10.家族のためにできること
夜、お風呂上がりにリビングに向かうとフェルくんが何か作業をしているようだ。
よくみると何か木を削っているようだった。
じっと眺めてみるけれど、それ以上には何をしているのかはわからない。
わからないから訊いてみることにした。
「フェルくん、なにしてるの?」
「ああ、ステラ。ごめん、ちらかしちゃって」
「ううん。それはいいんだけど、何してるのかなぁって思って」
私はフェルくんの手元をじっと観察してみる。
お守り、だろうか。その小さな木片は四つ葉の形をしているようだった。
「妹に、お守りを作ってあげようと思ってさ。なにせ妹に魔女を倒してくるって一方的に告げて出てきちゃったから。たぶん泣いていたと思う。だから、お詫びの印に幸運のお守りを作るつもりなんだ」
手元で小石くらいのサイズの木片を器用にナイフで削っていく。
同時に妹さんにお守りを作ってあげるという感覚が私にはわからなくて、ちょっと不思議に思えた。
フェルくんはここにはいない人のために何かをしてあげようとしている。
私はたまたまフェルくんを見かけたから助けてあげたけど、もしも私の見えないところで倒れていたのなら、私は何もしなかったと思う。私にとって知らないことだから。
でもフェルくんは妹さんのために何かをすることを当然と考えているようだった。
それって家族だからなのだろうか。疑問に思えた。
「うちの家族はさ、けっこう仲は良い方だと思うんだけど、フェリア、あ、妹のことなんだけど。妹はさ、父さんは仕事で忙しいし、母さんは病気だから。まだ小さいのに誰にも甘えられなくて。それがかわいそうで。せめて、僕が何かしてあげられないかって思って」
手元のナイフを動かしながら、フェルくんは器用に削りお守りを作っていく。
「……こんなことしかしてやれないんだけどね。帰ったら、せめて何か一つでもフェリアにプレゼントしてあげたいんだ」
ある程度できたお守りをフェルくんは眼前で、ひっくり返したりしながら細かいところを確認しているのがわかる。
フェルくんは家族思いなんだろう。
家族のために命がけで魔女退治に向かって、家族のために今お守りを作っている。
フェルくんの行動原理の中に、家族という存在があるのは明らかだ。
私にはわからない。
どうして家族のためにそこまでできるのだろう。
私はずっと一人だった。一緒にいるのが当たり前で、その相手のために何かするのが普通のことで。そんな関係のことは理解できない。
だからフェルくんがこうして家族のために何かしようとしているのは、不思議で仕方なかった。
でもそれは悪いものではないのかもしれない。
フェルくんが妹さんのことを話しているとき、本当に優しくて楽しそうな顔をしていたから。
「いいね。素敵だね」
だから素直に私もそう応えていた。
小石と同じくらいのサイズの木片でできたお守りが、私にはキラキラと輝く宝石よりも、ずっとまぶしくて輝かしいもののように思えた。
「ありがとう。うちは貧乏だからさ、こんなものしか贈れないのが恥ずかしいけど」
「そんなことないよ。きっとそのお守りは妹さんにとって、下手な宝石よりも、きっと価値があるものだよ。だって、フェルくんの想いがそんなにもこもっているのだから。きっと喜んでくれるよ」
少し声が大きくなってしまった。
そう。私なら、お金がかかった金銀財宝よりも、世界でたった一つしかない手作りのお守りの方が、ずっと欲しいと思った。
私はたいていのことは魔法で思い通りにできる。
でも思いのこもったお守りをもらうことは、私にはできない。
だから妹さんがうらやましいと思った。
私にはそんなものを作ってくれる人は、世界のどこにもいないのだから。




