17.おねえさんがあーんをしてあげよう
あれから川で大きめのお魚を数匹捕まえてきた。
一人だと魔法を使い放題なので、お魚を捕まえるのは簡単だった。
機嫌を損ねていたみたいだから、一匹はルナにあげよう。普段はあんまり普通の食事はしないけれど、お魚だけは好きだったはずだ。
さてとキッチンで火をおこす。とりあえずお魚は焼くことにしましょう。
お腹から内臓をとりだして、少し塩で表面をこすってヌメリをとる。
お塩をぱらぱらとふりかけたら、お腹にタイムにローズマリーをこれでもかとつめまして。
それからじっくりゆっくりじわじわ火をいれます。
だんだん火が通るにつれて、お魚の焼けた香ばしい匂いが漂ってきます。
タイムの少し爽やかな香りと、ローズマリーの松の葉のような香りも合わさって、複雑な香りが漂ってきます。
あつあつに熱せられたお魚は、少しずつ表面に焦げがあらわれてきて、だんだん食べ頃に。
あっとお魚だけじゃ寂しいからね。実はひっそりスープも作ってました。
根菜をたっぷりいれた野菜のスープ。じっくりことこと煮込んでます。タイムも少しいれてあるから、優しい爽やかな香りが漂います。味付けは塩をベースに野菜自身から出た旨味を活かします。ちょっとだけ入れたきのこからもダシがでてるはず。
うん。いいんじゃない。お魚と合いそう。
さてと、これでできあがり。今日はちょっとシンプルな料理だけど、フェルくんはどう思うかな。
お魚とスープをもって食卓に向かう。
フェルくんは今日も食卓にちゃんと座っていてくれている。
だけどどこか鋭い目つきで私をじっとにらむように観察していた。その視線にややどこかトゲがあるような気もする。
うーん。何だろう。何かしたっけ。それともごはんの準備が遅すぎたかな。
「おまたせ。今日はお魚とスープだよ」
極力明るい声で告げる。
でもフェルくんは、さきほどまでの強い視線とは別に、慌てた様子で顔を背けてしまう。
「あれ。どうしたの?」
「いや、うん。その。なんでもない」
フェルくんはあからさまに動揺していた様子で、私と目を合わせない。
これはもしかして。
ぴんときた私は、ちょっと口元に笑みを浮かべながらフェルくんに告げる。
「もしかしてお魚嫌い?」
「いや、えっと。……うん」
ごまかせないと思ったのか、フェルくんはすぐに認めて顔を沈めている。
お魚美味しいのに。
「せっかくだから、食べてみてよ。お魚も美味しいよ」
「う、うん。こんな状況で、好き嫌いはよくないってわかってはいるんだけど」
フェルくんは手にしたフォークを全く動かそうとはしていなかった。
いまは前よりも食料が手に入りづらくなっているらしい。まだどこにもないといった状況ではないものの、値段は上がっているという話は聞いたことがある。
だから食べ物を残すだなんて、普通の人はしない。フェルくんだって、今まで美味しいと言いつつも、いくつかの具はやや苦手そうにしていたものもあった。
でも残したりは決してしなかった。食べ物の大切さは身に染みてわかっているのだろう。
だからこそそれでも顔を背けるというのは、よっぽど苦手らしい。
これはもう仕方がない。
私がうまく食べさせてあげるしかないね。
「じゃあ、ここはステラおねえさんが食べさせてあげよう」
フェルくんのすぐ隣の席に腰掛けると、フォークとナイフをうまくつかって、お魚の身をほぐす。それからフォークでお魚の身をすくって、フェルくんの口元へともっていく。
「はい。美味しいから食べてみて」
「あ、いや。うん」
「うんじゃなくて。ほら、あーんしてっ」
口を開けるようにフェルくんに迫ると、フェルくんは急に慌てたように身をよじって私から距離をとる。
「たべるっ。一人でたべるからっ」
フェルくんは慌てた様子で首を振ると、自分のフォークでお魚をすくう。
あからさまに避けられた様子に、おねえさんはちょっとショックです。寂しい。
でもまぁ食べてくれるならいいか。
隣の席でじっとフェルくんの顔を見つめていると、何か少し頬に赤みが増してきた気がする。
部屋の中、ちょっと暑かったかな。たしかに今日は畑仕事もしたし、身体が熱をもっていても不思議ではないけど。
フェルくんは私と反対側に顔をむけて、それから思い切ってお魚を口の中に運んでいた。




