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迷宮第十三層ナリャータク

「ここは」


 リリアは、目をさますと、封印扉の前にいた。


 封印扉には、ナリャータク、と描かれているのだろう。

 十三層の迷宮魔法使いの名前だ。



「でも、他の迷宮の魔法使いたちは、みんな警戒していた。なにかあるんだ」


 バックのなかから、回復アイテムをとりだして、飲む。


 少しだけ、ストレッチをしてみると、

 身体のさまざまが重たい気がする。


 服装を確認する。

 あちらこちらに、絵の具がついているのがわかった。


「そうよね。前の層で、絵を描いたばかり」



 レイラから受け取った服のなかから、動きやすそうなものを選ぶ。


 転送したものを手元に戻すと、

 なぜか、キレイになっていた。


「あれ。だれかキレイにしてくれてる」


 まぁ、気にしないで、着替える。

 転送で持ってきた服は、襟つきのシャツに青いリボンつきのもの。

 上着は軽めシャツで、腕に二つのハートのマークと文字が入っている。

 下は、短いスカートで、フリルがついている。

 靴もきたため、ハイカットのブーツに履き替える。


「絵の具ついてるけど、とりあえずね」


 着替えおえた服を今度は、転送しておく。


「ふぅ」



 これが、最後の封印扉のはず。

 この先を越えれば、リンヤに逢える。


 リリアは、扉の空間から、歩きだす。


「えっ」


 思わず、リリアはふらつき、倒れてしまう。


「いたっ」


 なにも見えない。

 暗闇の空間にいる。


「え、ここが、迷宮なの。暗闇」


 リリアは、慌てて初期の魔法である照明弾をはなつ。

 いくつかの灯りがつく。


「ここは、部屋かな」


 薄い灯りのなか起きあがり、

 とりあえず、周囲を確認する。

 けれど、照明が長くは保たないらしく、

 だんだんと暗くなっていく。


「おかしい。もっと照明の魔力はもつはず」


 いくつか、また照明弾をうつ。


「そっか。迷宮に魔力を吸収されているんだ」


 また少し明るくなったところで、様子を確認してみると、やはり部屋のなかのようだ。

 窓も見えるが、外も真っ暗みたい。



 すると、声が聴こえてきた。


「第十三層まで、よくきたね」

「リンヤはどこ」

「リンヤなら、もういないよ。ここをでた」

「そう。わかった。それで試練は」


 姿が見えない。

 まただんだんと暗くなる。


「ここの場所で、七五時間いること」

「それだけ」

「そう。それだけ」

「化粧室もシャワールームも、飲みものだってまだあるはず」

「ええ」

「ただ、過ごしていればいい」

「あの」

「それじゃ、また」

「あの、話しかけても」



 静かになってしまう。


「とにかく、ここにいればいいのね」


 辺りがまた暗くなる前に、バックからトケルンをだす。

 タイマーをセットしてみる。


「よかった。まだ動いてくれるみたい」

「さて、どうしよ」



 ただ、いるだけ。


 でも、すぐに暗くなる場所では、照明弾を打ちだし続けるか、

 あとは、暗闇になれて、動いてみないと。


「座ってみるか」


 椅子があったので、座ってみる。



「リンヤは、時間がくるまで、どうしてたのかな」


 とりあえず、召喚や転移を試してみるが、効果はない。


「どの魔法が、どれくらい使えるのかな。とりあえず、時間は、ある」


 リリアは、灯りをたよりに、化粧室にいって、気持ちを落ちつけて、戻ってくる。

 照明弾をとばしながら、の作業になる。


 椅子まで戻ってくると、

 ひとまず部屋を探検してまわることにする。


「もっと、こう仰々(ぎょうぎょう)しい試練かもと、想ってたのに、これで何で、そんなに注意して、て言われたんだろう」




 部屋を歩き回り照明弾をうち、棚やベットや机など、あるものを点検していく。

 こういうときは


「寝るのが、いいのかな」


 でも、もしナリャータクが、時空の魔法使いなら、寝ておきても、まだ時間が過ぎてない、ということもありそう。

 飲みものを取り出して、机におき、椅子に座る。

 コップに飲みものを入れて、バックから妖精ノートを取り出す。


「一応、これまでのできごとを書いておこう」



 リリアは、妖精ノートに迷宮であったできごとや魔法使いたちについてを書きこんでいく。



 一時間くらいは、そうしていただろうか。


 いつの間にか、飲みものを飲みおえて、妖精ノートから、トケルンに目を移すと、ちょうど一時間程度だった。


「ふぅ。まだまだ先あるわね」


 リンヤだったら、ずっと詩っていたのかな。

 でも


「そういえば、リンヤは、自由妖精だけど、寂しがりなのよね」


 また、照明弾をはなつ。

 リリアの魔力は、どんどん減っていく。

 そのたびに、バックから回復アイテムをとりだして飲む。

 歩き周り、棚にあった新魔導書をみつける。


「少し(ふる)いみたい」



 座って読みはじめるが、だんだんと眠くなってきた。


「少し、寝よ」


 椅子に座った状態のまま、腕枕をして、自分の顔をのせて、リリアは寝てしまう。




 どれくらい、寝ていただろう。



 夢をみていた、気もする。


「う……んん」


 机に置いていた、トケルンを確認すると、二時間は寝ていたようだ。


「はぁ。時間の上手な使いかたを考えないと」



 夢は、たしか、リンヤと中央教会都市を歩いているときの、だった気がする。


 新魔導書を読む。

 妖精ノートに書きこむ。

 歩き周る。

 途中で、何度も足をぶつける。

 棚をみて見えない窓をみて、

 戻ってくる。


「はぁ」



 照明弾。

 少し明るくなる。

 椅子に座る。


「ヤバい。どうしたらいいんだろ」

「ナリャータク」


 呼んでみるも、返事はない。


「緑羽鳥」


 召喚できない。


「うーん」


 伸びをする。

 また、少しずつ辺りが、暗くなる。

 バックの中身をみて、また腕枕。

 あまり、寝られないかも。



 繰り返す。



 繰り返す時間。


 トケルンをみると、たしかに進んだタイマー。


 でも。


 なんとか、二十五時間を過ぎるも課題がない、いや、時間を待つという課題が、だんだんと苦しくなる。


 わ

 た

 し

 こ

 こ

 で

 何

 を

 や

 っ

 て

 る

 ん

 だ

 っ

 け

 ?



 新魔導書

 妖精ノートに書きこむ

 歩き周り

 見えない窓の外

 何度も足をぶつけ

 椅子に座りなおし

 バックの中身をみて

 また少し腕枕


 もう、何度めかの、バックの中身をみていると、これまで気づかなかった、底のほうに、なにか光る小さいものをみつける。


「なんだろ?」


 バックの中身を丁寧に、取り出していき、その光るものを手にとる。

 少し尖っているため、そーっと、机におく。


「暗い」


 照明弾をうち、周りを明るくすると、それはコインの小さな欠片だった。


「えっ、うそ。運命のコインだわ」

「でも、わたしあのときに、コインを使ってしまったのだけど……」


 でも、それはたしかに、渡された時空転移の魔法がかけられたリンヤのコインだ。


 とたんに、預言者レポートの映像が観えた。


 "リンヤ、やっと逢えた!"


 それは、懐かしいリンヤの顔だった。


 わたしは、少しずつ暗くなるこの空間のなか、ようやく目が覚めた気持ちだった。



「なに、やってたのかしら、わたし」

「ふふっ。バカね」

「わたし、リンヤに逢うために、運命をとびこえて、ここにいるんじゃない」

「バカみたい、ほんと」


 ようやくこれまで高めたスキルの使いかたを想い出す。


「レイラ、そうよね。リンヤに言わなくちゃ」


 妖精ノートをめくり、役に立つと教わった魔法を想い出す。


 旅をする妖精に向けた、再会の(あお)


 部屋のあちらこちらに、光の粒子が散らばり、周囲は一気に明るくなる。


 そのまま、粒子は光を放ち続けて、部屋はモノクロから、徐々に色をつけだす。


「さぁ、ここからよ。リリア」


 部屋が明るい色に、満たされたことで、いつの間にかリリアは、もう試練となる時間を迷うことはなくなった。


「妖精ノート、たくさん描いたなぁ」


 椅子に座ると、これまでのスキルやリンヤの想い出を始めのほうから、見直すことにした。


「そう、たしか、リンヤに会うことになったのは、コールドタイムをすることで、レイラの層にもない、花の種をしばらく預かるところから、だったよね」


 リリアは、妖精ノートと、新魔導書を見比べながら、基礎のスキルも想い出すことにする。


「基礎のは、ルーレ師匠との修行期間よね。それに、預言者と転生魔法」



 飲みものを飲み、お化粧室にいき、まだ暗いままの窓の外を眺め、また席につき、つぎつぎと、これまでの三百年の生きた証たちを妖精ノートで振り返ると、時間はどんどん経っていき、五十時間を越えて、また少しだけ眠る。


 夢のなかで、ルーレ師匠に起こされ、

 リンヤとトランプをした。


「ふふっ。わたしってば、妖精界に四名しかいない転生魔法使いなのに、ここまできてしまって、異界ドラゴンにも迷惑かけちゃったかな」


「妖精や悪魔や天使は、最後はエネルギー体となって、回収されていき、異界に連れていかれるのよね」


 妖精ノートに、たくさんの出来事を描いていき、そして、スキルを進化させて、リンヤに会い、転生魔法の修行をして。



「もう、怖くない。わたしは、ただリンヤに逢いに来た、転生魔法使い」



 アラームが鳴ると、トケルンをとめる。

 部屋の扉に、転移陣が浮かび、

 転移陣の内側に文字が描いてあった。


「後の時間に、追加できる進化スキルとあなたの願い」

「わたしは。わたしの願いは……」



 転移陣に飲まれていくなか、

 ふと振り返ると、黒い長い髪、黒いひとみに、イヤリングをした、長ズボンに、黒シャツ、シャツの腕にはマークが入っている、ナリャータクがそこにはいた。



 まるで子どものような笑顔だった。


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