3 守りたい大切なもの~前編
本日二話目の投稿です。
ようやく主人公メインのお話です。
「どう、しようかな」
約束通り自分を追いかける影がないのを確認しつつ、それでも遠回りに遠回りを重ね、グルグルと歩き回る。
おそらく先に帰った仲間が、いつまで経っても戻らない私にヤキモキし始めてる頃だろう。
悩みの種は、手の中に託された一通の封書。
封蝋を押された厚手のそれは、見るからに高級そうだ。
その上、中には手紙だけではない膨らみを感じる。
「………かってに人のものを見るのはマナー違反だけど、念には念をってね」
迷いは一瞬。
私は足を止めると、物陰で素早く封書を開けた。
魔法があるこの世界。
ただの手紙のふりして、追跡の魔法でも組み込まれていたら目も当てられない。
良い人のふりをした悪人など、この世界にはありふれているのだから。
躊躇なく自分に膝をついた男のまっすぐな眼を、信じたくなる気持ちを振り切るように中を覗く。
そこには、便箋が2枚と、綺麗な紫の石がついたネックレスが入っていた。
手紙は、子供向けの簡単な字で書かれた母親からのメッセージだった。
「けがはしてない?ごはんはたべてる?」
そう、心配する言葉から始まった手紙は、母は元気な事。父親と共に家で待っている事。騎士の人は母が頼んで子供達を探してもらってる人だという事。
信じられないなら、合言葉を教えてるから言ってみてと続いていた。
最後に「愛してる。はやく会いたい」と綴られた手紙に肩を落とす。
そこには、突然に奪われた子供を心配する母親の気持ちが溢れていた。
どうやら、本物のお迎えらしい。
ついでに手紙を鑑定して、怪しげな魔法もかかってないことを確認してから、私はようやく拠点へと足を向けた。
「ただいま〜〜」
扉を開ければ、待ち構えていたらしい仲間が勢揃いしてた。
「サクヤ!良かった無事で!!」
涙目で抱きついてくるのは、今回捕まっていた仲間のリーダーをしてたチェインだった。リーダーとしては最年少だけど、初期メンバーの1人でしっかり者だ。
「無事に決まってるだろ!チェインじゃあるまいし、捕まるようなドジしないよ」
わざとあくどく笑って混ぜっ返してやれば、泣きそうな顔が睨みつけてきた。
「サクヤだってドジ踏んで怪我するのだってしょっちゅうじゃん」
「ハイハイ。キリがないから、お互いの失敗あげつらうのやめよう?」
この話は終わり、という思いを込めて、もうほとんど変わらない高さにある頭をポンポンと撫でる。
拾ったときは小さかったのに、本当に成長期の男の子ってあっという間に大きくなるよな、なんて考えながら。
「サクヤ!僕も褒めて!がんばったんだよ!!」
「わたしも〜!」
それを話し終わった合図とばかりに、チビ組がワラワラと集まってくる。
「そっか〜、偉かったね。なんか綺麗な服着せてもらってピカピカしてるし、ここより良い暮らししてんじゃん?」
茶化しながらも、一人一人抱きしめて頭を撫でる。
子供にスキンシップって大事だと思う。
みんなも嬉しそうに抱きついてきて可愛い。
もちろんチビ組以外も肩や頭を軽く叩き、笑顔で無事を確認した。
そうして、一頻り互いの無事を喜んだ後、リーダー格を集めての情報のすり合わせだ。
すでに30人近い大所帯の為、統率を取る為幾つかの班に分けて、清掃班や物資調達班などそれぞれの役割を果たしてもらっている。
グループ内も、リーダー・副リーダー・会計など代表を決める事で報告の無駄をなくしていた。
と、言ってもそんな堅苦しいものではない。
一番大事なルールは、年上の子どもが下の子たちの面倒を見る事。下の子は上の子の指示しっかり聞く事。
問題が起きた時には、まずはそれぞれの班で話し合い解決策を探す。
理不尽が起きないようにリーダーが音頭を取り、それぞれの班のリーダー同士も交流する事で互いに理不尽はないか不都合はないか確認し合う。
そして、最終の確認を大人役の私がする事で終了だ。
強者の言葉が絶対であり、弱者は理不尽にも黙って従うことが当然の世界で生きていた子供たちだ。
最初のうちは、今までにない体制に戸惑って、意見を言う事もできず俯いて黙り込むばかりだった。
それでも辛抱強く話を聞きだし、なぜそう思ったのか、どうしてそうしたいのかを話し合わせた。
やがて、自分の意見を行っても生意気だと殴られたりしないのだと、安心した子供たちが積極的に手をあげるまでに成長した姿を見た時には、思わず涙ぐみそうになったものだ。
軌道に乗るまでは大変だったけれど、今ではそれぞれのリーダーにかなりの采配を任せられるまでになった。
(町内子供会のシステムがこんな所で役に立つとは思わなかったな……)と、当時はかなり感慨深かったものである。
今回捕まったのはそのうちの一つ、チェインのグループだった。
郊外の森に食べれる野草や果物を探しに行った帰りに、突発の炊き出しに遭遇。
お腹が空いたと騒ぐ年少組に負けて立ち寄ったところを一網打尽、だったらしい。
それでも数人は、どうにか逃すことが出来たのは僥倖だった。
おかげでどこに連れて行かれたかの確認が出来たのだから。
「でも、連れてかれた先での待遇は確かにまともだったぜ。入れられた部屋は、多分兵舎かなにかだと思う。二段ベットが複数入ってて、流石に施錠はされてたけど扱いは丁寧だし、食事も3食きっちりでた。話を聞きたいとは言われたが、無理に1人ずつ連れ出されることもなかったしな」
年少組を引き離して、洗脳まがいの懐柔を警戒してたけど、それもなかったらしい。
「変に優しそうな女が来るでもなく、どっちかと言えば事務職みたいなおじさんが、淡々と説明してたな。シェーン達を探してるんだって」
詳しく聞けば、戦の原因までサラリとだが教えてくれたらしい。
たかだか町の孤児にそんな話までして良いのか?
「追いかけてきた騎士に手紙を託された。確認したけど、変な魔法は仕込まれてもいなかったし、シェーン達に渡そうかと思うんだけど」
騎士が尋ねた双子の獅子獣人。
実は心当たりはありまくりだっんだよね。
ひと月ほど前に、スラムの隅で2人抱き合って震えてたのを保護したんだ。
なんでか服を着てなくて、そこらで拾ったらしいずだ袋に包まってゴミ箱の影で縮こまっていた。
見つけたのは、ゴミ箱の中に何か使えるものがないか確認しにきてた自分だ。
顔も髪も埃や泥で汚れてたけど、キラキラ光る瞳がまるで宝石みたいで綺麗だった。
悪い大人に捕まれば、あっとゆう間に高値でお取り引きされてただろう。
いかにも育ちの良さそうな顔立ちに厄介ごとの匂いしか感じなかったけど、見捨てるわけにもいかず連れ帰ったのだ。
そして、帰った先で被っていたずだ袋を剥がしてみれば、頭の上には可愛い丸みを帯びた獣耳。
丁度隣国と開戦したばかりのタイミングだったから、きな臭い事この上なかったけど、まさかドンピシャだったとは。
(どおりで、いつもは見かけない、お上品な騎士様がうろうろしてると思ったら)
名前以外、何も話そうとしないけど、ここではよくある事だし、どうせ他のグループでは受け入れられるはずもない獣人だし。
男女の双子で互いにしがみつくように警戒してたのが徐々に打ち解けて、今では可愛い笑い顔を見せてくれるようになったところだったけど・・・。
寂しいけど、探している家族がいるなら、そこに帰った方が幸せだろ。
「サクヤ、怪我してないね。良かった」
「サクヤ、みんな帰ってこれたのね。良かった」
呼び出してみれば、リーダー達の集まりに怪訝な顔をするも、私の顔を見つけてニコリと笑顔で駆け寄ってくる。
最初に見つけて保護したのが私だからか、1番懐いてくれてるんだよね。
「シェーン。キャス。今日ね、グランドロスの騎士様に会ったんだ」
膝をついて駆け寄ってくる2人を抱き止めながらそう告げれば、幼い体がギクリと強ばった。
「怖い話じゃないよ。大丈夫。2人のお父さんとお母さんが、2人を探してるんだって。手紙を預かってきた」
そういって、託された封筒を渡せば、2人の鼻がピクリと動いた。
ああ、そう言えば、獣人族は鼻や耳が良いんだっけ。
もしかして、知っている残り香でもあったのかな?
「ごめんね。危険がないか調べる為に勝手に開けちゃったんだ。だけど、確かめただけで、中身はそのままだから」
なんとなく気まずい気分で、封が開いている事を言い訳したけど、2人はそんな事を気にする余裕もなく、中身をひっくり返した。
最初に重みのあるネックレスがシャラリと音を立てて落ちてくる。
反射的にキャスがそれを受け止め、途端にホロホロと泣き出した。
「母様の首飾り」
そう言って、ぎゅっと抱きしめる。
同じように泣きそうな顔をしたシェーンが、それでも気丈に手紙を読んで、こちらもホロホロと泣き出した。
「良かった。母様もみんなも、元気って………」
2人で抱き合って泣く様子に、他のメンバーと顔を見合わせる。
どうやら、ちゃんとしたお迎えみたいだ、と……。
「あのね、これ。母様が父様にもらって、いつも付けてたの。父様の瞳の色で、大切なものなのよって」
手紙だけでは警戒される事も予想して、子供でも分かりやすい目印を入れてくれたんだろう。
この路地裏に流れ着いた子供に、こんな風に迎えが来ることなど殆どない。
喜ばしい事、なんだけど、少し複雑なのかな?
年齢よりも大人びてるとはいえ、みんなまだローティーンだしね。
微妙な顔で双子を見つめる仲間たちの顔に苦笑して、隣にある背中をあえて強めに叩いてやる。
そんな顔しないでよ。
私たちだって、家族だろ?初めて会ってから、もう三年以上苦楽を共にしたんだ。寂しくなんかないでしょ?
そんな気持ちを込めて笑いかければ、なんともいえない笑顔が返ってくる。
ここにいるリーダー達は、私がこの街に来て最初の方で拾った子供達だ。
みんな、傷ついてボロボロだった。
その中の一人であるチェインは、半分獣人の血をひいていて、一見違いはないけれど、その身体能力は群を抜いていた。
旅人だった父親が何かの獣人だったそうだ。
怪我をして行き倒れていた所を母親が助け、かくまって世話をするうちに恋に落ちた。
母親も何の獣人だったかははっきりとは聞いていなくて、ただ体の一部に鱗があったから、蛇かトカゲの獣人だったのではないかと予想していたらしい。
「問題を解決したら戻ってくる」と約束して再び旅立った男が戻ってくることはなく、1人でチェインを生み育てた母親は無理が祟って死んでしまったらしい。
人族至上主義のこの国で、親を亡くした半獣人の子供に居場所はなく、流れ着いた路地裏でも受け入れてくれるグループを見つける事もできなかった。
いくら他より身体能力が優れていても所詮は幼い子供でしかないチェインは、まともに食事をとることも出来ず弱って路地の片隅に蹲っていたのだ。
多分、獣人の血を感じて自分を重ねていたのだろう。
最初の頃から、シェーン達に親身にしていたから、より、複雑なんだろうな。
「明日、約束の場所まで行ってみよう。多分、お迎えが来てるはずだから」
泣きじゃくる二人を慰めるように頭を撫でてあげれば、涙でぐしゃぐしゃの顔でコクリと頷いた。
「いい子」
袖口でベシャベシャの顔を適当に拭いたら、なんだか砂汚れでまだらになってしまった。
そういえば、外から帰ってきてそのままだったから、偽装もかねていろいろ汚れてるんだった。
「・・・・・サクヤ」
「一緒にお風呂入るか」
呆れたように名前を呼ばれて、ごまかすように二人を抱き上げようとしたら、ペチンとその手をはらわれた。
「触るな被害が広がる。ここは良いから、さっさと風呂入ってこい」
いつの間に用意したのか濡れた手ぬぐいで双子の顔をきれいにしながら、扉を示すのは鮮やかな赤毛の少年だ。
「ザック酷い」
「酷くない。二人つれて入ったら、あっという間にチビたちが増殖して遊びだすだろ。ここ三日ほどバタバタしてろくに休めてないんだから、風呂入ってさっさと寝ろ」
冷たい目で睨まれるけど、言ってることはたんなる気遣いだ。
確かに、仲間奪還の為に情報集めるのでここ最近は出ずっぱりだったから、正直ちょっと眠たい。
てか、ザックはツンデレさんなのだ。
目つきも口も悪いから、初対面の人には誤解されがちだけど、中身は世話焼きおかんという不思議属性。
拾った時に足にひどい怪我を負っていて、その影響で治った今も走ったり跳んだりができないため、調理や住居内整備を任せている班のリーダーだ。
ちなみにザックの作る煮込み料理は絶品である。
「はーい、大人しくお風呂入ってねま~す」
心配かけてるのが分かるから、素直に返事して踵を返す。
周りのみんなと小さく笑ってアイコンタクトをしつつ、だけど。
付き合いの長いメンバーは、みんなザックの性格なんてわかってるから、それぞれ肩をすくめたり手を振ったりして送り出してくれた。
お読みくださり、ありがとうございました。
やっと主人公目線になりました。
題名になっているのに、いつまでたっても出てこないサクヤでしたが、ここでようやく守りたいものも判明です。今後もどんどん背景が判明していくのでお付き委ください。




