27.贅沢すぎた朝ごはん
何を作ろうかな。せっかくだからすごく美味しい贅沢なものを作っちゃおう。
そうだ。朝だし、フレンチトーストなんてどうかな。卵と牛乳で甘くて美味しいのを作ろう。
ボウルに卵と牛乳をいれてお砂糖をスプーン二杯。材料をしっかりかき混ぜます。
できあがった卵液をバットにいれて、バゲットを並べて浸す。
しばらく浸している間に、お茶をいれましょう。甘いものにはハーブティーがいいかな。カモミールのお茶を作りましょうか。
お湯を沸かして、ティーポットにそそぐ。こんどはポットからカップへと移す。
カップを温めている間にティーポットにお茶の葉をいれて、新しくお湯を注ぐ。
お茶の葉を蒸らしている間に、こんどはバゲットを焼きましょう。
フライパンにバターを入れて温める。とろりととけたら、バゲットを並べましょう。
じゅうじゅう音を立てて香りが立ってきた。焼き色がついたら、お砂糖をまぶして裏返す。
そろそろお茶の蒸らしはおわりかな。カップのお湯を捨てたら、ハーブティを注ぎましょう。
そしたらそろそろ焼き上がり。
はい。かりふわじゅわっとフレンチトーストとハーブティのできあがり。
最後に自家製ヨーグルトを添えて。
美味しい朝食ができあがりました。
食べてみて頬が緩む姿を想像してみる。甘くて優しい幸せの味だ。
これならフェルくんも喜んでくれるかな。
なんだかこうして二人分の朝食を用意するのが当たり前になっちゃったよ。
ずっとこうして二人分のごはんを作るのもいいかもしれない。
うきうきしながら、私は二つのおさらをもって、食卓へと向かっていた。
「フェルくん、今日の朝ごはんだよ」
すっごく美味しくできたから、きっとフェルくんも元気がでるよね。
私はフェルくんの目の前に置くと、フェルくんは不思議そうな顔をして私のことを見つめていた。
「これって?」
「おねえさん特製のフレンチトーストだよ。食べて食べて」
勧めると、フェルくんは初めてみたようでおっかなびっくりという感じで口に運ぶ。
「あまい……すごい……」
「うん。美味しいでしょ」
感動のあまりかフェルくんはほとんど言葉を漏らさなかった。
「……美味しい。でも」
私とフレンチトーストを何度も見返していた。
「ヨーグルトも美味しいよ」
私の言葉にフェルくんは無言でヨーグルトを口にしていた。以前のグミジャムが残っていたから、そちらを少し混ぜたジャムのヨーグルト。
「うん……あまい……美味しいね」
だけどフェルくんは同じような言葉を繰り返した。今までの美味しいものを食べた時の反応と違いすぎる。
私はどうしたのかと、おろおろと辺りを見回してみる。
ルナと視線があった。ルナは嘆息を漏らして、しっぽを左右にぶんぶんと振っていた。ご機嫌が悪いようだ。たぶんルナはフェルくんがどうして元気がないのか理解しているのだろう。
でも私には答えがわからなくて、心配そうにフェルくんをみまもることしかできなかった。
「フェルくん、どうしたの。お口に合わなかったかな」
フェルくんは首をふる。
「美味しい。すごく美味しいよ。……まるで貴族の食事みたいに」
フェルくんは私をじっと見つめていた。
「これって牛乳と卵だよね」
「う、うん。そうだけど」
「こんな雨の中で、どこから牛乳を手にいれてきたの」
「え? うん。えっと」
魔法で出しました、とは口にできない。私は気が動転して、ごまかすような言葉しか言えなかった。
「えっと、ね。あの、森の向こう側に牧場があるんだよ。だから」
「牛乳ってすぐに腐っちゃうから、長持ちしないよね」
「え。あ。うん……」
「こんな雨の日にその牧場まで行ってきたの? ステラはまるで濡れてもいないのに、森を越えて?」
「あのね。あの……」
フェルくんは何か私に対して疑問を抱いているようだった。
なのに私は言葉を濁すばかりで何も言えない。
疑念を晴らすことなんてできようはずもなかった。
「だって、フェルくんに美味しいごはんを食べてもらいたくて。だから」
牛乳はいつも魔法で出していて。余ったら冷蔵庫にも入れていて。
だからいつだって手に入れられて。
でも牛乳は腐りやすいものだ。冷蔵庫にいれていなければ、一日も持たない。
冷蔵庫にいれていても、そう長くは持たない。
冷蔵庫だって、普通の人は持つことができない。私は魔力で作っているけど、一般には大きな氷をいれることで成立している。
でもそんな大きな氷を普通に手に入れられるのは、一握りの貴族や王族だけだ。
砂糖だって、白い金と言われるくらい貴重で。
でも私にとっては日常に使えるもので。
だからそんなことは忘れていて。
ただ私は、美味しいごはんをフェルくんに食べてもらいたかっただけで。
そのことが、フェルくんの疑問を深めるだなんて、まったく思っていなかった。
私は気が付くと、涙をこぼしていた。
なぜなのかその理由に気づけないまま。
頬が濡れていくことに困惑するばかりで、何もできない。
ただ私が何かを間違えてしまったことだけはわかる。
どこが、どこからが間違えていたのかはわからなかったけど。
もしかしたら、最初から全て間違えていたのかもしれない。
「ステラ……」
私が泣いてしまったことに驚いたのか、フェルくんは私の名前を呼んでいた。
そして手をのばそうとして、そのまままた戻していた。
それ以上にはもう動かない。
私にはもう触れたくないかのように。
だから私はただ謝りの言葉を漏らすことしかできなかった。
「ごめん。ごめんね……ごめん」
何に謝っているのか、何を謝っているのか。
私にはわからない。
わからないから、そのままリビングを飛び出して、自分の部屋に戻っていた。
フェルくんにこんな顔を見せたくない。
なぜだかそう思った。
私にできるのは、ぼろぼろとこぼれる涙を隠すように服の裾でぬぐいとることだけだった。
銀糸で綴られた星の刺繍が、私の涙で濡れていた。




