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魔法により凍結された時間

 リリアとリンヤが務めることになった、コールドリミテッドタイムは、妖精の花の種をまもることだ。


 リリアが使っている妖精ノートも妖精の花からのインクを使うのだが、クイーンの情報だと、花の種類が減ってきてしまい、とくにこのクイーンに保存された花たちは、いまの妖精界で気候が合わないのか、数が少ないらしい。


 花を長生きさせる魔法や、種類を凍結する魔法も考案されているが、自然界にあるものは、魔法の繊細な影響を受けて変化してしまうのだ。

 そのため、時間凍結をおこない、種を保存し、花たちが生まれ変われる気候まで、保たせることが、優先になった。



 リリアもリンヤもコールドタイムを経験するのは、はじめてだが、凍結された時間のなかで、過ごすことは自由なため、自由な時間を確保できた、ともいえる、と前向きに考えている。


 特に妖精界では、珍しい変化というのは、起きにくいため、これも経験だと思うことにする。



 2xα3年、ある研究施設と、リリアとリンヤが暮らすことになった、ビルがコールドタイムに設定された。

 コールドリミテッドタイム魔法は、リリアとリンヤが共同契約魔法として二人で登録をした、限定型魔法だ。


 凍結解除日程は不明。


 今後、三十年になるか、五十年かかるかもわからない。



 リンヤは、妖精にしては高身長で顔も、リリアからみるとイケメン風だ。

 もっとも、性別種が曖昧な妖精は、それが格好いい、という明確な基準はバラバラだ。

 以前リリアは、人間たちの住む街で、女子高生というのに遭遇したけれど、そのときに格好いいひとをみて、声を上げて、歓声のようになっているのを見た。

 その感じで、リンヤも似たような、格好いいイケメンな気がしている。



 朝、リンヤはまだ眠っている。

 リリアは起きると同時に、同居人がいる、という事実に、まだ慣れていない。

 時計が、トケルン含めて、この空間では認識されないため、自然に起きるのに任せて朝の準備をする。


 準備の途中では妖精ノートもかくことになる。


 コールドタイム期間中もできれば郵便は続けたかったため、リンヤに相談すると、昼間のうちは、リンヤがいるため、交代で、夜リンヤが用事を済ませにいくことにより、朝から昼間のうちは、リリアは自由に動けるようだ。


 もっとも、種はにげまわることはないため、保管して、ときどき様子見るほかは、割と、この凍結されたビルの部屋のなかでも、暮らしていける。


 ただ、ビルの部屋は異空間になっているため、一日経ち、二十五時になると、時間リセットされるため、感覚はとても不思議な体験だ。


 もっとも、リセットされるのは時間だけで、もちこんだものや食事などは普通に利用できる。



 ゆっくり用意をして、リリアが部屋をでると、自然と外の時間は動いている。



 トケルンを時刻調整をして、六時に間に合うように、郵便室内に入る。

 郵便仕分け作業をして、七時に、いつもの配達だ。

 今日の午前便の配達はタカッチルだ。

 目の前に降り立つタカの妖精。

 ワシの妖精よりは少し小柄だが、

 スピードは速く、スマートな身体つきをしている。


 朝食を忘れたというので、先にご飯をさしだすと、嬉しそうに食べている。


「じゃ、いこうか」


 リリアがそういうと、タカッチルは、リリアを背中にのせて空中に飛び、横に一周、回転したあと、倉庫の外にだしてあった、紐につながっている荷物をキレイに爪でつかみ、足のリングに通して、さらに高くあがった。


 タカッチルは、割とおしゃべりだ。


 以前、リンヤと暮らすことになったと話すと、その話題をふるようになり、空中を進みながら、少しおおきめな声で、話しかけてくる。


「リンヤさんは、(うた)い手さんですよね。

 どんな歌なんですか」

「それが不思議な歌で」

「スローな曲と、アップテンポ曲があるんだけど、どれもみんな、スッと心のなかに入りこむような、溶ける歌声だよ」

「それは聴いてみたいな」

「夜の酒場や、ミディアム通りでよく過ごしてるみたいだけど、わたしは部屋のなかでしか聴けないんだよ」


 こう話しているうちに、郵便届け先につく。


「郵便リリアとタカッチルです」

「郵便さん、速いね」

「届けものの、新魔導アイテムカタログです」

「ありがとう」

「今度、転送契約魔法も利用しませんか?」

「いや、直接会える方法が安心するよ」

「そうですか。ご利用ありがとうございます」

「料金は、ミラカでいいかな」

「お願いします」


「リンコン」


 端末をかざすと、音がする。


「ありがとうございました」


 無事渡し終える。



 こうして、約三十件の荷物を届けたあと

 郵便施設に帰りつき、だいたい十三時に、昼食をとって、タカッチルとは、わかれた。


 このあとは、倉庫にあるテーブルで、荷物の転送作業だ。

 途中、リリアは回復アイテムで、MSPを回復させたりもする。


 午後、夕方に作業を終えて、

 夜の七時には、部屋にしているビルに戻ることができた。



「リンヤさん、いま帰ってきたよ」

「そうだね。

 では、これから出ることにするよ」


 リンヤが、ちょうどでるところで、交代で部屋をあとにする。



 リンヤのほとんどの時間は、夜の作業となる。

 夕方から、夜の時間にでかけては、酒場や通り沿い、駅周辺や森にいき、詩声を披露してくる。


 なかには、魔法アイテムをもらえたり、食事をおごってもらえたり、対価を用意してくれる。


 ときには、デートにも誘われるが、

 妖精のなかでも、リンヤはさらに恋愛に対して関心が低くて、断ってしまう。

 時間感覚がニブいリンヤは、コールドタイムの最中にあっても、割と夜の時間に動けるいまの生活は、合っているのかもしれない。



 ミディアム通りにつき、通りにある公園をみてまわる。

 公園の看板の下辺りが、通りに面しているし、明かりもあるため、歌いやすいだろう。

 軽く足元でカバンを拡げて、衣装や小型スピーカーを置いて、さりげないくらいのBGMを流しておく。


 衣装を着替えて、そのまま通り沿いをみていると、帰り道だろう妖精たちが、歩いたり飛んだり、駆けたりしている。

 そのまま、軽く息を吸い込み、はじめは小さな歌声で詩いだす。

 そして、喉の調子がでてきたところで、声のボリュームをあげていく。



 わたしたちのたどり着いた先


 氷の時計に夜の灯り


 知らずにメロディあふれだす


 きみの声にふと振り向いて


 見渡す空の群青に


 きっとキラメキ想いだす


 いつかみたその笑顔


 いまはただただ懐かしく



 詩っていると、

 妖精たちに囲まれていて、それぞれ、拍手やアイテムを手渡してくれる。


「もっと聴かせて」

「いつもどのくらいまで、やってるの」

「前もみたよ。応援してるから」


 それぞれに


「ありがとうー!」


 と言ってみる。

 次の詩は。



 公園をでて、歩きまわり、

 ビルに帰るのは、二三時をこえていた。


「帰ったよ」


 呼びかけると、

 リリアさんは、テーブルに食事を拡げたまま。


「うたた寝していた」

「いま食べる」

「そう。

 食べてきてるから、こちらの分は大丈夫」

「そっか。喉の調子はどう?」

「調子いいよ。この前はごめんね」

「いいよ、喉が調子悪いときは、休まないと」

「でも、ここの時間は、止まってるから、

 外の動きに合わせても、結局はリセットだよね」

「いまはどれくらいだっけ。

 たぶん三ヶ月は過ぎたと思うけど。

 早いのか、おそいのか」

「たぶんどちらでもないよ」

「それに、十年かかるかも、わからない」

「そうだね。

 やっぱり少し食べようかな」

「余りものもらうよ」

「そう。わかった」

「あ、リリアさん、今度絵をみせてよ」

「え、描いてるの、知ってるの?!」

「今日、聞き手さんたちのなかに、君が絵を描いてるって教えてくれた」

「どうしよ。そんなに上手くないよ」

「じゃ、少し上達してきて、みせたくなったらでいいよ」

「わかった」



 話して、食事をして

 少しトランプで遊んでいると、

 もう二四時をたぶん過ぎていた。


「そろそろ寝る?」

「そうだね、明日もリセットだ」

「そうリセットだわ」

「今度、リセットの二五時を過ぎてみよっか」

「そうだね」


 こうして、今日のところは、二妖精して、眠りについた。



 二五時、時間はリセットされる。



 二妖精を世界から切り離したまま、また朝を迎える。

 外の世界を動かして、ビルのなかと研究施設だけは、2xα3年4月の今日を繰り返す。


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