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世界樹の葉が全て枯れてしまっても、私は毎日元気です。~死にたがりの魔女ステラと、魔女を殺しに来た少年フェル~  作者: 香澄翔


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15.こんなに贅沢なごはん食べたことないから

「卵を使っているからかな。あとジャムもあるしね」


 考えてみると卵もそれなりに贅沢品だから、珍しいのかもしれない。


「卵なんて滅多に食べたことない」


「うちは庭に二羽ニワトリがいるから、卵はそれなりにとれるんだよ」


 にわにはにわにわとりがいます。ほんとです。


「すごいな。ステラは。いつもこんなものを食べているの?」


「んー。そうだね。いつもってわけでもないけど、たまには」


 パンケーキはあんまり焼かないから、ひさしぶりかな。

 ジャムは保存がきくからそれなりには作っている。

 メープルシロップは森のカエデから、たまに採集しているかな。


 うん。そんなにいつもではないと思う。


「すごいね……。本当に」


 フェルくんは何か考え込んでいるようだった。そのどこか憂うような表情からは、料理への感動とは違うもののような気がする。


 何かまずいことを言ってしまっただろうか。

 それともまた家族を思っているのだろうか。


 家族。家族かぁ。


 私にはよくわからないけれど、それだけ大切なものらしい。


 家族とは一緒に生活を共にしている人たちのことだというのは知っている。


 その定義だと、もしかしたらルナは私にとって家族なのだろうか。


 ちょっと考えてみるけれど、やっぱりルナは使い魔だし、私とルナの間には契約がある。その契約を果たすためにルナは動いているし、私も契約のために働いている。


 もう長い二人の関係は、たぶん契約だけの関係でもないけれど、やっぱり家族とは違うもののような気がする。


 まぁ、強いて言うなら友達の方だろうか。


 友達もいたことないから、そっちもよくわからないけど。


 ……たぶんいたことはなかったよね。


 少なくともステラとしては友達がいたことはない。でも大昔ならもしかしたら友達と呼べる存在もいたかもしれない。


 過去のことではっきりと覚えているのは大切なことだけ。


 友達の記憶はない。だからいたとしても、たぶん大切なものではなかったのだろう。


 なぜか胸の奥が冷たく凍るような気がした。

 覚えていなくていいことは、たくさん覚えているのにな。


 ひとりでに口からこぼれた言葉に、気が付くとフェルくんが私の方へと顔を向けていた。


「ステラ。いま何かいった?」


「ううん。ひとりごと。気にしなくてもいいよ」


 笑いかける私に、だけどフェルくんはどこか訝しんでいるような様子を見せる。


 だけどすぐにまた食事へと戻った。


 覚えている大切なこと。魔法のこと。精霊のこと。使い魔のこと。前世の名前。どれだけの時間生きていたか。それから、前世でどうやって死んだのか。


 それだけははっきりと覚えている。何度も繰り返してきた分すべてを。

 そんなこと覚えていなくてもいいのに。


 あとはそのときどき人生ごとに、本当に大切に思っていたことは覚えている。


 一つ前の人生で他に覚えているのは、ごはんの作り方。


 まぁ、ごはんだよね。ごはん以上に大切なことなんてないと思う。


 うん。大切だ。


 とりあえずはちゃんといま朝ごはんをたべよう。まずは考えるにしても食べてからだよね。


 思い直して、私はパンケーキと目玉焼きを合わせる。


 目玉の部分を二つにわけると、とろりと黄身がこぼれてくる。


 そこをパンケーキと一緒にぱくりといただいてしまおう。


 パンケーキの甘みと、黄身の濃厚なコクがあわさって、口の中でハーモニーを奏でちゃう。もう絶品。


「うんうん。パンケーキと目玉焼きを一緒に食べても美味しいよ!」


「うわぁ。それは、すごく贅沢だよ」


 フェルくんが少し及び腰になっていた。


 でもこの味わいはぜひフェルくんには楽しんでほしい。


「ほら、試してみて? 絶対美味しいから!」


 私の声に、フェルくんはおそるおそるという感じでパンケーキに目玉焼きを半分のせていた。

 それから思い切ってぱくりと口へと運ぶ。


「美味しい。口の中でいくつもの味が重なってる。こんなに美味しいものが、この世界にもたくさんあったんだ」

 フェルくんがしみじみと深くうなずきながら語る。パンケーキをまっすぐに見つめていた。


「お母さんの作った料理は、もっとシンプルで塩味だけだったから」


 フェルくんがぽろりと言葉をもらす。


 でもその言葉とはうらはらに、なんだか恋しそうにも思えた。


 塩味だけ。言われてみれば、世界はだんだんと滅びに向かっているのだと思う。


 世界樹の葉が枯れるくらいだから、農作物も育ちづらくなっているのかもしれない。


 私は魔法の力もあるし、こうして世界樹のそばにいるから、その力の影響もあって、作物が育たないだなんて経験はしたことがない。


 だけど場所によっては、枯れ果てた地面に変わっていても不思議ではなかった。


 まぁ、みたことがないからよくは知らないけれど。


 でも、私にはあんまり関係ないし、私にはどうしようもない。一介の魔女にできることなんてたかがしれている。だから世界が完全に滅びてしまうまで、私はのんびりここで生きていくだけだ。


 フェルくんはそのあとしばらくは何も言わなかった。


 ただ昨日よりもさらにしっかりと朝食をかみしめているようだった。

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