35.前の人生と同じだね
「うちの村には病が流行っている。それもお前のせいだろう」
「うちの村だってそうだ。麦が全部枯れてしまった。俺たちはこのあとどうやって生きていけばいい」
「こっちは魔物に襲われた。みんな、みんな死んでしまった」
「魔女なんて、俺たちを虫けらのように思っているんだろう」
「俺はお前が悪い魔女かなんてどうだっていいけど、お金が欲しいんだ。だから俺のために死んでくれ」
彼らは口々に私の悪行をならべて責め立てる。
私には何一つ覚えがないのに。
以前もそうだった。私はみんなを救いたかっただけなのに。
それなのに。彼らは。
全部私のせいだと口々に叫ぶ。
全部、何もかも。
ああ。きっとそうなんだ。彼らの中では、もう私がこの世すべての悪なんだ。
だから何を言っても届かない。私の言葉は言い訳にすぎない。
ずっと。そうだった。
誰も話を聞いてくれなかった。
私は魔女だから。だから私のせいにして、何を言ってもいいんだ。
力が出ない。気力もでなかった。
そういえば、今日はあさごはんを抜いたんだった。
そのせいかな。もう何も否定する気もしなかった。
ごはんくらい食べてくればよかったかな。
でもそうしたら、フェルくんに追いつけなかったかもしれない。
だから。私は。
もう否定するのにも疲れた。
たぶん彼らは何を言っても聞いてくれないだろう。
そこをどいてくれないと、フェルくんを探しには行けない。
でもきっとフェルくんを探しにも行かせてくれないだろう。
彼らにとって、魔女ってそういうものだから。
前の人生でも、何を言っても話をきいてもらえなかった。
彼らにとって私の話になんて、何の価値もなくて、信じるには値しないんだ。
私はただ、みんなを守りたかっただけなのに。
もう、いいか。彼らが望むなら仕方ない。
ごはんもたべてないから、気力もでない。
彼らは私へと距離をつめてくる。でも私はこの場から動けなかった。
何もする気がしなかった。
何もしなければ、彼らの武器でつらぬかれれば、私はすぐに死ぬだろう。
ああ、でも、もしかしたら捕まって火あぶりになるのかな。だとしたらそれは嫌だな。
火あぶりで殺されるのは、とても苦しいから。それなら、せめてひと思いに殺してほしい。
『ステラ、何をしているんだ。あんな奴ら、焼き払ってしまえ。キミなら、そんなこと簡単だろう』
念話でルナが私をけしかけてくる。
確かに私の魔法一つで彼らを殺してしまうことは、簡単にできるだろう。むしろ手加減して追い払うだけの方が難しい。
『もういいよ。ルナ。だって、そんなことしたら。私は本当に悪い魔女になってしまうでしょう』
だから笑って答える。
悪い魔女にはなりたくなかった。そんなことしたら、フェルくんに顔向けできないし。
『だったらすぐに逃げるんだ。ほうきに乗ればまだ逃げられる』
ルナの言葉に私は首をふる。
たぶん逃げるだけなら簡単だろう。
でもそうしたらフェルくんをもう追いかけられない。
そうしたらフェルくんともう会えないかもしれない。
街には人が多すぎる。人の子一人捜すような魔法は、私は持ち合わせていない。魔法の力は万能ではない。どんなことでも思い通りとはいかない。
それに彼らは、きっと私を探し続けるだろう。
きっと私の家まできてしまうだろう。
そうしたら、いろいろと壊されてしまうかもしれない。
せっかくいろいろ作りあげてきたものを失ってしまうのも嫌だ。
それなら多少時間はかかるけれど、生まれ変わって、また戻ってきたらいい。
おなかもすいた。力がでない。朝ごはんを食べてない。
だから。私は何もしなかった。
その場に立ち尽くしていた。
彼らが迫ってきていた。
結局前の人生と同じだね。きっと魔女って、そういうものなんだろうね。
不意に前世の最後を思い出していた。思い出したくなんてないのに。
街を襲ってきた魔物たち。何があったかは私にもわからない。
私は彼らを止めようとした。でも私がいるというのに止まらなかった。
さすがに数が多すぎて、私といえども全てには手が回らない。
少女がおびえていた。私は「必ず助ける」と「約束」した。
彼女をかばったから。捕らえられた。人間たちに。
私が魔物を操っているのだと。彼女に襲いかかっているのだと決めつけられた。
でも約束を守るために、私は彼女から離れられなかった。
だから捕らえられた。縛り付けられた。
魔法を使うには少なくとも身ぶり手ぶりが必要だ。
捕らえられて身動きできなくされると、もう魔法は使えない。
だから魔物をけしかけた張本人として、私はつるされて。生きたまま火にかけられた。
さすがにあれは苦しかったな。できればもう味わいたくない。
それに比べたら、刃物で切られる方がずっとマシかな。
苦笑を浮かべると、私は彼らを待った。
もう。いいや。さよなら。フェルくん。生まれ変わったとしたら、もうきっと私のことわからなくなるよね。もういちどちゃんと話をしたかったな。
枯れた世界樹の葉が、また一枚風にのって、舞い落ちていた。
彼らの刃が私へと迫っていた。
私は静かに目を閉じる。
そのときだった。




