19.魔女の散策、魔女の約束
「本当につれていくつもりなのか」
ルナの声が響く。
いまは私とルナの二人で自室に戻ってきている。
「だって約束しちゃったし」
私の言葉にあきれたように深く息を吐き出す。
「ただの散策じゃない。魔女の散歩だぞ。いろんな奴らの話をきくだろう、というか向こうから話しかけてくるだろう。不自然に思われないとでも思っているのか」
「大丈夫だよ。人間には動物たちの声なんてわからないし。大事なことは、なるべく念話で話すから」
「キミは脳みそに綿でも詰まっているのか。それですむわけないだろう。例えば中には人間とは話さないが、魔女とは言葉で話す奴らもいるだろう。妖精とか」
ルナの言葉に頭をひねる。
確かにおしゃべりに話しかけてくる子もいる。
「わかった。じゃあその子たちには先に念話で話しかけるようにする」
私のお気軽な言葉に、ルナは深く深くあからさまに息を吐き出していた。
ルナの溜め息はいつものことだけど、今回はよっぽどのことらしい。
そういえば、これは何回目だったっけ。もう忘れちゃった。
「どうしても行くつもりなのか?」
「だって約束したもの。魔女にとって約束っていうのは、大切なものなんだよ」
私の言葉に、ルナは息を飲み込む。
言葉通りに魔女にとって約束というのは、大切な意味をもつものだ。
魔女は約束、契約といってもいいけど。そのつもりで口にしたことは破ることはできない。
破れば重い罰がくだる。だから人に知られてはいけない。
知られてしまえば、どんなに力を持っていたとしても、利用されて殺されてしまう。
いわゆる『悪い魔女』の中には、そうして人間に利用されて悪い魔女であることを強いられてきた善き魔女も、騙されて人間の言葉が信じられなくなって自ら悪い魔女に変わった悲しい魔女もいただろう。
本当に心から悪い魔女なんていない。
私はそう思っている。
だけど人は魔女を放っておいてはくれない。理由はさまざまだけれど、魔女は人とは違う生き物なのに、人と同じ生き物だから。人は魔女に近寄ってくる。
フェルくんが、私を殺しに来たみたいに。
忘れてしまったわけでもない。ルナの懸念も理解している。
それでもフェルくんが私を殺すだなんて、考えられなかった。
だけどもしもそうなったとしても。それでフェルくんの役に立てるなら、それはそれでもいいかもしれない。
私は新しい魔女の人生をまたもういちど繰り返せばいいだけだから。
「……キミは。ステラは、もう少し自分のことを大切にした方がいい」
「大切にしてるよ? ちゃんといつも美味しいごはんを食べているもん」
自分を大切にすることと、美味しいごはんを食べることは同じだと思う。
食事は健康の第一歩だしね。
どこか浮かれた気持ちでいる私に、ルナは目を細めて、だけどそれ以上には何も言わなかった。
約束とはそれほど重いものだから。




