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第37話「サニス統合対策会議」

37.「サニス統合対策会議」コーラミシャ・バムヒャフ・コナー少尉


 オファン(コウチャ星系)


  属

  ユーヤナ・プロンUA5599‐000

 (以下、略)星系


  属

  アグルファ・サスノスRV3529‐684

 (以下、略)銀河


  属

  ギューザン・ローケスAR0300‐001

 (以下、略)宇宙


  属

  ローケス・ユーヤナAQ037‐238

 (以下、略)インペリオーム


 惑星オファンのシタデル・タワーでは活発に動き出した、反帝国勢力の〈サニス〉および生物兵器化した強侵襲性スティグレイである〈ソム・スティグレイ〉に対処するため、軍、保安局(軍の治安維持部門)、衛生局、情報局、生活局、ゲート管理局、通信局、教育局、交通局、エネルギー局の代表が一同に集まり、情報の共有と今後の方針を話し合う臨時会議が開かれることとなった。

 ここ“サニス統合対策本部”では任務の性質として、(じん)(そく)かつ正確な動きを要求される。厳重な情報統制の中、内通者や感染者による情報(ろう)(えい)を避け、事態の早期収拾を図るのが目的だ。


「今一度、スティグレイを利用し、各地でテロ行為を起こしている組織サニスについて、おさらいしておく必要があります」


 統治院から本部長の任を与えられた地上軍コーラミシャ・バムヒャフ・コナー少尉は、()(いろ)の瞳と薄緑色の髪を持つムルティーク人男性。特別(ぼう)(えき)条項に基づき、スティグレイによる汚染拡大防止、サニスへの対応に関しては、現場指揮官として彼が最上位指揮権を有する。これは数少ない軍の特例措置で、通常ならば自分より高い階級の人物へ命令することは認められない。


「サニスには犯罪王として名高い、ツゥケァル・ゲウス・ゲルタックが関与していることが分かっています。ただし組織のトップは、この青年風の人物〈ファブラタル・リズーア〉。彼は先日まで“イヴァス”のコードネームで呼ばれていましたが、情報局の手により、その名前が判明しました」


 リズーアの全身ホログラムと二次元の顔モデルが宙に投影される。


「興味深いことに生活局の情報では、ファブラタル・リズーアという名前のエディア人が()()()()にいたようです。彼は天の遺産の探索任務で行方不明となっています。現時点で同一人物かは分かりません。ただし、スティグレイの基本的生態を(こう)(りょ)すれば、記憶を受け継ぎつつ、宿主を変えている可能性は十分にあり得ることです。そもそも、スティグレイは元々、帝国内の一種族として(あつか)われていた側面もある上、オウルハウ(しゅく)(せい)から逃れた個体もいます。ここは一般的に勘違いされている話ですが、オウルハウ(まっ)(しょう)作戦はスティグレイ根絶を目的にした作戦ではなく、あくまでも反抗勢力の掃討。非戦闘員とみなされた者はスティグレイでも軍は退避させています」


 スティグレイは知的生命体を(しん)(しょく)して、新たなスティグレイにしてしまうという一般認識が強いのだが、どちらかというと、その凶暴なイメージは後世へ伝わる過程で誇張されたもの。

 本来のスティグレイも確かに知的生命体を(しん)(しょく)してしまう。ただ、ほとんどは元の宿主の姿形、記憶、人格のままである。これは単純にスティグレイの方が生命体として、極めて不安定なため。(しん)(しょく)が起こっても、宿主の免疫細胞に勝てず、逆に宿主側に取り込まれてしまうのである。元の人格とスティグレイ、二つの意志が宿ることもあるにはあるが、スティグレイの記憶や特殊な感覚を受け継ぎ、後は特に何も変わらなかったパターンの方が多い。

 まれに宿主が弱っていたり、肉体の損傷がひどかったりした場合、スティグレイの意志が完全にその身体を乗っ取ることもある。この時、スティグレイの方へ、宿主側の記憶や性格が移る可能性が指摘されている。ただし、これは仮説の域を出ていない。


「問題はサニスがスティグレイを“生物兵器化”したことにあります。ソム・スティグレイと呼ばれるこの新種は、非常に拡散性が高く、(しん)(しょく)速度も原種とは比較にならないほど高速。自身の形状を液状化、あるいは硬質化するといった選択的変質性も(あわ)せ持ち、学習能力と環境適応性もさることながら、他の個体との高度な意思()(つう)と連携はアンストローナ兵に(せま)る勢いです。体内にフロアドネス粒子を内包させた個体も確認され、サニス側のフロアドネス制御技術は我々より進んでいると言わざるを得ません」


 帝国軍においては、新技術の開発や試作兵器の開発自体は(ひん)(ぱん)に行われるものの、量産、制式化はそうたやすい話ではない。あらゆる環境下での耐久性と動作信頼性を絶対とする帝国軍では、仮想空間上のシミュレーションだけでなく、実戦での膨大なデータを(そろ)え、千回にわたって行われる長期間で過酷な性能評価試験に合格することにより、新装備の正式配備がようやく決まる。制度上、最低でも十年分、最高で百年分の信頼できるデータが求められるため、自国の技術レベルに対し、軍の装備の更新ペースは意外と遅い。

 このような背景を反映し、複雑で高度な知識や技能が求められるハイテクノロジーよりも、原理と構成が簡素かつ、誰でも使いやすいローテクノロジーの方が軍では好まれる。


「バスチール、ラクシアータといった制限指定区域では軍による鎮圧作戦が掃討戦へ移行しています。ただ、フロアドネス粒子の影響もあり、残党の一掃には時間が掛かる見込みです。また、バスチールの避難所や衛生局の臨時医療センターをリズーア自身が襲撃したのは間違いないのですが、そこから彼の行方は分かっていません」


 少なくともバスチールの保安隊はリズーアと交戦し、彼の存在を確認している。


「ラクシアータではラクシアータ固有ハーブの一種エルラウトを用いた、何らかの実験をしていたようです。詳細な分析を衛生局が(じっ)()したところ、彼らはエルラウトの(ちゅう)(しゅつ)(えき)で、ソム・スティグレイ細胞の侵襲性を抑えつつ、細胞の生存性向上と、従来不可能であった宿主への長期潜伏化を実現する特殊な培養液を開発。サニスはソム・スティグレイの(かく)(せい)や変異度合を制御する技術を確立したとみていいでしょう。ラクシアータが短期間で制圧されたのも、この長期潜伏と(かく)(せい)の制御によるものと考え、今後、他の領域でもソム・スティグレイの(いっ)(せい)(かく)(せい)が起こる可能性を(こう)(りょ)し、警戒する必要があります」

「少尉、話を割って申し訳ない。ラクシアータの生存者は一名だけと聞きましたが、それは事実なのですか?」


 ここで、通信局代表のココホスキが質問をした。レブノ(アメフラシ系エイリアン)の彼は頭上に浮く、ホログラム投影装置と発声装置により、表情を表しつつ、声を出している。


「はい、その通りです。民間人が一名だけ。氏名ユシリース・グライアム。ギリス社所属の記者。ラクシアータで発生していた“怪事件”の数々を調べていたようです。スティグレイ検査項目は全て陰性。現在、スゾンの医療センターで経過観察中です」

「怪事件というと、現地で発生していたとされる行方不明者の多発、原因不明の通信障害、集団幻覚か。一晩にして、サス・ティアー街全体の住民が消えた話も聞いている。よく生き残れたものだ……」


 外部との連絡手段が絶たれてしまったラクシアータは、まさに孤立無援の地獄だったはずだ。保安隊を含めた現地の駐留部隊による抵抗もあっただろうが、圧倒的な数のスティグレイに対し、有効な打開策はない。そもそもスティグレイの汚染(ちょう)(こう)も無かったために、スティグレイへの対応自体が遅れたはずだ。


「サニスはアンストローナ兵およびゲートに対抗するため、フロアドネス粒子の安定化と兵器化を進めており、標準的な軍の装備では粒子による強い妨害作用を受けます。対サニスでの戦闘ではセンサー、スキャナーは高精度かつ高度環境保護処理がされた、UEPクラス5以上のものを使用してください。クラス2以下の場合、異常の検知そのものができない可能性があります。また、ルガ(きょう)私兵部隊アレイザーの危険性についても、過小評価することなく、可能な限りの警戒をお願いします。客観的に事実を述べますと、彼らの戦闘技能は非常に高いです。アンストローナ兵に匹敵する、優れた戦術、連帯性、即応性が確認されています」

「アレイザーか……連中もよく分からない存在だ。あそこまで仕事を選ばず、主人についていく心意気は素晴らしいがな。金で(やと)われているだけとは思えない。それに、あれほどの人員をどこで採用したのか……やつらの化けの皮を()いでやる」


 情報局代表、カラ(レッサーパンダ系ヒューマノイド)のウェイツ・レギガン・カピュロの発言に多くの出席者がうなずいた。自身の護衛と秘密の保守という名目において、カーディナルが軍の指揮系統とは異なる、私兵部隊を持つこと自体は違法ではない。

 アレイザーはザファルタ語で(せん)()(しゃ)を意味する。彼らの装備はアンストローナ兵を参考にしていると思われ、特にアーマースーツはアンストローナよりも先進的なものと推測された。ユシリース・グライアムの証言ではラクシアータでも(あん)(やく)(よう)(へい)にしてはあまりにも統率が取れており、人員も装備も(じゅん)(たく)だ。


「現在、ソーロザックにある、ルガ(きょう)(てい)(たく)を接収すべく、特別犯罪対策部隊が向かっています。ただ、目ぼしい資料はあらかた処分されていると考えるべきでしょう」


 サニスとルガの関係を明らかにすべく、保安局は惑星ソーロザックへ、特別犯罪対策部隊を派遣した。当然、ルガは保安局の動きなぞ、予想済みだろう。それでも、手がかりとなるものを見つけることができれば(おん)の字だ。

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