5.魔女のシチューはかぼちゃで出来てる
「そうだ。もうすぐお昼ね。ごはんにしましょう。腹が減っては戦はできぬとか、どこかの国では言うらしいし。作るのは、そうね。魔女のシチューにしましょうか」
「魔女のシチュー?」
私の提案にフェルくんは頭をひねる。
たぶん聞いたことがないのだろう。それはそうだ。今、私が考案したメニューなのだから。
足下にまた痛みが走る。
いつの間にかまたルナが戻ってきていた。
にらみつけるような顔で私のことを見つめている。
「魔女が作ったくらい美味しいシチューってことだよ」
たぶん余計なことを言うな、ということなのだろう。とりあえずとりつくろってみる。
「でも、怪我の手当だけじゃなくて、食事まで。こんなにお世話になっていいのかな」
「いいのいいの。ごはんは誰かと一緒に食べた方がいいっていうでしょ。少なくとも怪我が治るまではね」
ウインクして、私は彼に手をふる。
とりあえず台所へと向かおう。
同時にルナも一緒についてくると、部屋から出るなり、大きくわざとらしく息を吐き出す。
「どうしてわざわざ疑われるようなことを言うんだ! 別に普通にシチューだと言えばいいだろう」
隣の部屋には聞こえないくらいの、でもはっきりと怒りを込めた声だった。
「だって、面白くない? 魔女のシチュー。実際、私は魔女なわけだし、言い得て妙というべきかなーって」
「面白くない! ああ、もうっ。どうしてキミはそうなんだ。わざわざ好き好んで火種を作ることはないだろう」
ルナは呆れた様子で台所のかまどの向こう側から私をにらんでいた。
別に火種を作ったつもりはないんだけど、ルナには気にかかるらしい。
「何にしても火をおこすから、そこにいたら危ないよ」
人差し指を立てて、それからくるくると円を描く。魔法を使う際の合図だ。
攻撃呪文とかでなければ、これくらいは呪文の詠唱とかはいらない。魔女は腕と指を振る動作だけで魔法を使うことができる。
いま使うのはもちろん火の魔法。かまどに向けて火の精霊を呼び出す。
すぐにかまどの中に火が燃えさかる。
材料はにんじん、じゃがいも、たまねぎ。お肉はないから、代わりに森で獲れたきのこをたくさんいれよう。それからかぼちゃも忘れちゃいけない。かぼちゃは中身だけくりぬいておく。
私が指を振ると、野菜たちが宙を舞っていく。同時にすぱぱぱんと勢いよく細かく切れると、そのまま鍋へと投入する。
すでに加熱されていた鍋の中で、まずはじっくりと炒めていく。
ジュージューと小気味よく音を立てたら、こんどは蓋をして少しだけ蒸していく。
野菜の水分があふれてきたら、小麦粉を振りかけて、と。すぐにバターを一緒に投入。
熱でとけていくバターと小麦粉を混ぜながら、ここに牛乳も入れていく。
まだまだかき混ぜながら、少しとろみを感じてきたら、再び牛乳を投入。
またまたバターを追加して、あとはふたをしてコトコト煮るだけ。
あっと、ときどきかき混ぜるのは忘れない。焦げちゃうからね。
「うん。できた。美味しいクリームシチュー」
「魔女要素はどこにいったんだ」
ルナからつっこみが入る。確かにこのままだと普通のかぼちゃのクリームシチューだ。
牛乳をふんだんに使っているから、だいぶん贅沢ではあるけどね。
「それはこれから。さきほどくりぬいたかぼちゃの皮を取り出しまして。こちらも途中で魔法で加熱しておいたから、ちょっぴり目と口と鼻の部分だけ皮をあさくむきまして。ほら、おばけかぼちゃの器のできあがり。これにシチューを注げば。うん、完成。おばけのかぼちゃクリームシチュー」
ちょっぴり怖いけど可愛らしい、おばけのかぼちゃシチューができあがり。
ふわふわと優しくて、甘い香りが私の鼻腔をくすぐっていく。うん。美味しそう。匂いは合格だね。味もきっと美味しいはず。
さてと、これを待っているフェルくんのところに持って行かないと。
「ジャック・オー・ランタンのシチューか。まぁ、確かに魔女っぽいかもしれないが」
ルナは少し眉をひそめて呆れた様子だった。
魔女らしく振る舞わなくてもいいということなのだろうけど、フェルくんがいるからといって、いつもの自分を崩したくない。
それに仮に彼が私を殺そうとしてきたとしても、正面からであれば負けることはないだろう。多少力は使うけれど、強制的にここからお帰り願えばいいだけだ。
それに、少しばかり彼に興味がわいてきたからというのもある。
絶対に魔女に敵わないことは、フェルくんにだってわかっているはずだ。それでも魔女に挑もうとした気持ちが、どこからわいてくるのか知りたかった。
家族というものが、そんなにも心を動かすものなのだろうか。私にはわからなかった。
私にも家族というものはあったはずだった。なのに私の心の中には何も残っていない。
それとも、私には本当は家族なんていなかったのかもしれない。
遠い昔のことすぎて、もう忘れてしまったから。
「いけないいけない。なんだかちょっとセンチメンタルになっていたかしら。今はとにかくシチューをいただきましょう」
扉をあけて、フェルくんがいる部屋へと訪れる。




