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迷宮第九層トワーシス

 扉の前、リリアは眼をさました。


 ここの空間の景色は、変わらず不思議な光景だ。

 世界の果てのようでもあるし、はじまりのような場所でもある。



 前の層で、ティカットに渡されたアイテムは、もう転送してある。

 しっかりと、わたしの契約倉庫に届くはずだ。


 あれ。


「でも、わたし、分裂してるのか。ま、いっか」



 扉の文字をみると、トワーシスと読める。

 ここの空間の封印魔法使いの名前だろう。


 深く潜るほどに、身体が重くなる。


 体力回復アイテムを使うが、たぶん体力や魔力の問題ではなくて、封印魔法使いの圧力を感じるのかもしれない。


 なかなか、この空間に慣れたとはいえないが、少なくとも、これまでに挑戦を越えてこられたことは、リリアとして自信にはなっている。


「うーん」


 伸びをして、準備運動をして、試しに発声もしてみる。


「あーーーー!」


 とくに、反響はないようだ。



 ここの空間から、リリアは歩きだす。


「今度は、広い景色」


 目の前には、草原が広がっている。

 天気もよく、風が心地よく吹いている。

 草原のほかには、簡単なベンチと、その向こうに、少し山が観えている。


 どこからか、歌が聴こえてくる。


「音、どこからだろう」



 少しリリアは歩いてみる。

 サクサクと、草を踏んでいく柔らかな感触がある。

 少しずつ、音に近づいている。

 ベンチのみえる辺りに、誰かいるようだ。


「あの」


 ベンチの影から、妖精の姿がみえる。

 草の上に、座っているようだ。


 トワーシスだろう。


 起きあがって、ベンチに手をかけると、リリアに、歌いかけてくる。


「ヘイYo リリア ここまでよくきたYo」

「え」

「夜も越えつつ この果の ようにはるかに 強いリリア」

「えと」

「セイYo リリアも 歌え よ続き」

「ごめんなさい。よくわからないんだyo」


「ハハハハ」



 その妖精は、楽しそうだ。

 どこかで、鳥の声が聴こえた。

 緑羽鳥だろうか。


 紫色の短い髪に、紫の眼、長ズボン、薄いシャツに、薄めな長シャツを着たラフな格好の妖精だ。


「ああ、ヒップホップは苦手だったかな?」

「いえ、その歌うのうまくなくて」

「いや。いいんだよ。封印のトワーシスだよ」

「はい」

「じゃ、次の聴いて」


 もう次の曲がはじまってしまう。



 これは、たぶん恋愛の曲で、バラードだろう。

 よく観ると、ベンチには、新魔導書と、ギターなどの楽器が載せてある。

 仕方なく、(はし)のほうにリリアは座って、曲が終わるのを待つ。


 拍手する。


「じゃ次ね」

「待ってください。わたし試練にきたんです」

「もう一曲だけね」



 また次の曲を聴くことになってしまった。

 この曲は、ロックだろうか。


 拍手する。


「それで、試練は」

「え、あぁそうだったね」


 トワーシスは、機嫌よく答える。


「わたしの詞つくってくれ。そして、ゆくゆくは、世界を制覇」

「しません」

「わたしの曲を一緒に歌ってくれ。そして、行く先は、この世の果てに」

「いきません」

「わたしのラブストーリーを一緒にかなで」

「しません」

「なにならしてくれるんだよぅーー!」


 なんだろう。

 この妖精トワーシスは。


 あきらかに他の妖精たちとノリが違う。


 ていうか、わたし試練放棄したくなって


「リンヤとノリ違うなぁ。残念。リンヤすぐに一緒に、世界を目指してくれたのになぁ」

「ふぅ」


 とりあえず、わたしは気持ちを落ち着かせる。


「わたし、先に進みたいんです。試練の内容話してください。そうすれば、音楽も協力します」

「ふーん。そっかぁ」

「はい」

「ここの試練は、一緒に愛にまつわるなにかを創ろうとおもう」

「愛」

「そう愛!」

「せっかくの広い草原だ。ここの草花たちや緑羽鳥たちに、創ったものを披露しよう」



 わたしは、少し考えこむ。


 妖精三百年は過ぎたけど、ホントに"愛"について、わかっているのだろうか。


 黙っていると


「そんなにイヤかな」

「いいえ。挑戦します」

「うん。わかった」


 トワーシスは、ベンチに載っていたギターで、簡単な曲を聴かせてくれる。


「これに、リリアが創った詞をのせて、草花や空気や鳥たちに聴かせて、評価してもらおう」

「リンヤは、どうでした」

「即興で一緒に創って、一曲じゃ足りないと、三曲分を披露して、あっという間だったよ。もう少し話したかった」

「そっかぁ」



 詩妖精のリンヤには、きっと楽しい思い出になっただろうな。


「わかりました」

「バラード、ロック、ミディアム、ラップ、どれがいいリリア」

「じゃ、ロックな恋愛で」

「わかった!」


 トワーシスは、即興で曲をつくってくれた。


 それは、すぐにメロウで始まるのだが、

 転調を繰り返しながら、やがてスウィートになり、ハードな具合から、いつの間にか飲み込まれる、という願望に似た曲だ。


「これに、作詞をするんですね?」


 すぐにリリアは、持っていたバッグから妖精ノートをとりだして、詞に使えそうなワードを書きすすめていく。



 緑羽鳥たちが、そばを通り過ぎていく。



 作業は、まるで、草原のなかで、一瞬の風をあやつり、波模様を描きだす一枚の絵画を造る作業だった。


 気づくと、トワーシスは、ベンチの背のところによりかかり、手を首にあてながら、曲を口ずさんでいた。



 一体どれくらいの時間だろうか。


 リリアは、集中していてわからなくなる。


「はい」


 妖精ノートに、描いた詞を見せると、トワーシスは、薄いメロディをギターでかなでて、小さく歌う。


「うん。いいね」

「ほんとに?」

「うん。一緒に歌おうか」

「恥ずかしいんですけど」

「恥ずかしいのは、本気の証拠。照れるのは、なにもきみだけじゃない」


 トワーシスも、いくぶんかは、照れるようだ。


 紫色の髪を触り、ベンチの背によりかかりながら、ギターの音を流す。



 リリアが歌いだす。



 それは、旅をする妖精に向けたひとつの絵画のような作品になった。



 ""

 氷の世界に身をあずけ

 いつまでも続いた色のある場所


 トランプ並べて数をうたい

 エースをとってはにこりと笑う


 送ればかえる荷物たち

 きみがいるからできること

 増えるわたしのアクセサリー


 きみがでかけていく先は

 流れをおこす未来たち


 氷の夜に響く景色

 いつ終わるかもわからない場所


 あのときにきみがいてくれた

 わたしに色がきらめいた


 おわる果てにきみが話した

 あの魔法は続いていくよ


 さぁ次はきみの夜に


 わたしが花束をもっていこう


 きみの旅のはじまりに

 わたしの心をつれていけ

 ""



 草原を風が吹いていくと、

 歌声にあわせて、光の粒が流れてきた。


「これって」

「完成したね。光の歌だよ。照明弾よりも長もちして、暗闇を照らしてくれ。」

「わぁ。ありがとう!」


 緑羽鳥たちが、光の粒子の周りを飛びぬけていく。


「ほかの挑戦者には、違うものを教えていたんだけど、リリアにはこれかな」

「攻撃にもつかえそう」

「そうだね。威力はまだ少ないけど、閃光弾のように、相手にもつかえるよ」

「わかった」

「ありがとう。リリア。素敵だね。この曲のタイトルは、なに?」


「タイトルは、再会の(あお)


 草原の上空に、風とともに、転移陣ができる。



 リリアは、転移陣に吸い込まれていき、次の扉に向かう。

 緑羽鳥が、名残りおしいように、まだ空中に、飛びまわっていた。


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