↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界からお家に帰りたいサクヤは、大切なものも手放したくはない  作者: 夜凪


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
10/12

10 魔力暴走を治めよう

「魔力が!」

「暴走か!?」

 焦った声は誰のものだったのか。


 吹き出した魔力の渦に弾き飛ばされながらも、アドルが私の体を庇うように抱きしめる。

 そのまま壁に叩きつけられそうになったけど、そのアドルごとレフィールさんが受け止めてくれた。


「大丈夫か?」

 心配そうに覗き込んできた瞳に、どうにか薄れそうになっていた意識を引き戻す。

 力の抜けていた手足も、驚き過ぎたせいか復活したみたいだ。


「平気・・・・です」

 すっぽりと包み込んでしまいそうな大きな体を押し返すようにして体を起こす。

 一足先に腕の中から逃げ出していたアドルが、腕を引いて立ち上がるのを手伝ってくれる。


 名残惜しそうにわずかに伸ばされたレフィールさんの手は、私に触れることなく下に落ちた。

 なんでそんなにションボリしてるんだろう?


「すまない。俺のせいで彼が……」

 その疑問はレフィールさん自身の言葉ですぐに解消されたけど、それに対して反応を返す余裕はなかった。


 指し示された先、人の輪の中心にチェインがいた。

 グルグルと渦巻く可視化された魔力の中央、歯を食いしばり、自分を抱きしめる様に蹲っている。

「チェイン!」

 驚きに目を丸くしたアドルが駆け寄ろうとするのを、かろうじて腕を捕まえて止める事に成功する。


「なんで止めるんだよ!」

「落ち着けって。そのまま行っても、魔力に弾き飛ばされてさっきの二の舞だよ」

 毛を逆立てた猫みたいに声を荒げるアドルの肩をなだめる様にポンポンと叩いた。

 じっと目を覗き込むと、興奮で荒れていた息が少しずつ落ち着いてくる。


「……ごめん、もう大丈夫」

 最後に大きくひとつ深呼吸したアドルの頭をポンと撫でる。

 立て直しが早いね。さすが、我らが参謀役。


「で、これって何?」

 考えていた事が表情に出ていたみたいで、いやそうな顔でアドルが頭を撫でる手を払う。

 グループの体制が整ってきた辺りから、人前で子ども扱いされるの嫌がるようになったんだよね。

 まぁ、人をまとめる立場にいるんだって自覚がでたのいいことだけど、ちょっと寂しい。


「魔力暴走だよ。アドルも一回やっただろう?……って、覚えてないか。熱出して朦朧としてたもんな」  

 不思議そうに首を傾げるアドルに苦笑する。

 あの時は私も初めてだったし、結構大変だった。


「もともとチェインは潜在魔力が多かったから、そろそろきちんと扱い方を教えなきゃって思ってたところだったんだよね」

 思考が横滑りしそうになっているのに気づいて軌道修正しながら、改めてチェインへと目を向ける。


「思ったより激しいな。火と風かな?いい組み合わせだね」

 チェインを中心に渦巻く魔力を鑑定して、ニンマリ笑みが漏れる。

 生活するうえで火の魔法はかなり使い勝手がいい。火種いらずだしね。






 さて、ここでちょっとこの世界の魔法談義だ。


 魔法ってのは魔力を使って様々な現象を引き起こすことで、魔力は自分自身がもともと持っているものと世界に自然に存在するものの二種類がある。

 とはいえ、大気から魔力を取り出せる者はごく少数で、たいていが自分が生まれつき持っている魔力を使う事になる。


 ちなみに大気から魔力を引き出すことができると、大魔法使いと呼ばれる存在になる。

 なにしろ理論的には無尽蔵に魔力が使える事になるわけで、何そのチート、って感じだよね。

 まぁ、実際はそんな簡単な話じゃないけど、そこら辺は今は関係ないから割愛。


 基本属性は火・水・風・土・光。

 大抵一つか二つの属性を使いこなす事ができる。たまに三つ。四つ以上になると非常に珍しく、全属性使いこなせれば伝説になれる。


 ご想像通り、私は全属性もちなんだけどね。

 強引に転移させられて苦労してるんだから、それくらいのチートは貰ってしかるべきだと思うの。

 ちなみに魔力量も無尽蔵に近いみたい。

 一応、枠はあるんだけど、今のところどれだけ使っても魔力切れを起こしたことはないから、まぁご察しだよね。


 面白いのは、魔力は血に宿るとされ、平民にはほとんど魔力持ちは出現しないと言われている事。

 稀に平民でも魔力持ちが出現することがあるけれど、それは大抵どこかの貴族のご落胤だったり、何代か前に貴族の血が入った先祖返りなんだって。


 血に宿るってのが嘘じゃないんだろうなって思うのは、平民の中では魔力量が多い子はほとんどいなかったってこと。

 たまに町で見かけた貴族は、少なくとも平民の潜在魔力の三倍から四倍くらいはあったからね。

 ちなみにキャスたちは幼子ながらすでにそれくらいはあるし、そのお父さんや部下の人たちは目を見張るほどだった。


 きっとかなりの使い手だと思う。

 魔力量だけなら負けないんだけど、やっぱり訓練とか経験とかも影響あるんだよね。

 部下さん達なら一対一でも負けないと思うけど、お父さんを出し抜くのはたぶん無理だし、私の師匠であるカリオンさんには秒で負ける自信がある。魔力でごり押ししたら一分くらいは持つかも?


 話しがずれた。

 そんな中で、チェインも現時点でキャスたち以上に魔力持ってたんだよね。

 たぶん、何かの獣人だったというお父さんが貴族だったんじゃないかなと思う。


 この世界の魔法事情でもう一つ面白なって思ったのは、子供は基本的に魔法が使えないってことだ。

 魔法を使った時の反動に体が耐える事ができず怪我をしてしまう可能性があることと、精神が未熟だと魔力が乱れやすく危険なので、幼子を守るために、この世界の神様がしかるべき時まで使えないようにしてくださっていると言われている。


 だからこの世界の子供達は十歳になると、教会に行って属性を鑑定してもらい、神様に祈って魔力を開放して貰う。

 一応、平民でも鑑定は受ける事ができるから、裕福な家の子供は宝くじを買う感覚で受けたりする。

 ここで適性を示せば、教会の保護の元教育を受ける事ができるし、魔力量によっては貴族の養子になることも夢ではないからだ。


 でも、そもそもあるかどうかも分からない魔力を鑑定するために安くないお金を支払える平民はそれほど多くはないし、孤児ならば言わずもがなだ。

 ていうか、神様の保護を外すのにお金とる教会ってどうなんだろう?

 世知辛い。


 だけど何事にも例外ってものはあるわけで。

 わざわざ教会に行かなくても、魔法が使えるようになる場合がある。


 それが、予期せぬ魔力暴走だ。

 神様の加護をもってしても抑えられないほど、膨大な魔力を持って産まれてしまった子供が、成長と共にさらにその量を増やし、何かのきっかけで弾けさせてしまう。

 だいたい命の危機とか、激しい感情の爆発が原因みたいだけどね。


 暴走した魔力は、いうなれば方向性を持たない膨大な力だ。

 それを放置すると、周囲や自分自身を破壊してしまうため、周囲に魔法を使える人物がいてうまく収める事ができないと最悪死んでしまう。


 で、チェインはもともと潜在魔力が多い子供だったんだよね。

 初めて会った時は死にかけていたから気づかなかったんだけど、元気になってきたら魔力もグングン溜まってきてびっくりしたもの。

 というか、潜在魔力が高かったから体が丈夫で、私に会うまで生き伸びられていたんだと思う。





「神様の加護だけじゃ危なさそうだったから、私も気にかけてたんだけど、予想以上に魔力の増加が多かったみたいだね。で、今回のストレスで弾けちゃったっと。失敗失敗」

「軽いよ、サクヤ」

 肩を竦めて見せれば、アドルが何とも言えない微妙な表情でつぶやいた。


「そんなのんびりしている場合か?このままじゃ魔力枯渇を起こして危険だぞ?」

 隣でアドルへ向けた魔力暴走の開設を一緒に聞いていたレフィールさんが心配そうに眉を寄せている。

 手を差し伸べたくても、そもそも敵認定されている大人達は、暴走した魔力に阻まれて近ずくこともできないようだった。

 無意識だからこそ、暴走した意識は敵へと向かいやすいのだ。


「少し弱ったほうが抑えやすいから、もうちょっと待とうかと思ってたんだけど」

「サクヤ」

「は~い」

 苦虫をかみつぶしたような顔のアドルに名前を呼ばれて、素直に白旗をあげる。


「チェイ~ン、お家帰ろう」

「おい!危ないぞ」

 スタスタと何の構えもなくチェインに近づく私を、周囲が慌てて引き留めようとする。


「『結界』」

 伸ばされた手をかいくぐると、小さくつぶやいて自分とチェインを囲むように結界を発動させる。

 吹き荒れていた魔力が結界に阻まれて、中で渦巻いた。


「サクヤ!なんだこれは!?」

 当然部屋への被害は治まったけど、駆け寄ろうとしたレフィールさんが結界に阻まれて、驚いたようにバンバンと結界を叩いて叫んだ。


「ちょっと、結構衝撃来るから、それ止めてくれる?」

 徐々に叩く力が強くなってるのか、音がうるさい。

 例え全力で殴られたところで壊れたりしないけど、むしろレフィールさんの手が壊れないか心配になる。

 て思ってたけど、あれ? 結界が揺らいでない? どんな馬鹿力だよ?


「俺がチェインの魔力で傷つくことは絶対にないから、静かにして! アドル、その人結界から引き離してくれ!」

 壊れたりはしないと思うけど、念のため止めてもらうよう声をかける。

 あ、お父さんたちが宥めてくれてようやく止まった。けど、なんでそんな死にそうな顔してるんだろう?


 ちょっと気にはなったけど、とりあえず優先はチェインだよね、と改めて向き直る。

 暴走する魔力に引きずられてるみたいで、チェインが辛そうだな。

 体から強引に魔力が引き出されていく感覚はかなり苦しいんだよね。


 経験済みだから分かる。


 この世界に来て、カリオンさんに鍛えてもらっている時に、ちょっとしたきっかけで不安定になった魔力が暴走した事があったんだ。

 あの時は、気を失うギリギリまで放置されて、本当に死ぬかと思ったもんね。

 カリオンさん、スパルタすぎる。


「チェイン、私は無事だよ。みんなも待ってるよ。早く戻っておいで」

 優しく声をかけながら、そっと側に近づいて手を伸ばす。

 けど、バチリと魔力が私の手を弾いた。


「許さない……みんな、敵………」

 うつろな瞳がこっちに向けられる。

 たぶん自我はほとんどないんだろう。

 苦しい過去の記憶にとらわれているのかな。頬を涙が伝ってるのが見えた。


 チェインを拾ってしばらくして、元気になってきた頃に昔の話をしてくれたことがあった。

 物心つくころには、貧民街で母親と二人で暮らしていたこと。

 貧しいけれど、母親が愛情いっぱいに育ててくれたこと。

 父親は優しくて強い人だったと、一言も恨み言など聞いた事がなかったこと。

 体を壊して弱っていく母親を守れなかった後悔と、亡くしてしまった悲しみ。


 もしかしたら、母親が倒れた時の記憶と私が倒れた姿が重なったのかもしれない。

 それは、とてもつらい記憶だったはずだ。

 そして今、その記憶にチェインは囚われているのだろう。


 端的に言って、イラッとした。


 だって、それってあれくらいで私が負けるって思われたってことだろう?

 確かに、ちょっと威圧に圧倒されてよろけたりしたけど、別に大したことなかったし。


 もっと危ない目にあった事あるし、それもちゃんと対処してきたの、知ってるはずなのに。

 もっと信頼してほしい。てか、信頼してもらえてるって思ってた。


 分かってる。

 これは勝手な八つ当たりだ。


 親という絶対的な庇護を無くして、死にそうな孤独(精神的にも物理的にも)を経験した子供ってのは、ちょっとしたことで揺らぐんだ。

 だから、幼(・)い(・)け(・)れ(・)ど(・)体格的にはもう十分に大きくなったチェインに、まだ早いかもと魔力の使い方を教えるのをためらっていたんだから。


 だけど、やっぱり勝手に心配して勝手に動揺して、気を付けていたはずなのに魔力暴走まで起こされたら、ちょっとイラッとするよね。

 まぁ、いろいろ頑張ってるけど、私もまだ十代だし?


「目を覚ませ、チェイン! お前を拾った私が、そんなに弱い人間に見えるか?! 勝手に決めつけて動揺してんじゃないよ!」

 うつろな瞳を向けるチェインの頭に、力一杯に拳骨を落とす。ちなみに頑丈な獣人対策で身体強化付きだ。

「「「は?なんで?!」」」

 突然の暴挙に背後から驚愕の声が聴こえた気がするけど、知らない。


「サクヤ……もうちょっと他にやり方があるだろ……」

 呆れたようなアデルの声も聞こえた気がするけど、それも知らんぷりさせてもらう。

 衝撃に崩れ落ちた体を、問答無用で抱きしめた。


「チェイン、私はここにいるよ。傷ついてなんかいないよ。お家に帰ろう」

 ぬくもりが伝わるように、力の限り抱きしめる。

 体の大きさはもうそんなに変わらないけど、私にとってチェインはいまだに護るべき存在なんだから。


 固く縮こまる体を抱きしめて、どれほどの時間がたっただろう。

 そろりと私の背中に巻きつく感触を感じた。

「………サク……ヤ」

 やっと耳が拾えるほどの小さな声。


「うん。おかえり、チェイン」

 ギュッと抱きしめる腕にさらに力を籠めれば、恐る恐る添えられていただけのチェインの腕にも力がこもった。


「俺……おれ………」

「大丈夫。問題なんかないよ。心配してくれて、ありがとうな」

 震える声に、なんでもない事のように明るい声で返す。


「ちゃんと連れて帰るから、寝ていいよ。疲れただろう?」

 放出した魔力は同時に体力を奪っていくから、きっと今チェインは意識を保つことも難しいはずだ。

 そっと頭を撫でてやれば、フニャリと笑みを返して、素直に目を閉じた。


 クタリと力の抜けた体を抱きとめながら、さてこの後どうしようかなと、少し途方にくれる。

 吹き荒れた魔力の影響で、綺麗だった部屋の中はぐちゃぐちゃだ。

 窓ガラスは割れているけど、かろうじて壁は崩壊していないし、これくらいなら、どうにか弁償できるかな?


 とりあえず、腕の中ですやすや眠るチェインの、どこも損なわれていなさそうなことに安堵しながら、改めて辺りを見渡せば、あっけにとられたような顔の数々。

 あぁ……、やっちゃったかな? 最悪、奥の手を使うしかないかな?


「とりあえず、この結界をといてもらおうか?」

 今後の対処を考えていたら、コツンと結界が叩かれる感覚がした。

 そちらに顔をあげると、どこか面白がっているようなライディーンさんが立ってた。


「あ~、まずはこの閉じ込めてる魔力、どうにかするんで待ってくださいね」

 これ以上被害が広がらないようにとチェインの魔力は結界内に閉じ込めたまま、グルグルと私たちの周囲を回っている。

 行き場を無くした力の塊みたいなものだから、このまま結界をといたら鎌鼬状の風になって周囲を傷つけかねない。


「チェインに戻してもいいけど……負荷がすごそうだな」

 チラリと結界の外に目をやれば、何が始まるのか興味津々の顔が並んでいた。

 手の内さらすのは嫌だけど、まあしょうがないか。

 どうせ魔法が使えるのはばれているわけだしね。


「『集約』」

 手を上に掲げて呟けばグルグルと周囲を回っていた魔力の流れが変わる。

 スルスルと手の中に吸い込まれるように丸まって、最後にはバスケットボールぐらいの球体になった。


「まだ大きいなぁ。『凝縮』か~ら~の『結晶』」

 両手に包み込むようにして、力を込めて小さくつぶやいたとたん、手の中の魔力の塊がギュッと小さくなってパキンっと澄んだ音を立てて固まった。


「お~~、綺麗な結晶になったね」

 手の平の上には赤と青のマーブル模様の綺麗な球。元々の量が多かったから凝縮させても直径五センチくらいはありそう。


「……それは何をしたんだ?」

 面白そうな顔をしていたライディーンさんだけでなく、他の人たちの顔も驚愕って感じに目が見開かれてるんだけど。

 その横ではアドルが、しょうがないと言いたげに肩を落としてる。


「魔力を固めて結晶化させたんです。やりません?」

 普通やらないんだろうなぁ、と思いつつも、あえてなんでもないことのように言い放って、キョトン顔で首を傾げてみせた。必殺「俺なんかやっちゃいました?」

 これで誤魔化されてくれないかなぁ?


「……いや、出来ないだろう」

「…………ですよね」

 長い沈黙の後、ポツリと呟かれた言葉に肩を落とした。


 一難去ってまた一難。

 面倒くさい事になりそうな予感しかしないね!



お読みくださり、ありがとうございました。


説明及びサクヤのチート披露回でした。

ご都合主義?自覚ありますとも。

困った時の夜凪の合言葉は「ファンタジー万歳」です

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。