34.魔女の討伐隊
森へと向かってほうきを走らせる。
魔女のほうきのスピードは人が歩く速度よりもずっと速い。だからすぐにでもおいつくはず。そう思っていた。
最初に探知の魔法で人らしきものをみつけた場所にはまだたどり着いていない。
それなのに私の気持ちははやるばかりで、不安で不安で仕方なかった。
フェルくんはどこにいったんだろう。どうしているんだろう。
また怪我をしたりしていないだろうか。魔物とばったりであったりしていないだろうか。
そもそもどうしてフェルくんは出て行ってしまったのだろう。
私を殺せなかったから? もう私のそばにいても仕方なかったから?
どうして何も言わずに出て行ってしまったんだろう。
どうして私を殺してくれなかったんだろう。
疑問があふれてばかりで、私の頭は迷ってばかりで何の指針も示してくれなかった。
「あっちだ」
ルナが方向を指し示す。
ルナが一緒にきてくれてよかった。私一人じゃ、考えすぎて頭の中で迷子になってしまっていたかもしれない。
まだ少しだけ冷静を保つことができていた。
フェルくんは私の家にいて、私のごはんを食べたから。魔女の匂いが残って、たぶん魔物には襲われていないはず。
だけど不測の事態が起きないとも限らないし、ばったりであってしまったら、何か起きないとは言い切れない。
不安ばかりが私の中で満ちていく。
それでも森を進んでいくと少し開けた場所にたどり着く。
人間たちがたまに森の中で休憩所として使っている場所だ。
さっき人の反応があったのはこの辺だった。だからフェルくんがここで休んでいるのかもしれないと思った。
いったんほうきからおりて、辺りを見回してみる。
「フェルくん、いる?」
声をかけてみるけれど、誰の姿もない。
もう移動してしまったのだろうか。
「少しフェルの匂いがする。ここにきたことは間違いないよ。まだ近くにいるはず。でもここからどこに向かったかはボクにはわからないけど」
「そっか。それならすぐ追いつけるかも。いこう」
もういちどほうきにのって飛び立とう。すれ違いにならなきゃいいけど。
そう思ってほうきにまたがった瞬間だった。
「お前が宵闇の魔女か!?」
声の方へと視線を移すと、数人の人間たちがこちらをにらむように見つめていた。
それぞれが手に剣や弓などの武器をもっている。
途中魔物や獣と戦ったからなのか、それぞれ怪我をしていたり服に汚れが見える。
「どうやらティアの言っていた討伐隊ってやつみたいだね」
ルナが苦々しく答える。
私も彼らを困った様子で見据えていた。
こんなところで時間を使いたくないのに。
でもこうして目の前で対峙してしまった以上、完全に無視するわけにはいかない。
フェルくんの向かったであろう街の方にいくには、彼らのいる方向へと向かわざるをえないからだ。
ごまかそうかとも思ったけれど、ほうきにまたがり黒猫と話している姿をみられたのなら、いまさらそれも無理だろう。
こんなに近くに人間がいることに気が付いていないなんて、どうかしていた。
「そうだけど」
まぁ、宵闇の魔女なんて呼んでいるのは君たちだけだけどね、と心の中でうそぶく。
彼らのことなんてどうでもいいから、早く先に進みたかった。
「さっきの魔物を操っていたのも、お前だな」
「魔物? なんのこと?」
全く心覚えがない。そもそも魔物を操るなんてしたことがない。
やればできなくはないけど、面倒くさいのでやってみようと思ったことすらない。
「しらばっくれるな。やっぱりお前が世界を滅ぼそうとしているんだな」
「しらないよ。私は何もしていないもの」
「うるさいっ。だまそうたって、そうはいかないぞ」
彼らはまるで私の話を聞こうとはしていなかった。
ああ、またか。声には出さずにつぶやく。私は彼らをじっとにらみつけていた。
「だから私じゃないってば。それより私はいま急いでいるの。そこを通してほしい」
彼らが道をふさいでいる以上、私は彼らと向き合うしかなかった。
「宵闇の魔女め。数日前にこどもが一人でお前を退治しようと向かったという話もきいたが、さてはお前が殺したんだな」
「そんなことしてな――」
「だまれ!! この魔女めが。お前のせいでみんな苦しんでいるんだ!」
私の言葉を遮るように彼らは叫びだした。
彼らは私がなんと言おうと聞こうとはしない。私の言葉なんて届かない。
真実なんてどうでもいいんだ。
彼らにとって大事なのは、私が魔女であることと。私を殺すこと。それだけ。
全ての災害は私のせいで。全ての原因は魔女にある。
彼らにしかわからない理屈で、そう決まっているんだ。
過去すべてみんなそうだったから。
誰一人、私の言葉なんて聞こうとしなかった。




