22.きのこの油煮は幸せですか?
帰ってきて収穫したきのこや香草を食べられるものと、食べられないものに分けていく。
薬の材料になるものはものによっては早めの対応が必要だ。いくつかのきのこや香草はすぐに干したり刻んだりしていく。
残った食べられる材料は今日の夕食に早速使おうと思う。
なんとなくなぜか気持ちが沈んでいたけど、ごはんの準備を始めれば気分もあがるっていうもの。
今日はせっかくだから、たくさんとれたきのこを使って、きのこの油煮を作ってみましょう。
昨日のクルミ油がまだあったから、クルミ油で煮てみましょう。
きのこの土や汚れをおとしたら、ある程度大きさが同じになるようにサイズを整えます。
それからにんにくを刻んだら、フライパンにクルミ油をひたひたに入れて、弱火でじっくりにんにくを加熱します。
にんにくの香りが立ってきたら、きのこを入れて塩を少々。
じっくりじっくり弱火で煮込む。ふつふつふつと泡立つ油が、きのこの旨味を引き出します。
最後に香草をいくつか加えて。
きのこの油煮の完成です。クルミ油のクルミの香りとにんにくの香りがあわさって、そこにきのこの土のような香りが微かに加わる。うんうん。芳醇な香りがあたりに漂う。
美味しそうな香りが、私の沈んだ心を癒やしていく。
同時に作っていた焼きたまねぎのハーブ添えも、焼き上がりました。
こちらはたまねぎを半分にきって、ハーブを添えてオーブンで焼くだけの簡単料理。
でもそんな単純な料理なのにたまねぎの旨味がたまらないんだよね。タイムとローズマリーを加えた、爽やかでスパイシーな香りがもう脳天をくすぐっちゃいます。
うん。もう最高。
ここに一緒に焼いたパンを添えて、今日のごはんの完成です。
食卓に向かうと、フェルくんがちゃんと座ってくれていたことにほっと息を吐き出す。
ルナは食卓の下で丸まっていた。私に気が付くと、ちらりと顔をあげたけれど、またすぐに顔をうずめる。
「今日のごはんはこちら。森のきのこの油煮と、焼きたまねぎのハーブ添えだよ」
「うん。ありがとう」
だけどフェルくんは、どこかよそよそしく答えただけだった。
あまり食べたことがない料理でそそらなかっただろうか。
「油煮は今日フェルくんと一緒にとったきのこだよ。この油でひたひたになっているところが、背徳の味なんだから」
「そっか。これは今日のとったきのこなんだ」
フェルくんはやっと少しだけ表情から陰りが消えたように思う。
興味深くきのこの油煮を見ている。
この辺では珍しい料理だし、たぶん見たことないんだろうな。
「これはすっごく美味しいんだよ。あ、でも油であつあつだから、やけどしないように気をつけてね」
「うん。本当に美味しそう、すっごくいい匂い」
だけどどこか沈んだ声で、私に応えていた。
私と違って、フェルくんは料理の香りでは元気がでないようだった。
「どうしたの?」
「……なんでもないよ」
少しためらいと共に答えるフェルくんが、私はどうしても気になった。
余計なことかなと思いつつも、つい問いかけてしまう。
「なんでもなさそうだよ。ね、何かあるんだったらおねえさんに相談してみて」
「ごめん。ただ街に残してきた家族が気になっているだけなんだ。こうしている間も母さんは苦しんでいるのかもって思うと、自分がここでこうしていていいのかなって心配になって」
フェルくんは私とは顔を合わせずに吐き出すように告げていた。
もともとフェルくんは家族を救うために私のもとにやってきた。
でもここにいても、その目的は果たせない。
だから沈んでしまっているのかもしれない。
「でも怪我しているんだから仕方ないよ。左手はだいぶんよくなったみたいだけど、それでもまだ少し痛むでしょ。怪我がなおるまでは、ここにいていいんだよ。そのあとのことは、それから考えたらいい」
「うん……そうだね……そうだ」
フェルくんは自分の左手を右手でさすりながら見つめていた。
もうほとんど問題ないだろうけど、あまり無理をするのはよくない。帰るにしても嘆きの森を越えなければならないのだ。万全の状態でなければ森はぬけられない。
私が空を飛んで送ってあげれば、すぐなんだけど。さすがにそういうわけにはいかないよね。
ちらりとルナへと視線を送ってみる。
ルナは何かを感づいたのか、目を細めてにらみつけてきていた。私の考えることはお見通しらしい。
「うん。とにかくいまはごはんたべようよ。せっかく作ったのに冷たくなっちゃう」
「そうだね。うん。ありがとう、ステラ」
やっと少しだけフェルくんの顔に生気が戻ってきた気がする。
これはきっと、ごはんの魔力だね。美味しいもの食べるのが、何よりも幸せだもの。
フェルくんはきのこをフォークで刺して、口に運んでいた。
「美味しい。本当に美味しいよ。ほっぺたが落ちるかと思った」
フェルくんがやっと笑ってくれた。やっぱりごはんを食べることが、元気の源だよね。
「よかった。じゃあ私もたべよっと」
私もきのこの油煮を口にする。ちょっと歯ごたえのあるきのこをかみしめると、クルミ油の味わいとまじりあって、強い旨味が広がっていく。
油が多いから、ちょっと背徳感もあるけれど。こんなに美味しいんだもの。太っても仕方ない。……いや、やっぱり太るのはだめだ。まぁ、きのこだからきっと太りづらいよね。
それから焼きたまねぎのハーブ添えにも手をつける。
焼いたたまねぎは甘みが凝縮されて、とろりと口の中でとろけていく。
まるでデザートみたい。
こんなに単純な料理なのに、複雑な味わいが、もうたまらない。
幸せでいっぱい。こんな幸せな気持ちを、フェルくんにも味わってもらえているかな。
フェルくんへと顔を向けてみる。
美味しそうに食べてくれてはいる。
でもだけど心の中に、違う何かを抱えているように思えた。
私はいつも食べていたら幸せなのに、やっぱりフェルくんは違うのかな。
なぜか目を合わせられなかった。
「ねぇ。ステラ」
「うん、なぁに?」
なのに急な呼びかけに、フェルくんへと顔を向ける。
いけないいけない。いまは余計なことは気にしないようにしなくっちゃ。
「宵闇の魔女って、どこにいるのかな?」
思ってもいない質問に私は一瞬頭が真っ白になる。
「え、え? どうしたの、急に」
「このあたりにいるって聞いたから」
「う、うーん。どうなのかな。私は自分の目では見たことないから」
嘘はついていない。鏡越しでなら見たことはあるけれど。
「そうか。場所が違うのかな」
フェルくんは、ぼそりとつぶやく。
魔女のことが気にかかるのだろうか。でもはっきりと告げておいた方がいいかもしれない。
「フェルくんには魔女を殺すなんて無理だと思うよ」
「……そうかもしれない。でも」
正直な言葉だった。だけどフェルくんには届いていないようでもあった。
まだ変わらず魔女を殺そうと思っているのかな。
なんだか少し寂しさを覚えた。




