れそうになったんだけど、横から伸びてきた二つの手が素早く支えてくれた。


「「サクヤ!よかった!!まだ帰ってなかった」」

 二つ?って疑問は半泣きの叫び声にかき消された。

 よく見たら、二人とも髪がしっとりと濡れてるんだけど……。


「どうしたの?そんなに慌てて」

 とりあえず、半べそなのは突っ込まないで、二人の頭を撫でながら顔を覗き込んだ。


 ついでに、魔法を発動させて髪を乾燥させてみる。

 湯冷めして、風邪でもひいたら大変だ。

 フワリと温かな風が双子の髪を揺らして水気を飛ばす。


「今のは……」

 突然の魔法の気配に一瞬身構えたらしいレフィールさんが、驚いたように目を丸くする。


「風と火の複合魔法だよ。スラムでは、風邪ひとつひいただけで命にかかわることもあるからね」

「そんなことに魔法を……」と言いたそうな大人たちの目に、先に答える。

 寒い季節に、濡れた髪を悠長に暖炉の前で乾かせる人ばかりじゃないんだよ。


「サクヤ」

 どうも、無意識にきつい目になっていたみたいで、慰めるように片方の手が背中を撫で、名前を呼ぶ。

「……ん。大丈夫」

 小さく答えて、意識してとがる気配を弛める。


「で、どうしたの?二人とも。お風呂に入っていたんじゃないの?」

「だって、サクヤが帰っちゃうって言うから!」

 改めてしがみついている二人に目をやれば、逃がさないというようにギュウギュウと腕を抱え込み、グリグリと額を擦りつけてくる。


 マーキングじみたそのしぐさも獣耳ついた子供がすると可愛くてほっこりする。けど……。

 困ったようにアデルたちと顔を見合わせた。


「あ~~、シェーン、キャス。二人は無事にお母さんたちの所に帰れたし、この食事が終わったら俺たちも自分の家に帰るんだよ」

「いやぁ~~!!」

「帰っちゃダメ~~!!」


 途端に、二人の鳴き声が響く。

 ウワ、そうきたかぁ…。


 何があったかは詳しく分からないままだけど、二人きりで怖かったところを保護して優しくされて。

 そりゃ、小さい子なら依存しちゃうよね。

 正直、拾ったばかりの子供にはよくある行動だし、気持ちは分かるんだけど……。


「二人には、もう護ってくれる大人がたくさんいるだろう?」

 少し硬い表情で、アベルが声をかける。

「俺たちが帰らないと、みんなが困るんだ」


 そうなんだよね。

 私はもちろんアベルもチェーンも、メンバーの中では中心人物で、いなくなったからと言ってすぐに困窮することはないけれど、残された皆はかなりの苦労を強いられることだろう。


 まぁ、そうじゃなくとも、あの場所に帰らないという選択肢はない。

 私が拾い上げて、みんなで作り上げてきた家で家族なんだから。


 だけど、アベルの言葉に双子の泣き声は一層悲壮感を増し、周囲を囲む大人たちの気配が刺々しいものに変わる。

 正確には、二人を追いかけてきた侍女さんや騎士さん達、ではあるけれど。


 仕えている主の大切な子供たちを泣かす悪者、に見えるんだろうな。

 スラムの孤児が、ずうずうしい、とか?


 ヤバい。イライラする。


 理不尽に扱われることに慣れてきたとはいえ、納得しているわけでも受け入れたわけでもない。

 踏みつけられれば痛いし、ののしられれば心がきしむ。


 そして、口をつぐんで大人しくしているとさらに理不尽にさらされる世界だと、私はもう知ってしまったから。

 例え不利になろうと、仲間を守りたいなら、声をあげなくてはいけないんだ。


 だけど、いざ口を開こうとした時、パンパンッと手を打ち鳴らす大きな音がした。


「そこまで。おまえたち。私の大事な客人に失礼な目を向けるな。二人は私が預かるから、速やかに外に出て、扉を閉めろ」

 低く良く通る声が、その場を支配する。

 それは、先ほどまでの温和な表情が嘘のように険しい目をしたライディーンさんの声だった。


 声に込められた何かに反応したように、双子を追いかけてきた人たちがびくりと体を震わせ、硬い表情で頭を一つ下げると無言で部屋の外へと出ていった。


 ついでに、腕の中の子供たちもおびえたように耳を倒し泣き声を飲み込む。


 静寂を取り戻した部屋に、子供たちのしゃくりあげる微かな声だけが響く。

「……キャス、シェーン」

 気まずい沈黙の中、二人の名前を呼んだ。


 一杯に涙をたたえた二対の瞳がすがるように私を見上げてきて、その美しさに苦笑する。

 ほだされてあげたいけど、守りたいものが、私にはほかにもたくさんあるんだよね。


「二人にはお迎えが来たけど、お家にはほかにも子供たちがいるんだ。俺が守らなきゃ」

 そっと、慰めるように双子の髪を撫でる。

 サラサラの指どおり。ふわりと香る香油はきっと私には一滴も手にいれる事ができない高級品なんだろうな。


「そうだな・・・・。二人が大きくなっても、街の片隅にはああやって肩を寄せ合って生きている人間がいるんだってこと、覚えていてくれたらうれしい。そして、もし余裕があれば、そんな人たちを助けてあげて?」

 きっと二人は、そういう力を持つ大人になる家に生まれたはずだから。


 言えない言葉を飲み込んでにこりと笑えば、別れの気配を敏感に感じ取った双子の目からポロリと涙がこぼれ落ちる。

 それでもあきらめきれないのか、いつの間にか隣に立っていたアベルとチェインを振り仰いだ双子に、アベルは無表情のままチェインはどこか痛むようん表情で、それでも静かに首を横に振った。


 どうしたって、交わらない道はある。

 いくつかの奇跡が重なった一瞬交差したとしても、すぐに分かれてしまうのだ。

 だけど、この別れは幸せへの旅立ちだと知っているから、私たちは迷いなく手を離すことができる。


「大丈夫。二人を見つけるために、国を揺るがすほどの人達だもの」

 少し笑いながら立ち上がる。

 うん、二人同時に抱き上げるとさすがに重いなぁ。


「確かにお返ししました」

 それでも何でもない顔で進むと、黙ってこちらの成り行きを見守っていたお父さんへと二人を渡す。

 双子はしょんぼりと顔を俯けながら、それでも素直にお父さんの腕の中に移る。


 二人だって、どうしようもないことだって分かってるんだよね。

 だって短い間だったけど、一緒に生活してたんだから。


 自分よりも幼い子供や、けがや病気で一人では生きていけない子供がいる事も知ってるし。

 できる事はするってのがルールだったから、お洗濯や掃除だっていっぱい手伝ってもらってた。


 だから、当然あの場所の誰がリーダーだったかも知ってるし、私たちの役割だって幼いなりに理解していたはずだ。

 だけど、突然の変化にパニック起こしちゃったんだろうなぁ。


「礼の言葉も素晴らしいもてなしも受けました。これ以上、未練がでる前に自分たちの居場所へとお暇しよう思います」

 空になった腕の軽さを少しだけ惜しみながら、私はこの国での最上の礼をとる。


 両手を開き腕を交差させるように胸に乗せる。そのまま両ひざをつき、腰を曲げずに、顔はあげて瞳を閉じる。ちなみに腰を曲げて頭を下げないのは上体を倒すことで手が見えにくくなるから、だそう。

 あくまで、私は無手で抵抗の意思がありません。を強調する姿だそう。


 礼って、頭を下げるのが普通だと思ってたからかなり不思議だったんだけど、隠れて呪文を詠唱しないように口元をさらす必要があるんだってさ。

 魔法使える世界独特だな、ってびっくりしたよ。


 最初にこの礼を教えられた時、まるで罪人のようだと思ったのは秘密だ。もしくは殉教者。

 でも、私、無詠唱でも魔法使えるんだよね。

 カリオンさんに秘密にしておけって厳命されてるから、適当な呪文唱えてるけど、それも独特らしくって結構驚かれる。


「立ちなさい。君がそんな礼をとる必要はない」

 そんなことをつらつらと考えてたら、ふいに背後から誰かに腕をとられ立ち上がらせられた。

 驚いて振り仰げば、まるで苦虫をかみつぶしたかのようなレフィールさん。


「一体だれが、君にそんな礼を教えたんだ」

 唸り声のような低い声で誰何されて、その迫力にびりびりと肌が総毛だつ。

 こわっ!


「いや、誰って……。偉い人にはこの礼をとるようにって。この国では一般的というか……」

 しどろもどろに答えると、さらに眉間のしわが深くなり凶悪な顔になった。


「……この国の貴族どもは本当にろくなやつがいないな。………殺してやりたい」

 最後の方はあまりにも低い声過ぎて聴きとれなくて首を傾げる羽目になったけど、それよりも、手を離してもらえないだろうか?


 伝わる怒りが神経を刺激して辛い。

 無意識に体が恐怖で震えてくるんだけど……。


「レフィール、サクヤ殿が苦しんでる」

 そろそろ意識が遠のきそう、と思ったところで助け舟がでた。


「すまない!君に怒りを向けたわけでは!!」

 焦ったような声と共に怒気が霧散して、手が離される。


 けど、ちょっと遅かったかな?力が入らなくってカクンと膝が折れた。


「「サクヤ!」」

 無様に転がりそうになった体を間一髪支えてくれたのはアベルで。

 いつの間にか、チェインの背中にかばわれていた。


「………なんで、大人はいつもいつも、俺たちを傷つけようとするんだ」

 少しかすれる意識の中、目の前の背中が小さく震えているのを見た。

 噛みしめるような声は小さくて、私達にしか届かなかった。


「チェイ「ふざけんな!!」

 なだめようと呼んだ名は、それ以上の怒声にかき消される。


「結局は嘘ばっかりだ!俺たちが何をしたってんだよ!!ただ、泣いてた子供を助けただけだ!!それなのに……。それなのに………!!!」

 聞いているだけで胸が痛くなるような悲痛な声がその場の空気を切り裂いた。


「それは」

「うるさい!もう聞きたくない!大人は嘘ばっかりだ!サクヤを傷つけるやつらなんて、みんないなくなればいい!!」

 慌てたように何かを告げようとした誰かの声を引き裂くように、チェインが叫んだ時、ブワリとその体から何かが噴き出した。


お読みくださり、ありがとうございました。



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