11.銀糸で出来た星の刺繍
次の日の朝。いつも通りの朝が始まる。
「まだ……ねむい……」
ぼぅっとする頭のまま、寝ぼけ眼を何とかこする。まだベッドから起き上がれない。
「朝はきちんと起きる。規則正しい生活は大切だよ」
ルナが私の顔をぺしぺしと前足で叩いてくる。
肉球がやわらかくてくすぐったい。
たぶん起きるまで叩かれ続けるのだろう。
仕方なく起きることにする。
身体を起こして、そのまま部屋をでようとしたら、ルナの声が響く。
「その格好のまま出て行くつもりなのかい? 彼を誘惑するつもりなら止めないけど」
ルナの言葉に自分の格好を見返してみる。
ゆったりとした白い寝衣。それほど肌の露出が多いという訳でもない。
まだ髪も結んでいないから、なみなみと揺れるようにウェーブした金色の長い髪が広がっている。
少しだらしない気もするけど、そんなに悪くないとも思う。
「うーん、だめかな?」
「だめだよ。キミが良くてもフェルが困るだろう」
「そうかなぁ。言うなら昨日の服の方が露出多くない?」
「そういう問題じゃないんだよ。キミはほんとに無頓着だね。いいから着替えてからいくんだ」
「はーい……」
怒られたのでしぶしぶ着替えることにする。
だらだらできないのは困るなぁ。そういう意味ではフェルくんを招き入れたのは失敗だったかもしれない。
でもルナ以外の話し相手がいるというのは、新鮮で楽しいとも思う。
いつもの魔女服。濃紺のワンピースに着替えて髪も三つ編みに結んで、とりあえず鏡の前でくるりと回ってみる。銀糸で施された小さな星の刺繍。私の名前でもある星の刺繍が、私が魔女であることの印。
濃紺は宵空の色でもある。私が宵闇の魔女だなんて言われているのは、この服のイメージもあると思う。
ステラとして人と触れ合ったことはそれほど多くはない。
でも過去には魔物の群れが現れた時、魔法で追いやった場面を誰かに目撃されたりということはあった。次第にその話に尾びれがついていったのだろう。もしかしたら魔物を操るだなんて話もそのときの話が違うように広がったのかもしれない。
何度人生を繰り返しても、同じような服を着ている。違うのは銀糸の刺繍の形だけだ。だからきっと人間からは、ステラもそれ以前の人生も、一人の同じ魔女だと思われているのだろう。
「たまにはその服以外の服は着ないのかい?」
「ちゃんと洗濯しているし、同じ形の服がいくつかあるだけだよ」
ルナの言葉に首をかしげる。別に毎日同じ服を着ている訳ではないのになって。
「そういうことじゃないんだよ」
ルナがまた長く息をもらす。なんか毎日ルナの溜め息を聞いている気がする。
こんど数えてみようかしら、なんて思わず口元に笑みが浮かぶ。
しかし別に困らせるようなことは何もしていないはずだけどな。
「フェルがいるのだから、魔女服じゃない服をきたらどうかと言っているんだけど」
「んー? 別にいいんじゃない?」
どうせ昨日も着ていたのだから、それで気が付かれるなら、もうとっくに気が付かれているだろうと思うのだけど、ルナはまた深く深く息を吐き出していた。とりあえず今日は二回目、かな。
「まぁ、キミがそれでいいのなら、好きにするといいさ」
ルナは諦めたのか、それだけ告げるとそのまま部屋から外にでていく。猫扉がギィと鈍い音を立てた。
もういちど鏡で自分の姿を見てみる。
これはこれでそれなりに可愛いと思うけどな。いつも通りだけど。
もう長くずっとこの服をきている。成長するにあわせて布を継ぎ足したり、仕立て直したりはしてきたけれど。
いちおうこの服以外もあるのだけれど、何かの理由で街にいく時くらいにしか着ることはない。私の顔は知られている訳ではないので、魔女服を着ていなければ魔女だと気が付かれる危険性は低い。と思う。たぶん。
そう思うと違う服を着るべきなのかなぁとも考えなくもないけれど、すぐに気にせずにそのままでいくことにした。もう昨日見られているのだから、いまさらだ。
気が付かれたら気が付かれたでいいんじゃないかな。
そのために自分を変える必要はない。ありのままの私で行こう。
そんなことを考えながら、寝室を後にした。




