4.家族ってなんだろう
「ごめんね。なんかルナ、あ、この黒猫のことなんだけど、なんかかまって欲しかったみたいで」
言うと同時に、足下に激しい痛みが走る。
「いたっ!? なんでかむの」
どうもいいぶりが気にくわなかったようだ。
ルナもこちらの部屋に戻ってきていた。
あとフェルくんの前では普通の猫のふりをするつもりみたいだった。
まぁ確かに喋る黒猫なんて、魔女の使い魔だと言っているようなものだ。
だけどフェルくんは私とルナのやりとりをみて笑みをこぼす。
「あはは。仲良いんだね」
「まぁ、もう一緒に暮らして長いからねぇ。なんとなく言いたいこともわか、いた!? だからなんでかむの!?」
ルナに抗議の声をあげていたけれど、ルナはぷいっと顔を背ける。
どうやら言いたいことなんてわかっていないということらしい。
「いいね。なんだか家族って感じがする」
「そうかな? まぁ、そうかもね。他に一緒に住んでいる人もいないし」
「ぶしつけかもしれないけど、家族の方は他にはいないの?」
「ん。そうだね。家族は、もういないかな。ずっと前にはいた気もするけど」
そう。何回か生まれ変わる前に。
家族といえる存在もあったとは思う。
魔女は生まれ変わるたびに赤ん坊の姿で生まれ変わる。だけど赤ちゃんでも魔女は魔女だ。魔法の力で精霊やルナのような使い魔を呼び出して、世話をしてもらうことで生きつなぐことができる。
だけどまれに捨て子と思われて拾われて育てられることもある。
そんなとき、一緒にいた彼らは家族だった。
家族だったと思う。
でも最後に別れたときは、まだ家族だったのかな。わからない。
私が魔女と知られた後にも、家族でいられたのだろうか。
家族とは何なのか。私にはわからない。
過去に想いをよせるけれど、もう昔のことで記憶も曖昧にしか残っていない。
魔女は何度も生まれ変わるけれど、全ての記憶を残している訳ではない。
完全に残しているのは魔法の知識と使い魔のこと。そして忘れたくないと願った記憶だけ。大切なことだけ覚えている。
だから私にとって、忘れたくない記憶ではなかったのだろう。
「ごめん。なんか、言いづらいことを訊いてしまったみたいだ」
「いいよ。それよりフェルくんの家族は?」
困ったように告げたフェルくんに、でも私は笑って答える。
昔の話だ。ステラとしての家族ではないし。気にしていない。
そんなことよりも、目の前の少年の家族の話の方を訊きたいと思った。
「僕の家族は、両親と妹がいる。でも」
「でも?」
フェルくんは少し言いづらそうに言葉を濁した。
だけどすぐに思い切ったように話を続けていく。
「お母さんが病気になってしまったんだ。治る病気なんだ。だけど治療にはすごくお金がいる。だからお金が欲しくて、だから」
「なるほどね。それで魔女を退治して報奨金をもらおうと思った、と」
昔聞いた話だと、宵闇の魔女には金貨一枚の報奨金がついているんだっけな、と心の中で思う。
一人でなら一年くらいは何もしないで暮らしていける金額だ。
とはいえ魔女と戦って命をかけるには安い。だからよほどの物好きでなければ、挑んでくるような人はいない。魔物が闊歩する嘆きの森を越えるだけでも命がけだし、その上で凶悪と噂される魔女と戦おうなんていうのは、相当な物好きだ。
それだけにフェルくんはよく無事で森を抜けてこられたなぁと感心してしまう。
でも家族が病気だから命をかけようというのはすごいなと思う。
私にはわからない感情だから。
「ま、でもいまの感じじゃとても無理だねぇ。魔女にはぜんぜん敵わないよ」
「う……」
私のはっきりとした台詞にフェルくんは言葉に詰まる。
実際フェルくんは小さなナイフはもっているようだけれど、他に武器も何もない。これで魔女と戦おうというのは無理もいいところだった。私はもちろん、他の魔女にだってとても敵わないだろう。
強いていえば寝込みでも襲えば何とかなるかもしれないけど、魔女も警戒の魔法くらいは使っているから、実際には気が付かれないように寝所に入ることは難しい。
「ここは安全だから、まずは怪我が治るまではゆっくり過ごしたらいいと思う。お金は、私には何ともしてあげられないけどね」
「……ありがとう」
フェルくんは少し落ち込んだ様子で、それでも気丈に礼を告げていた。
たぶん何もできない自分を悔しく思っているのだろう。
そんな彼に私が何かしてあげられることがあるだろうか。
少し考えたあと、私はぽんと柏手を打つ。




