6.おばけかぼちゃのシチューです
「できました。手は動かせる? 一人で食べられるかしら? 難しいようなら私が食べさせてあげようか」
「だ、大丈夫。一人でできるよ」
フェルくんは少し顔を赤くして、顔を私からそらした。
フェルくんは左手を怪我してしまっている。片手では、食べづらいと思ったのだけど。うーん。なんか余計なことを言ってしまっただろうか。
「そっか。じゃあ向こうまで歩ける? 大丈夫そうなら、リビングの方でいただきましょう」
「う、うん。わかった」
扉を抜けて、また隣の部屋へと向かう。
少し広くなったリビングには食卓になるテーブルが一つおいてある。
椅子は二つだけ。私一人しかいないから、一つでもよかったのだけど。何となく一つだとしっくりこなくて、もう一つ用意しておいたのが、役に立つ日がくるなんて。
どこか嬉しくなって、私の顔も自然にほころぶ。
テーブルにかぼちゃのシチューをおいて、フェルくんの前に差し出す。
フェルくんは椅子にこしかけると、驚いたようにかぼちゃの器から目を離せずにいた。
「おばけの形だ」
かぼちゃの飾り器なんて見たことがなかったのか、ずいぶん目を見開いてしげしげと確かめている。
まぁ私も普段はほとんどしない。ちょっと魔女らしくしてみようと思って、はりきってしまった。
「可愛いでしょ? 器も食べられるからね」
軽く自慢げに胸をはってみる。
正直いって料理は得意な方だと思う。
でもいつもは誰に食べてもらう訳でもないから、自慢する相手もいなかった。
残念ながらルナは実際にはほとんど食事はとらない。使い魔であるルナは私の魔力をもらうことで、何も飲み食いしなくても生きていけるようになっている。
たまに気が向いたら一緒に食事をしてくれることもあるけれど、ルナは面倒くさいみたいであまり食べてはくれない。だから自慢してもぜんぜん意味がなかった。
「すごい。ステラは料理が得意なんだね」
感心したように目を輝かせる。
うんうん。いいよいいよ。もっと褒めてくれていいんだよ。声には出さないけど、心の中で優越感を味わう。普段聞かない賞賛の声に、ひっそりとほくそ笑む。
「ありがと。じゃあいただきましょうか」
手を合わせて神様に祈りを捧げる。この国のマナーの一つだ。
神様なんてものが本当にいるのかはわからなかったけど、精霊がいるのだから、神様だっているかもしれない。もっとも精霊と違って神様は一度もみたことがないけれど。
神様はおいておいて、シチューを食べることにしましょう。
まだ十分にあつあつで湯気がほんのりと立ち上っている。
口元に運ぶと、少し甘いかぼちゃの香りが漂ってくる。牛乳のミルキーな香りに炒めた野菜たちの匂いがまざりあって、何とも食欲をそそる。
口にするとじゃがいもがほくほくで、ほろりと柔らかく口の中で溶けるように崩れていく。スープにはかぼちゃが全体に溶け込んでいて、牛乳の甘みと混ざり合った優しい口当たりが食欲をそそる。うん、我ながら良くできてる。
にんじんの甘みはまたひと味ちがっていて、少し柔らかで口当たりがよい。
きのこ類はたくさんの旨味をしぼりだしていて、お肉がない分、きのこの美味しさが味わいを増していた。食感も他の根菜たちとは違って、少しやわらかながらもしっかりとした歯ごたえがあって、かみしめるほどに旨味があふれだしてくる。
もちろんたまねぎの甘みも忘れちゃいけない。口の中で優しく溶けるようなたまねぎも、また違った甘みを口の中に運んでくる。
たくさんの素材のほとんどが甘みを感じさせるけれど、どれもが異なる口当たりと味わいで甘みのハーモニーを描いている。かぼちゃの甘みが全体をとりまとめていて、思わず気持ちが温かくなる気もする。
「うん。美味しくできた。どう? フェルくんのお口に合うかな?」
「うん。美味しい! こんなに美味しいごはん食べたことない」
フェルくんは目を輝かせて、シチューを口に運んでいる。
「パンをつけて食べても美味しいよ」
一緒に添えたパンをちぎって、シチューにつける。
パンは焼きたてではないから少し固くなっているけど、シチューを吸い込んでとろりとやわらかくなる。
「僕もやってみる!」
慌てたようにパンをちぎってシチューに浸す。
とろりとからみついたシチューと共にパンを口に運んでいく。
「美味しい! 固いパンがぜんぜん別物みたい」
「でしょー? やっぱり固くなったパンはこうやって食べるのが一番だよね」
フェルくんの顔をじっと見つめて微笑みかける。
フェルくんは一生懸命食べていて気が付いていないようだったけど、しばらくして見られていることに気が付いたのか、恥ずかしそうに顔を赤くしてうつむいてしまう。
まだどこか幼さを残していて可愛い。
本当にこんな小さな子がよく一人で嘆きの森を越えてきたなぁと思う。
幸い魔物には出会わなかったのかもしれない。例えばゴブリンとか、オークとかに出会っていたら、とてもフェルくんでは敵わないだろう。他にもトレントとか、ジャイアントスパイダーとかに出会っても命はなかったはずだ。
私がこんな森の向こうで一人で住んでいられるのも、嘆きの森という天然の防御壁があるからだ。普通の人間では、まずたどり着くだけでも大変だから、ここにくる人間なんてほとんどいない。
だからフェルくんを迎え入れてしまったのかもしれない。
たとえ私を殺しに来たのだとしても。
にこやかに笑いかけながら、私はなんだか息が詰まるような気がした。




