↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
40/40

第38話「ミアギとの戦い」

38.「ミアギとの戦い」


 ウァイガ3星系(エストランシャ衛星軌道)


  属

  ゾルドーン・ロラックィCX5327‐111

 (以下、略)星系


  属

  アグルファ・エウフDB0651‐008

 (以下、略)銀河


  属

  ザウケン・ギューザンVV8878‐118

 (以下、略)宇宙


  属

  ジァク・ヴノMZ377‐667

 (以下、略)インペリオーム


 エストランシャ軌道上。いくつもの断片に分かたれた二隻(せき)のゼイナートが、高度を落としつつ、緑の地表に影を落とす。このまま落下すれば、地上に多大な被害が出るところだが、自己消滅機能の効果により、雲一つない澄(す)み切った空の上で、幸(さいわ)いにもその巨体は瞬(またた)く間に消え去った。


「ロイファスへ、こちらプロン6‐4。エストランシャにてミアギと交戦中。コード・ブラック、直(ただ)ちに援軍を求む」


 “ロイファス”は帝国軍において、最高司令部を指すコールサイン。原則、下級指揮官が最高司令部を直接呼び出すことはできないが、今は全軍がデフコン2・デルタの戦闘態勢を維持し、高脅威(ミアギ)との接敵に備えさせられていたため、最高司令部との直通回線の使用要件が緩(かん)和(わ)されていた。


『こちらロイファス。プロン6‐4、すでに増援の艦隊が向かっている。友軍が来るまで指定区域を封鎖し、遅(ち)滞(たい)戦闘に努めよ』

「了解。艦載機は全て発艦。目標に対して攻撃を開始。これは演習ではない」


 突(とつ)如(じょ)として現れたミアギ。その圧倒的な戦闘能力は未(いま)だ健在だった。

 右手から光る斬撃を放つと、その斬撃はみるみるうちに巨大化していき、複数の斬撃へと分裂。それぞれがゼイナートの強力な防御シールドを切断した。光る斬撃の勢いは止まらず、そのまま三隻(せき)のゼイナートをばらばらにした。

 戦闘機のレイトアン、人型兵器サラスターの熾(し)烈(れつ)な攻撃を全てかわしつつ、ミアギは魔法陣のような紋章を広範囲に展開。無数に浮かび上がる紋章は黄金色を放ち、中心からビームが放射された。


『散開、散開だ』


 このビームを辛(かろ)うじて回避できたパイロットもいたにはいた。しかし、黒く光る槍(やり)状の物体が瞬時に機体の真上に召喚され、例外なく、全ての機体が串刺しにされてしまった。


 誰も予想できない。

 誰も逃げられない。

 戦いの主導権はミアギの手にある。


「ロイファス、こちら緊急対応艦隊ラヴィグール245、艦隊司令のジールナイフ・トイナ中佐。指定座標へのゲート・アウトが完了。既(すで)に星系は封鎖済み」

『プロン6‐4、エストランシャ防衛艦隊はハイペリウム研究員二名の保護と回収を最優先で行い、戦闘区域から即刻離脱せよ。事態対応はラヴィグール245が行う。中佐、第一級兵器を除いて、ミアギへの攻撃を許可する。目標を無力化せよ』

「ラヴィグール245は了解。全艦、攻撃目標はミアギだ。撃ち方始め」


 ウァイガ3星系と周辺宙域には五個宙域艦隊からなる緊急対応艦隊がゲート・アウト。ミアギへ対抗するためだけに、一(・)億(・)を(・)ゆ(・)う(・)に(・)超(・)え(・)る(・)軍艦が集結した。ゼイナート、ハブルケート、ラゾーダ、ガリエ、クロラーン、ケンガラといった多様な艦船による混成艦隊は多重封鎖線を構築しつつ、ミアギとの距離を狭める。


「攻撃を止めるな。攻撃を続けろ」

「目標は未(いま)だ健在。自動照準システムは正常。火器管制システムに異常なし」

「常に味方との間隔は一定に保て」


 散り行く艦は数知れず。宇宙空間に投げ出されたアンストローナ兵も相当数いるが、彼らが救出されることはない。その余裕が全くないのだ。戦力的な空白領域が生まれると、速(すみ)やかに艦隊による飽和攻撃で埋め尽くされた。

 主砲、副砲を含めた各種レーザー砲、ビーム砲、対航宙機用マイクロ重力魚雷、汎(はん)用(よう)プラズマ・ミサイル、対艦用多目的榴(りゅう)弾(だん)レール・キャノン、フロアックズ・エネルギー・ニードル……あらゆるものがミアギへと放たれた。


 あまりにも一般化されているため、ついつい忘れがちになるが、本来レーザー兵器は極めて強力な兵器である。高密度プラズマ安定化技術および高出力レーザー制御技術の粋(すい)を集め、途(と)方(ほう)もない年月をかけて改良を続けてきたヴェルシタス帝国製レーザー兵器は正確な意味でのレーザーではない。プラズマの優れた破壊的物性を持ちながら、レーザーとしての光速化、指向性、安定性を実現した究極の光学兵器である。当たれば衝撃、熱損傷、電磁的影響が同時に襲う。シールドに守られていなければ、大抵の有機生命体は即死だ。

 次に重力魚雷。どんなに小型であったとしても、瞬間的にブラックホールを形成するのには変わりない。発生した重力場は時空そのものを捻(ね)じ曲げ、防御シールドや量子ソダー防壁といった各種対抗手段ともども標的を破壊する。

 プラズマ・ミサイルは主として対艦、対重装甲兵器に用いられる高威力の多目的ミサイルである。レーザー兵器とともに帝国軍では一般的な兵器であるものの、直撃すれば強襲型イーガスでも耐えることは難しく、起爆時にはプラズマ由来の激しい電磁波干(かん)渉(しょう)を引き起こす。高度な対策がされていない標的ならば電子機器の無力化を期待できる。

 実体弾である対艦用多目的榴(りゅう)弾(だん)を亜光速で放つレール・キャノンは、光学兵器が苦手とする超長距離から、重厚な防御シールドと強固な自己修復装甲を突破することが可能だ。また、高い命中精度を誇ることから、ピンポイントで地中の建造物や目標を破壊することにも使用される。

 フロアックズ・エネルギー・ニードルと呼ばれる、この追尾型エネルギー兵器は近距離目標に対して、放たれる鏃(やじり)状の高速エネルギー弾。目標へ刺さった瞬間あるいは目標座標付近で爆発するという変わった性質を持ち、帝国艦の近接接近用自衛火器として、防衛レーザー砲とともに弾幕を張ることにより、敵を寄せ付けない。


 帝国艦隊の情(なさ)け容(よう)赦(しゃ)ない攻撃の嵐だった。

 それでも、ミアギを止めることはできない。エネルギー反射を行い、光学兵器の攻撃を跳ね返しただけではなく、魚雷とミサイルは途中で急速に自壊。レール・キャノンの弾頭は全てが不自然な軌道を描いて逸(そ)れてしまい、彼女に命中することは叶(かな)わなかった。


「司令、目標に高エネルギー反応」


 ミアギの頭上にある光輪が彼女の身体の前に出てきた。光輪は一気に直径二千メートルほどの大きさになり、艦隊へと向かっていく。


『巨大化したヘイローが接近。回避不能』

『シールド全開。総員、衝撃に備えよ』

『ああ、なんてこった……リストークだけじゃなくラシュアまで、やられたぞ……』


 ひとつ、またひとつと巨大な光輪が艦を容易(たやす)く引き裂き、さらに衝撃波を同時に発生させ、百隻(せき)を超える艦が数秒で沈んだ。


「二百は沈んだな。こんな光景は初めてだ。まるで抑えられない。本物の化け物だ……我々の技術は奴(やつ)に無意味なのか?」


 光輪は再びミアギの頭上に戻り、元のサイズへと戻ったが、ミアギの周囲に展開される無数のエネルギー反射シールド、ビーム放射陣は絶え間なく帝国艦隊を襲う。近づけば彼女を守る黒い霧……未知のナノマシン群が真空でも無慈悲に襲ってくる。


「リストーク1から6、ラシュア2から12、ゾルドーン7、8、9の反応消失。さらに友軍反応は消え続けています」


 その上、ミアギ自身には空間を歪(ゆが)ませる〈特殊な場〉が形成されている。詳しいメカニズムは未解明であるが、原理的には彼女に近づけば近づくほど、エントロピー増大が指数関数的に働き、結果として接近する物質を捻(ね)じ曲げてしまう。亜光速の実体弾兵器であろうと、太陽を飲み込む凄(すさま)まじい重力であろうと、彼女には決して届かない。


 こちらの世界とは明らかに、異なる法則で生きている謎の存在、ミアギ。

 理解できぬ、その存在に帝国艦隊は翻(ほん)弄(ろう)された。

 その存在はこ(・)ち(・)ら(・)側(・)にとって、異質そのものだ。

 宇宙を舞う、歪(いびつ)な天使は自ら艦隊の中へと飛び込み、目に入るもの全てを破壊し尽くす。淡々と。表情に変化はない。


「警告、ミアギによる通信システムへの侵入を検知。ジステント・プライマリの突破を試みています」

「ついにきたか……予備システムに切り替え、主幹システムの切断だ。やつは軍事ネットワークに入り込むつもりだ。通信履歴を消去し、偽装データを展開」


 物理的な攻撃だけでなく、ミアギのサイバー攻撃にもさらされ、着実に緊急対応艦隊ラヴィグール245は戦力を削(けず)られていた。敵に攻撃は効かず、敵の攻撃はこちらに致命的な一撃となる。帝国艦隊としてはこれ以上ないほど最悪の状況だ。

 ヴェルシタス帝国は過去あらゆる強敵を打ちのめしてきた。星間航行技術を持つ好戦的な巨人族〈ケルデムス〉、光なき暗黒領域に潜(ひそ)む者たち〈ウ・ジャー〉、銀河を統(とう)括(かつ)支配する社会性金属生命体〈メリア・テーデ〉、虚像の軍隊〈キシュール〉との戦いでも、戦場における優位を失ったことはなかった。


「こちらトイナ中佐だ。ロイファス、目標へ有効なダメージは与えられない。現在、艦隊はミアギにより、通信システムの攻撃を受けている。死傷者の数は把(は)握(あく)できない。被害甚(じん)大(だい)。要塞の投入も検討したい」

『中佐、聞け。その必要はない。皇帝陛下がそちらに向かう』

「危険です!」

『中佐、貴官の心配は不要だ。陛下は一人でカーディナル全員を相手にできる』



 先ほどまでミアギは帝国艦隊をとめどなく破壊していたのだが、視線を別の方向へ向けた。そこへ現れたのは、かつて二週間にわたり死闘を繰り広げ、自分を抑えつけた者。アルヌーク・フローゲルトだった。


「ミアギ、お前の目的はなんだ?」

「……全てのアーティファクトを無へと帰すこと」


 アルヌーク、ミアギの二人は互いに引く意思がないことを確認した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。