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世界樹の葉が全て枯れてしまっても、私は毎日元気です。~死にたがりの魔女ステラと、魔女を殺しに来た少年フェル~  作者: 香澄翔


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32/43

32.前に戻った

 気が付くと窓の鎧戸の隙間から、わずかに朝日が射してきていた。


 いつの間にか眠ってしまっていたらしい。


 ランプの灯はとうの昔に消えたようで、煤だけをその中に残していた。


 窓の鎧戸を開けて、外の空気をとりこむ。

 いつの間にか晴れて澄んだ空は、少しだけ世界の終わりが延びたように思わせる。


「今日は、いい天気みたいだね」


 雨が続くと憂鬱になる。晴れて本当に良かったと思う。


 なんだか気持ちも軽やかになっていた。昨日までの自分が何を悩んでいたのかもわすれてしまった。


 そうだ。今日は何を作ろう。


 朝だからオムレツとかいいかもしれない。ふわふわでやわらかくて、口の中でとろけるような。そんな美味しいオムレツを作ろう。


 フェルくんもきっと美味しいっていってくれるだろうし。


 気持ちが前向きに変わって、私は朝の空気を吸い込む。


 大きく背伸びをして、身体をほぐしていた。


 猫用のドアから、ルナが入ってくる。


「ステラ。良かった。生きていたんだね」


 ルナがしっぽを体にまきつけながら、大きく息を吐き出していた。


「うん。まぁね。なんかフェルくんは戻って行っちゃった」


「良かった。本当に心配していたんだ。キミがくるなと命令するから、朝までこの部屋に入れなかっただろ。まったく、心配かけさせるんじゃない」


 悪態をつきながらも、ルナの言葉にはあまり棘を感じなかった。

 確かにルナには悪いことをしたかもしれない。


「いいじゃない。結局何もなかったし。でも残念だった。フェルくんが私を殺してくれるのかと思っていたのに」


「キミは、またそんなことを言う。いいか。魔女だってちゃんと生きていていいんだ。ステラとしてのキミと、ボクはまだ一緒にいたいんだよ」


「あら。珍しいこというね。ルナがそんなこと言うなんて」


 これは奇跡的なものを聞いたような気がする。


 普段は皮肉めいたことばかり告げるのに、こんなに直接的に話をしてくるなんて、ステラとしてだけでなく、昔の人生を含めても初めてきいたかもしれない。


「ボクはこれでもキミの使い魔なんだ。キミのことを心配するのは当たり前だろ」


「でも普段は皮肉屋の使い魔さんだよね。私の脳みそが虫なみとかいうし」


「そこまでは言ったことはないが、まぁ、いい。キミが生きていたなら、それでいいんだ」


 ルナは心底安心したようで、大きく息を吐き出したかと思うと、私の顔を細い目で見つめる。


 それからすぐに私のベッドの上にとびのって、全身の毛をなめて毛繕いをはじめていた。


 何度も繰り返した人生で、ルナとはもう長いことずっと一緒にいる。使い魔は普通の猫やカラスなどとは違って精霊的なものだから、寿命もかなり長い。というよりも、もしかしたらないのかもしれない。


 魔女は使い魔のことは忘れない。だからルナとの記憶はみんな残っている。


 長く一緒にいてくれた私の相棒。


 皮肉屋で、たまにはめんどうくさいこともいうけれど、私のことを思っていてくれる、ただ一人の存在。


 ルナがたまには珍しいことを言ってくれたから、私も素直にその気持ちに応えよう。


「私もルナと一緒にいられると嬉しいよ。いつもありがとうね」


「ふん。キミと一緒にいると、本当にいつも大変で疲れるよ」


 ルナは私とは顔を合わせずに、まだ毛繕いをつづけていた。


 でもしっぽが震えるように小刻みに動いていた。猫が嬉しさで興奮しているときの動きだ。


 ふふん。感情が隠せてないよ。私も顔がほころんでいく。


「さてと、まずはごはんでも作ろうかな」


 部屋の外に向かおうとする。


 でもルナは何も言わずに毛繕いをつづけていた。


 あれ。なんかおかしい。


 何がおかしいのかはピンとこなかったけれど、何か違和感を覚える。


 少し頭をひねると、すぐにその違和感の正体に気が付いた。


 いつものルナであれば「寝衣のまま部屋をでるな。着替えてからいけ」というはずだった。


 でも今日のルナは何もいわない。


 いや違う。いつものルナであれば「何も言わない」のが正しい。


 私とルナしかいないのだから、食事を作るまでは寝衣でいても、それはそれで許していた。


 違っていたのはフェルくんがきたから。フェルくんの前に、寝衣で出るなと言っていたんだ。


 だから。いまは「前に戻った」んだ。

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