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第36話「ウラーフェンの残響」

36.「ウラーフェンの残響」マスラ・パウルス


 セイン(アゼイサ星系)


  属 

  イータラック・ロラックィEE8029‐933

 (以下、略)星系


  属

  ブレゲルシダ・ロラックィGN0656‐008

 (以下、略)銀河


  属

  ザウケン・ギューザンCV9808‐008

 (以下、略)宇宙


  属

  ジァク・ヴノMZ870‐667

 (以下、略)インペリオーム


 敵の宇宙戦闘機は空を覆い尽くすほどの数で飛び回っている。(すで)にこちらの防空網は機能しておらず、軌道上には敵艦隊が(ひか)え、その気になればいつでも地上を(さら)()にできた。

 地上に展開する帝国兵は全員が同じ姿、同じ装備で統一されている。逆に言えば、それだけで十分だという裏返しでもあった。


『セイン市民の皆様へ。我々はヴェルシタス帝国軍です。こちらの指示に従い、住民情報の登録をお願いします。セイン政府は無条件降伏し、ウラーフェン星間統治機構は解体されました。今後、ヴェルシタス帝国の統治下に入ります。治安維持のため、セインには治安維持部隊が駐留します』


 セイン政府の代表、マスラ・パウルス首相はこの悪夢のような現実を前に、三日前の記憶を呼び起こしていた。出来ることなら、やり直したい。もう少し、()()()()()もあったのではないかと。いくら頭で反省したところで、この光景が変わるはずもなく、ヴェルシタス帝国軍は彼のいる建物のオフィスに入ってきた。


「失礼します、パウルス首相。カーディナルのエンストーラ(きょう)がお待ちです。ご同行をお願いします」


 カーディナル、エンストーラ。皮肉にも今となっては彼女の言葉の重みがよく分かる。最初、彼女が言ったことは星間統治機構の代表ら全員が信じていなかった。(まね)かれざる客。早々に言葉は通じるが、話は通じない相手と認識し、こちらは聞く耳を持たず、ヴェルシタス帝国の要求を受け付けなかった……



 さかのぼること三日前。パウルスはウラーフェン星間統治機構の総会へ出席していた。機構はウラーフェン銀河群を中心とする、惑星国家および星間国家の共同体。加盟国は八千を超え、巨大化していく機構の内部調整および貿易()(さつ)(かん)()を目的として、今回の総会は開かれたのだ。

 ただ、総会は当初の議題に入ることはできなかった。ヴェルシタス帝国の使者、ソルヴィーツ・エンストーラの(とう)(だん)があったためである。


「おいおい、あれは誰だ? 次はロトリア共和国代表のはずだぞ」

「どこの代表だ? 一覧にはない」

「先ほどまでロトリア代表はいたはずだ」


 予定外の人物の(とう)(だん)に会場のどよめきは広がり、その様子は加盟国全域で中継された。


(せい)(しゅく)に願います。ロトリア共和国代表、アンジュロフム・ラーガに代わりまして、(わたし)ヴェルシタス帝国のカーディナル、ソルヴィーツ・エンストーラがお話をさせていただきます」


 帝国という言葉の響きは各国代表をざわつかせる。


「帝国だと……」

「どういうことだ、説明しろ」

「まあまあ、落ち着いてください。ロトリア共和国はもうありません。ヴェルシタス帝国に編入されましたから」

「いつの話だ」

()()()の話です」


 この時、エンストーラは笑っていた。明らかに周囲の反応を楽しんでいた。


「つまり、ヴェルシタス帝国はロトリア共和国の正統な後継国家。この会合に出席し、発言する権利がある。旧ロトリア共和国においては、不平等な貿易環境と周辺国による領域問題が長年解決しなかった。ヴェルシタス帝国として、これを(かん)()することはできない。機構による深刻な主権侵害と判断し、ヴェルシタス帝国は機構に対して、自衛権を行使する」


 あまりにも(とう)(とつ)で身勝手な発言に代表らは当然、嫌悪感を(あら)わにする。


「何好き勝手に言っているんだ!」

「ジョークにしてはセンスがないですな。貴国は機構の全加盟国を相手にできるだけの実力があると?」

「そうです。近いうちに、この宇宙全域も支配下に置きます」

「ふざけるな!」

「冗談にもほどがある! いったいそんな自信がどこから()くのか、ぜひとも知りたいものだ」

「ここは君の(もう)(そう)を話す場ではない。発言を(つつし)みたまえ!」

「どうも貴殿を含め、ヴェルシタス帝国は現実が見えていないように思える」


 もう聞き飽きたセリフがこれでもかと、エンストーラへ向けて飛ばされた。彼女からすれば外交に興味はない。わざわざ武闘派の彼女がこのような場に出るのは、たまに面白い相手を見ることができるという、ちょっとした()けだ。


「ハァ……私の身にもなって頂きたい。毎度毎度、まじめに伝えているのに、やれ(うそ)だの、やれふざけているだの……こちらとしては国内法に(のっと)り、通告しているだけ。数でいえば“宇宙のちり”以上の宇宙を帝国は支配下に置いている。正直、数えるだけ無駄。増え続けているから。たかだか(いち)銀河団の武力制圧なんてわけない。何なら今すぐ決着つける? この場にいる全員、私一人で三分とかからず殺せるけど?」


 大勢の人が厳しい視線を向ける中、淡々と述べるエンストーラ。この非常識(きわ)まりない使者に、機構のメンバーは怒り(しん)(とう)だ。無理もなかった。


「無礼者! 外交の場でなんという発言だ! ()(ばん)(じん)め!」

「ずいぶん自信家だ。世界を知らないようだな」

「ここにいる全ての国家に対する()(じょく)だぞ」

「実にバカバカしい。そんな軍事力、逆に見てみたいものだ」


 パウルス自身、帝国の強大さを想像することはできなかった。あまりにも規模が大きすぎて、彼自身の想像力が足りないのも(いち)(いん)なのは間違いない。それを踏まえて、想像しようとすらしなかった彼の(あさ)はかさにも問題があった。


(せい)(しゅく)に! (せい)(しゅく)に!」


 議長は荒れるこの場を収めようと声を張った。


「エンストーラ(きょう)、あなたの言い分はあまりにも現実離れしている。発言の(てっ)(かい)を」

「いいえ、(てっ)(かい)はしない。ヴェルシタス帝国はウラーフェン星間統治機構に加盟している全ての国、地域、種族に対し、自衛権の行使を正式に通達する。自衛権につき、本来なら準備期間を(もう)けないところだけど、私の(さい)(りょう)で三日与える。せいぜい、私を楽しませて」


 話し終えた瞬間、エンストーラの姿は消えた。

 

 旧ロトリア共和国の領域には帝国軍六個艦隊が展開。さらに惑星ロトリアは惑星シールドに包まれ、全ての宇宙船の行き来が禁じられた。


 そして、三日後。

 運命の日は訪れた。


 ウラーフェン星間統治機構の全加盟国は同時刻に帝国軍の侵攻を受けた。地上、宇宙、場合によっては海中から一瞬で、同時に出現したヴェルシタス帝国軍。各国の防衛軍は(ほん)(ろう)され、主要な軍事拠点は初動で壊滅的被害を受けたのだった。


 それは惑星セインでも同様。


『各員、非戦闘員への攻撃は禁ずる。指定された標的を優先的に無力化し、敵の退路を()て』

「帝国に栄光あれ」


 帝国軍はアンストローナ兵からなる六個兵団(約六億人)を主軸にイーガス、ジンシーンといった自律機動兵器をセイン地上戦へ投入。加えて、地上支援用に戦闘機レイトアン、強襲輸送艇ブロウナク、アンスケルが空を舞う。

 宇宙では(じゅん)(よう)(かん)ゼイナート十二(せき)、重(じゅん)(よう)(かん)ハブルケート四(せき)を基本編成とした艦隊が五個艦隊ゲート・アウトしてきた。艦船数は80。数だけでいえば、セイン惑星防衛艦隊の方が百(せき)以上の艦船を配備していたため有利だった。それでも、セイン惑星防衛艦隊は帝国側の船に傷を付けられなかった。“圧倒的な火力”と“鉄壁の防御”の前に、()(すべ)がなかったのだ。


『地上部隊、敵は敗走しつつある。逃がすな』

「いいねぇ。狩りの始まりだ。私に続け、アンストローナ。帝国の()(こう)を示せ」

「エンストーラ(きょう)へ続け! ゴー、ゴー」


 エンストーラはわずか一時間のうちに、一人で二つの惑星の防衛軍本部を壊滅させ、セインへと現れた。セイン防衛軍の基地へ乗り込むエンストーラ。それに続く、アンストローナ兵達。


「さあ、さあ、掛かってこい! もっと、もっとだ!」


 文字通り、異次元の強さを見せつけ、エンストーラの周りにはセイン兵の死体ばかりが増えていく。(よう)(しゃ)ない進撃は司令部を制圧するまで止まらなかった。

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