文化祭準備
9月も半ばになり、今年の冷夏もあり日に日に涼しい日が混じってくる。
今朝も出掛けにすくすく青い実を太らせる柿の木の前でニヤニヤしていると、おじいちゃん追い立てられ、時量さんも笑っていた。
そんな穏やかな私とは対照的に、玲奈ちゃんの指が一定のリズムで机の表面を叩いており、そのリズムには明らかな苛立ちが滲んでいる。
「いなくなれ。はい、いなくなれ。」
「山口、おまえ指うるせえよ。」
「うるさいなら、いなくなれよ。むしろうるさくしてどっかいけって呪ってるから。」
睨みつける玲奈ちゃんに対して、塩川はどこ吹く風で飄々とわざわざ私たちの隣の席でスマホをいじっている。
夏休み明けから塩川がおかしい。
以前は委員会の時に嫌々話しかけてくるくらいの関わりだったのに、ここのところ何故かわざわざ休み時間のたびに私と玲奈ちゃんの近くにきてスマホをいじって、たまに会話に入ってくる。
玲奈ちゃんはめちゃくちゃ嫌がってこんな感じだけれども、以前のように感じの悪い態度をとるわけでもなく、ただ世間話に混じってくるだけなので、私としては拒否する理由が見つからず、ただ2人のやりとりを眺めているだけだった。
「塩川〜。あ、ここにも係決まってない人ら発見!」
「知恵ちゃーん!塩川引き取って!いらない!不用品!」
「私も要らないし。あ、でも塩川クラス企画の担当決まってないから、決めてって話はしたい。あと玲奈と久谷さんも決まってないことに気づいた!」
「げ。いいよ、山口だけで。俺と一粒は企画代表だから。」
しかもこの唐突に始まった一粒呼び。
内心でやめてくれ〜と叫ぶ。
「え?企画代表って学校紹介の展示だけでしょ?むしろ当日暇じゃん。ハイハイ3人とも当日店員ね〜」
「え?!私まだ何も予定言ってなくない?!」
「玲奈はービジュ担当だから強制です。あー、久谷さんもビジュ担当かな、可愛いし。」
「え!今その褒めいらないよ!違う時に!」
「あはは!久谷さんいいね〜、…ていうかぁ、2人仲良いの?」
妙にニマニマしながらクラス名簿を持った千田さんが塩川と私に視線を向ける。
思わず出そうになったため息を飲み込む
「全然仲良くないよ。塩川が勝手に私たちの邪魔してるだけ。」
玲奈ちゃんがバッサリ千田さんの好奇心をぶった斬る。
「…あ、なるほど、はい。塩川どんまい。」
「山口おまえ、まじでクソ。」
「あー、こりゃダメだ」と言いながら千田さんが手を振って去っていった。
「文化祭ですか?」
リビングでお兄ちゃんにホラーゲームを操作させられている時量さんにパンフレットを見せる。
「そう、来月の17.18日の土日なんだけど、来れるかな?」
「来月ですか。」
おそらく頭の中でスケジュールを再生しているのだろう表情をしながらも、時量さんの操作する主人公が何の躊躇いもなく次の部屋のドアを開けるから、ソファーの隣でキャラクターのクッションを抱きしめているお兄ちゃんが「わぁ!おまえ!至!もっと情緒を!」と騒いでいる。
「土曜日の午後からなら行けると思います。清太郎さんもお呼びしますか?」
「いや、おじいちゃんは流石にいいかな。高校生のおままごとみたいなお祭りだし。時量さんは見たいでしょ?おままごと。」
私がノーとは言わせないぞと圧を込めた熱視線で質問すると
「もちろん見たいですよ。なんせ初めてなので文化祭。」
だよね〜とルンルンしながらパンフレットを時量さんの横に置く。
お兄ちゃんが「俺は?一粒、俺も暇だよ?」と言ってた気がしたけど、スルーした。どうせ来るし。




