23.お風呂で洗濯もすましましょう
夕食のあと。お風呂に入ることにする。
この国ではあんまりお風呂は一般的ではないけど、そこは魔女の家だからね。お風呂くらいは完備している。
近くに小川も井戸もあって、お水には困らないしね。
専用の小部屋に向かって、外からつながっている水路の栓をぬくと、水がじゃばじゃばとあふれてくる。
以前に水車でくみ上げた水が勝手に流れてくるように作っておいたもの。
いちいち水くむのは魔力も使っちゃうしね。
ただ少しいつもより水の入りが遅い気がする。これももしかしたら世界の終わりが近づいてきているからだろうか。
私には知り得ないことだけれど、とりあえず気にしないことにする。
水が十分にたまったら、栓を閉じる。ついでに今日集めてきた香草をお水にひたす。
それから調理の時にかまどに入れて熱しておいた石を水桶にいれよう。
かなり熱いから、やけどしないように慎重に。鉄の火バサミでつかんだら、水の上で離す。
水に落とすとじゅわっという音が響いて、一気に立ち上がった湯気が少し私の身体をなでていく。うん。温かい。そして香草の香りが、私の気分を引き立てていく。
ちょうどいい温度になるくらい石をいれたら、石に伸ばした足がふれないように木桶の中に身体を浸す。
身体がゆっくりと温まっていく。
今日はだいぶん汗をかいたから、匂いも少しきになっていた。
あれ。いつもは匂いなんて気にしていたっけ。
なんでそんなこと気にしているんだろう。
少し首をかしげるものの、まぁでも気になるものは仕方ない。
丹念に身体を洗ったあとに、ついでに残ったお湯で洗濯もすましてしまいましょう。洗濯板を使って、いつもの魔女服もあらっていく。
銀糸で施された星の刺繍が目に入る。
魔女の印。私の印。
魔女でいることに、今まで疑問は抱いたことはなかった。
そしてこれからも私は魔女でありつづけるだろう。
私が魔女だからこそ、フェルくんと出会った。
こうして一緒にいて、なんだか楽しいなって思う。
一緒に食卓を囲む相手なんて、いままでずっといなかった。
誰かと一緒に食事をすることが、こんなに楽しいだなんて知らなかった。
でも私が魔女である以上、いつかはフェルくんとは別れなければいけないのだろう。フェルくんは傷が癒えれば、きっとここからでていくはずだ。
だけどまた戻ってくるのかもしれない。
魔女を、私を殺すために。
ズキンと胸の奥が痛んだ。どうしてだろう。いつもならそれならそれでもいいやとしか考えていなかったはずなのに。
今日はなんだかいつもと違うことが多すぎた。疲れているのかもしれない。
だけど。洗っている途中の魔女服を、なぜか私は抱きしめていた。
理由なんてわからなかった。
銀糸の刺繍をつつむようにして、私の視界の外へと送る。
誰にも見えないようにしたかった。
静かに目をつむる。時間が止まったかに思う。
その時だった。
『ステラ、大丈夫?』
突然に小部屋の外から声をかけられる。
フェルくんのものだ。
慌てて私は魔女服で自分をつつむようにして身体を隠す。
あれ。私はなんでこんなことしているんだろう。別にフェルくんは部屋の中に入ってきたわけじゃないのに。
「う、うん。大丈夫。どうしたの」
『大丈夫ならいいんだ。ずいぶん長かったから、何かあったんじゃないかと思って』
「あ、うん。今日は洗濯も一緒にすましちゃおうと思って、それでちょっと長くなっちゃった」
『そっか。それならいいんだ。ごめん。邪魔したね』
扉の向こうでフェルくんの足音が、少しずつ遠ざかっていくのが聞こえていた。
なぜか私の心臓がばくばくとすごい音を立てている。
どうしてこんなに心臓がうるさいんだろう。
何から何までいつもと違う自分がいて、私の頭の中は混乱が隠せない。
大きく息を吸い込む。
きゅっと胸元を押さえつけていた。
濡れた魔女服が、少しだけ冷たい。




