33.フェルくんがいない
「ルナ、フェルくんは? フェルくんはどうしたの?」
慌ててルナに訊ねる。
ルナは毛繕いをやめて、首をあげて私の方に首をかしげる。
「フェルなら出て行ったけど。あれ、警戒の魔法で気が付かなかったのか」
ルナは驚いた様子で私を見あげていた。
そう。いつもなら誰かがこの家に近づいたり、逆に家から離れていったりすれば、警戒の魔法で気が付く。でも今日は普段より深く眠ってしまっていたのか、まったく気が付かなかった。
慌ててフェルくんの部屋へと急ぐ。
だけどフェルくんの部屋には誰もいない。フェルくんの荷物は全てなくなっていた。
そのまま急いで玄関に向かう。
外套かけには、私の外套が一つあるだけ。
フェルくんの外套はかかっていなかった。
「フェルくんが、いない。どこ。どこにいったの!?」
「てっきりキミもわかっていたものだとばかり思っていたよ。でもたぶん家に帰ったんじゃないか」
「なんで!?」
「なんでとボクに言われても知らないよ。でも怪我もなおったし、魔女を殺せないのなら、ここにいても仕方なかったんじゃないか。それに家族のことだって心配なんだろう」
「私、私は……」
どうしてこんなに慌てているのかわからなかった。
フェルくんはたった数日この家にきただけの居候。彼がいなくなったとしても、別に私の日常は変わらない。もとにもどるだけだ。
なのに私は明らかに焦りを隠せなかった。
なんで自分がこんなに動揺しているのかわからない。
「どれくらい前に出て行ったの!?」
「そうだね。夜明け前には、もう外にでていったと思う」
ルナの言葉に窓を開ける。まだ日はほとんど昇っていない。
それならまだそこまで時間が経っているわけでもない。私がほうきで追いかければ、おいつけるかもしれない。
人間が徒歩で進める距離なんて、たかがしれている。
ただどっちに向かったかがわからない。
探知の魔法でも使えばある程度は把握できるかもしれないけれど、嘆きの森の中にいるのだとしたら効果は薄い。嘆きの森の中には、さまざまな動物や魔物たちがいる。それらの反応に紛れてしまって、はっきりとはつかめないかもしれない。
それでもやらないよりはマシだ。とにかくフェルくんを追いかけなきゃ。
あわてて外に向かおうとして、こんどはルナに止められる。
「外に向かうなら、せめて着替えくらいしたらどうだい。その格好じゃ、みんなに示しがつかないだろう」
「……う。」
ルナの台詞に言葉に詰まる。
少しでも早く探しに行きたいのはやまやまだったけれど、私には魔女としての役割がある。
魔女として動物たちや妖精や魔物に威厳を示さなきゃいけない。そうしているからこそ、私は森のめぐみにあずかれるのだ。
私がいつも魔女服をきているのは、そのためでもある。
正論だけに反論のしようがなかった。
慌てて部屋に戻って服を着替える。それからいつもより雑多に三つ編みを結んで、適当に留めたら、すぐに外へと向かう。
外套を手にとってその上にまとう。ふだんのパトロールなら不要だけど、嘆きの森に入るのであれば必要になるだろう。私の外套は上半身を覆う袖なしのケープだ。ほうきにのっても自由が利いて動きやすいから重宝している。
私がほうきにまたがると、その上にルナも乗り込んでいた。
「ボクも一緒にいこう。たぶんキミよりかは多少は鼻がきくからね」
「ありがとう。ルナ。じゃあナビをよろしく」
ルナに声をかけると、すぐにほうきに力を送る。
ふわりと浮かび上がったほうきは、すぐにスピードを増していく。
同時に探知の魔法を使うと、なんとなく人間らしい存在が森の奥にいることがわかった。
でもまわりにはやっぱり魔物の存在も感じられる。もしかしたらフェルくんが魔物に襲われてしまうかもしれない。
フェルくんがまた怪我とかしちゃうかもしれない。
胸の中に不安を抱えながら、私はすぐに彼を探しに森の中へと向かっていた。




