8 ご飯は美味しく食べたい……
結果。
私たちは大人しく『宿屋に用意されたお食事会』とやらに連行された、のだけど・・・・。
日本の中流家庭の中学生が、本格的なフレンチフルコースを経験する割合ってどのくらいなんだろう?
少なくとも、私は無かったよ。
まあ、世界が違うんだから正確にはフレンチではないんだろうけどそんな感じ?。
……イメージ?
きれいに少しずつ盛り付けられた料理を少し呆然とした気持ちで眺めた。
カトラリーって外側から使うのが正解だったっけ? それとも内側?
ずらりと並んだフォークやナイフに、アデル達と顔を見合わせる。
ごめん。すがるように見られても、私だってこの世界のマナーなんてわかるわけないし。
ため息ついて、意識を切り替える。
分からないことを知ったか振りしてもしょうがない。
「すみませんが、作法が分かりません」
並んだカトラリーを前に、あえてお手上げだというように手を挙げる。
それが当然の日常を送っていた人たちには、何を言われたか理解できなかったんだろうな。
一瞬、その場が固まった。
あ、ちなみに食卓は巨大な円卓でぐるりと囲む様に、お父さんと騎士が二人に文官っぽい人が二人、それから私たちと少人数。
2人の騎士の顔には見覚えがある。手紙を渡された時に居た人たちだ。
文官の方は、私は知らないけどチェインには見知った顔だったようで、小さく頭を下げてた。捕まった時に対応してくれた人、かな?
それぞれに簡単に自己紹介をもらって、お父さんがラディ―ンさん、手紙を渡してきた騎士がレフィールさん、もう一人がケントさん。文官はサンドルスさんとネルソンさんと言うそう。
ちょっと後半覚えられるか自信なかったけど、きっと賢いアデルが覚えてくれてるはず。
本当はシェーンたちも参加予定だったみたいだけど、移動中に眠ってしまって寝室へ。
お母さんも離れがたかったようで、頭を下げて子供たちと消えて行った。
ようやく取り戻した子供の側を離れたくないというのは、当然の感情なので謝る必要もないと思う。
最初に我に返ったのはお父さんな獣人さん、だった。ネルフィさんの少しいかつい顔がにこりと笑う。
「ああ。まあ、気にしなくともいい。食事は楽しく食べるのが1番の作法だ」
そういうと、控えていた給仕の人に合図をして並べられたカトラリーを一つずつ残してすべてさげさせてしまう。
どうするのかと見れば、フォーク一本だけ持って豪快に料理をブッ刺すと、バクリと食べた。
「次々出てくるからな。遠慮せずに食べてくれ。ああ、苦手なものがあればよけてくれたらいい。人族にはこちらの方が食べやすいかと用意させたが、正直私もこのスタイルは苦手でな。うまいとは思うが、量は少ないし、お上品な味付け過ぎてちと物足りない」
自身の前に置かれた皿を三口ほどで空にすると、肩をすくめるしぐさに毒気を抜かれる。
同意するようにうなずく人三名、呆れたように苦笑する人一名。
まあ、獣人って体格良い人多いから、よく食べるんだろう。
「アデル、チェイン、せっかくだしいただこう。こんなごちそう食べれるの一生に一度だろうし」
声をかけて率先して手を付ける。
2人とも警戒心強いからこうしないといつまでもにらめっこしてそう。
断面が色鮮やかなテリーヌっぽい物を口に入れる。
あ~~~、お母さんが奮発して買ったっていう正月のお節にあったな、こういうの。
美味しいんだけど、なんか不思議な味なんだよね。
「おいしいよ?」
「・・・・・いただきます」
ぽそりとつぶやいてアデルが、次いでチェインが少しぎこちなく料理を掬って口に入れた。
「ん、うまいな」
「ああ、みんなにも食べさせてみたい」
少し目を見開いた後、思わずというようにこぼれ落ちた二人の言葉に、大人たちの目が細められる。
そうなの、うちの子たちいい子でしょ?
分け合うことが当然のように、仲間を思い出せる子たちなんだよ。
なんとなく自慢に感じつつ
「じゃ、頑張って稼がなきゃだね」
って言えばこくりと頷きが返ってきた。
「味覚えて帰って、再現するのが早道かな……。それなら材料費だけでなんとかなるか??」
「てか、これってなんで作られてるんだ?味はエビっぽい?」
「緑の所はアスパラかな?どうすればこんな滑らかになるんだろう? てかどうやってこの形に保ってるんだ? うわ~、ザックを連れてきたい」
味もさることながら、作り方にも好奇心を刺激されたみたいで、2人であれこれ検証を始めちゃったよ。
まあ、現実逃避もあるんだろうけど……。若干ポカン顔で見られてるからね、君たち。
その後出される料理も、先にカットされてたりでフォーク一本で食べれるように工夫されてたよ。
お気遣い感謝、だね。
そして、この世界に来て初めてとろけるお肉を食べたよ!
あったんだね、霜降り文化。
市場見ても赤身ばっかりだから、てっきり存在自体がないんだと思ってたよ!
しかも香辛料しっかり使われてるし!さすが高級料理!!
感激しつつ、お肉を堪能してたら、隣からそっとお肉が皿に乗せられた。
「?」
突如増殖した肉に首をかしげて隣りを見れば、すごくいい笑顔の騎士さん。
えっと、確か・・・・・。
「あの、レフィールさん?」
ソロッと名前を呟いたとたん、笑顔が蕩けた。
え?なんで?蕩けるのはお肉だけで充分だよ?
美形の笑顔はそれだけで凶器になるって。跳ね上がった心拍数がヤバい。
内心の動揺を顔に出さないように必死に押しとどめてると、固まった私に不思議そうにれフィールさんの首がコテンと傾げられた。
「ん? 好物なんだろう?食べるといい。まだ足りないようなら追加を頼むか?」
「え? いや……あの……」
笑顔に何やら圧を感じるんですが。
え? そんなにがっついてた?
いや、元の世界でもなかなかお目にかかれないランクのステーキに、確かにテンション上がってたけど。
人様のお肉奪うほどでは……。
「自分の分で大丈夫なんで……」
お断りしようとしたら、この世の終わりかとでもいうような顔をされた。なんで?!
「いえ、あの。ありがたく頂戴いたします。うわあ、うれしいなあ」
ごめんね。事なかれ主義は日本人の悪いところとは思うけど、速攻撤回したよ。
だって、今にも死にそうなくらい落ち込んでるんだもん。
訳分らないけど、断ったのが原因ならそれ撤回するといいのかなって思うじゃん?
とたん、レフィールさんに笑顔が戻った。
こうかはてきめんだ
「そうか。良かった。追加も頼むか?」
「いえ、まだ他の料理も食べたいので結構です……」
エフェクトかかってそうなキラキラ笑顔に、目つぶし及び精神的ダメージを負った私は、無の表情でお肉を口に運んだ。
うん、おいしい。
そんな私たちを見て、周りの人たちが目を丸くしていたり、笑いをかみ殺していることに気づく余地はどこにもなかった。
極力右隣は見ない様にしつつも(なんか視線を感じるんだよ。キラキラの笑顔が目の端に映るんだよ・・・)、食事の合間に尋ねられる事に答えていく。
ーーどこで2人に出会ったのか?
ーーその時、どんな様子だったのか?
ーーどうやって過ごしてたのか?
2人の様子から始まって。
ーー子供達だけでどんなところで暮らしてるのか?
ーーどうやって日々の糧を得ているのか?
興味深そうな顔で、私達の日常へと質問は広がっていく。
あまりにも鮮やかな誘導尋問に、気づけばあらかた話してたよ。
別に後ろ暗い事をしてるわけでもないから隠す必要もないんだけど、怖いね大人の話術。
いろいろ揉まれたつもりだったけど、所詮経験不足の10代だしね。
しょうがない。
それでも、私たちの暮らす隠れ家の詳しい所在地はさりげなく誤魔化した。
シェーン達はまだ小さいからあんまり家の外には連れ出さなかったし、多分そうそう特定はされないはず。
隠れ家には自分1人では動けないくらい弱った子も居るから、あんまり知られたくない。
認識阻害の魔法もかけてるけど、一国のエリート騎士様に通じるかは疑問だし。
1番大切なものを隠す為に、あえてどうでも良いものを小出しに差し出す。
まぁ、隠し事があるのはバレバレみたいだけども。
あまり口がうまくないチェインと、他人が大嫌いなアデルは、そもそも話す気がないみたい。
大人とは目も合わせずに2人で料理を突いては、ああでもないこうでもないと2人の世界だし。
ちょっとは手伝ってくれても良いんだよ?
お読みくださり、ありがとうございました。




