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異世界からお家に帰りたいサクヤは、大切なものも手放したくはない  作者: 夜凪


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11 速やかに退却~~!……できない、だと?!

 魔物から採れる魔石は、魔道具を動かす原動力になる。

 魔力を使う事の出来ない平民にはありがたい道具で、最弱の魔物から採れる小指の先ほどのクズ魔石と呼ばれるもので使える火付けの魔道具なんかは、大抵の家庭に置かれているはずだ。


 とはいえ、魔物から採れるという事は危険を犯して討伐している人たちから買い取っているわけで、明日のパンにも困る貧民やスラムの孤児には当然手がでない。


 私がいれば火くらいいくらでもつけてあげられるけど、そうじゃない時は、火つけ石を使って苦労して火を起こすしかないんだよね。


 魔物を狩ってきてもいいんだけど、そこまで行く労力を考えると面倒で、自分の魔力をどうにか他に使えるようにできないかと考えたのが、魔力を結晶化させた始まりだった。


 発想は単純。

 魔物の力の源が魔石だというなら、魔力を圧縮して人工魔石ができるんじゃないかな?と思いついたのだ。


 まぁ、最初は力加減が分からなくて暴発させまくったけど。

 圧縮しようとした魔力が手の中で爆発したみたいになって、危うく手を吹き飛ばすところだった。


 だけど苦労したかいはあって、今では五属性の人工魔石が爆誕して、我が家は便利な魔道具ハウスと化してる。

 気分はオール電化。

 初お目見えした時、家主のお爺ちゃんが驚き過ぎて、顎が落ちそうになってたっけ。


 ちなみにどうやってお高い魔道具本体をゲットしたかって?

 基本は壊れて捨てられていたのを修理しただけですが、何か?

 原理?しらないよ?

 とりあえず、それも魔力のゴリ押しだったとだけ。

 流石にゴリゴリに魔力削られて、2〜3回ぶっ倒れたけど、後悔はしてない。


 嫌ぁ、だって初期の頃は特に動ける子が少なくて、一人で家事も介護も食事の調達も……ってやってたらとても手が回らなくてさぁ。

 使えるものは何でも使わないと共倒れになりそうだったんだよね。


 あまりにも便利道具に慣れ過ぎたら、いざという時に困るからって、今では少しずつ自分たちの手でするように変えていってるんだけどね。

 おかげで消費されない人工魔石が溜まってるのだけど。


 無駄に多い魔力を消費するためにも、眠る前にベッドの上でせっせと作ってたら習慣化しちゃってて、今でも無意識に作っちゃうんだよね。

 おかげで魔力操作の技術は爆上がり。

 人様の魔力操作なんて芸当もできるようになっちゃったんだけどさ。


 あ、ちなみに魔力暴走を収めたのはチェインで三人目だったりする。

 あらゆるものの流れつく最終場所であるスラムには、訳あり人間もいろいろいるんだよね。

 血に宿る……。

 本当に人って腐ってるな、っと痛感するね。


 そんな便利なエネルギー源となる魔石を、人工的に作れる技術があるって知られたらどうなるか?

 良くて強制労働、悪くて死ぬまで監禁で、ひたすら魔石製造マシン扱いってところじゃないかな?

 どちらにしても、搾取されるだけの未来だろう。


 この世界、身分によって命の価値がかなり違う。

 極端な話、貴族の機嫌を損ねただけで殺されても、平民なら文句も言えないんだよね。

 スラムの孤児なんて、言うまでもない。


 だから、ばれないように気を付けていたのに、今回お披露目しちゃったわけで……。

 やだなぁ。

 やりたくないけど、面倒が起きたらカリオンさんところに転移して逃げ込むかな?


 でも、あれって慣れてないと気分悪くなるし、子供達には厳しいかな?

 私も初めての時は、気分不良でヒールかけてもらえるまで動けなかったし、元気な子たちはいいけど病気持ってる子は耐えられなさそう。


 それに、せっかく苦労して整えた住環境を手放すのも嫌すぎるし、お爺さんはきっとついてきてくれないだろうなぁ。





「おーい、そろそろ戻ってきてくれんか?」

 つらつらと考えているうちに、意識がどっかにいてたみたいで、ひらひらと目の前で手を振られてようやく我に返った。

 ヤバい、偉い人放置しちゃったよ。怒られる案件?


「あ~~、すみません。ちょっと意識が飛んでました」

「いや、あれだけの事をしたんだ。魔力切れを起こしても仕方ない。疲れたんだろう」

 とりあえずに素直に謝罪すると、同情したような目を向けられた。


「恩人に礼をしたかっただけだというのに、魔力暴走させてしまうほどストレスをかけてしまうとは。その少年にも申し訳ない事をした」

 あげくに、私の膝を枕に眠るチェインにまでどこか痛むような視線を向けてくる。


 これは、もしかしてお咎めなしの方向で治まりそう?

 宿の一室をかなりめちゃくちゃにしちゃったから、弁償大変そうだな……って、ちょっと頭痛かったんだよね。他国の偉そうな人が使う高級宿だから、修繕にいったいいくらぼったくられるかと……。

 これは、ついに隠し財産に手を付けるしかないかと、覚悟してたんだけど。


 あ、大切な子供を保護した報酬、これに当ててもらえないかな? わたしには一財産でも、公爵様にはお小遣い程度だろうし。

 とりあえず、別にあれくらいじゃ疲れないけど、ここはその勘違いに乗っておこうかな。


「そうですね。チェインも眠っちゃったし、一度家に帰っても……」

 なんて、安易に乗っかろうとした自分を愚か者と叱りたい。


「そうだな。魔力暴走の後遺症も心配だし、すぐ医者を手配しよう。とりあえず部屋を用意するから、休ませてやるといい。その間に、この部屋も片付け被害状態を調べるように」

 ニヤリと笑ったライディーンさんが、パンパンと手を叩く。


「へ?あれ?」

 突然の言葉にあっけにとられているうちに、いつの間にか近づいてきた従者らしき人が、スルリとチェインを膝の上から抱き上げて運んでいく。


「え?いや、そんなご迷惑をかけるわけには!」

 慌てて立ち上がろうとしたんだけど、固い床の上での膝枕は思った以上に私の足にダメージを与えていたみたいだった。

 動いた瞬間に走ったしびれに思わずバランスを崩して倒れかけたところを、レフィールさんに抱きとめられた。


「サクヤ、君も疲れているんだ。少し横になったほうがいい」

「え?これはたんに足がしびれただけで」

 そのままひょいっと抱き上げられて、慌ててその腕の中から逃げようとするけれど、そんなに力入れられている感じでもないのに相変わらず逃げられない。


「お願いだ。あの少年が心配だというなら同じ部屋でもいい」

「いや、むしろあなたの顔色の方が悪いんですけど。なんでそんな決死の覚悟みたいな顔をしてるんですか?」


 腕の中にいる私を見下ろすレフィールさんの顔色は目に見えるほどに青白かった。

 おかげで強引に抱き上げられたことに、怒りがわくより先に戸惑いが生まれる。

 考えるよりも先に口をついてでた疑問に、レフィールさんがパチパチと二~三度目を瞬いた。


「そんな顔をしていたか?」

 意外な事を言われたというように首を傾げる様子に、なんだか毒気が抜かれる。

 そんなとぼけた様子もカッコいいんだから、本当に美形ってすごいわ。


「あ~、もう何でもいいです。とりあえずチェインの所までよろしく」

 抵抗するのも面倒になって体の力を抜いた。


 本当はしがみついた方が運びやすいんだろうけど、ちょっとした嫌がらせだよ。

 もっとも、がっしりした腕は揺らぎもしないからノーダメージっぽいけど。


「分かった。疲れているようなら、眠っても構わないから」

 というか、なんでか嬉しそうにほほ笑んでるんで、むしろこっちの方が精神的にダメージが……。

 てか、宿屋内の移動なんてせいぜい数分なはずなのに眠っていいってなに?

 私どこまで連れていかれちゃうの?


 あっけにとられているうちにも、レフィールさんはどんどん進んでいく。

 横目で確認したら、どこか呆れたような顔でついてくるアデルの姿。

 そうじゃん、アデルでいいじゃん。

 体格は私とそんなに変わらないからお姫様抱っこは厳しいかもだけど、背負ってもらえば問題ないだろうし。


「あれ? というか、足がちょっとしびれてるだけなんだから、自分で歩けるじゃん」

「いまさらそこに気づくかよ?」

 はっと目を見開いたら、アデルがため息ついて肩を竦めた。


「お~り~る!」

 反射的に体をのけぞらせて、反動をつけて腕の中から飛び降りる。

「うわ!なんかの虫っぽい」

 それを見てぼそりと呟いたアデルは、取りあえず殴っておいた。


「暴力反対」

「うるさい!薄情者!」

 我ながら子供の口げんか以下の低能なやり取りをしていると、そっとこちらに伸ばされる腕が視界の端に入った。反射的に、さっとアデルを盾にして逃げる。


「いや、本当に平気なんで!自分で歩けるので!!」

「……そうか。二人は仲が良いんだな」

 残念そうに手を下ろし、しょんぼりと呟くレフィールさんに、アデルと顔を見合わせる。


「なんかずっとサクヤに構ってくるな、この人。なんかした?」

「何もしてないよ。なんだろ?」

 コソコソと囁きあう間も、とっても寂しそうな視線で見られてるんだけどね。

 嫌な感じではないんだよ。なんだろ?

 仲間になりたそうにこっちを見ている、みたいなポップをつけたくなる感じというか……。


「えっと、とりあえずチェインの所に行きたいんですけど」

「あ……あぁ、すまない。こっちだ」

 分からない事は棚上げ!って事で促すと、レフィールさんがハッとしたように歩き出した。



お読みくださり、ありがとうございました。


連休なので、久しぶりの投稿です。

次のキリのよい切れ目まで続けると今度は長くなりすぎそうだったため、ちょっと短めですが……。

次話は早めに投稿できるよう頑張ります。

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