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第四話 カシアの大反省会





「なぁに? そんなに見つめられたら食べにくいわ」


 お昼休み、カシアはライラと共に中庭で昼食を摂っていた。


「綺麗だなぁって思って」


 まるで絵画から抜け出てきたかのような姿の親友を見て、カシアはへにゃっと笑って見せた。


「カシアは健やかでしなやかで、可愛いわ」


「可愛いのはウィスタリアよ」


 カシアは笑って首を横に振って続ける。


「私はそういうんじゃない、って分かってる。ほら、ダリルともマグナスとも歩いていても私なら誰も嫉妬しないもの。何ならダリルなんかは私が婚約者で気の毒に思われて……」


「カシア」


 珍しくライラが真顔で見つめる。


「な、なに?」


「カシアのそういう無邪気で可愛いところ、私は好きだけど、そうやって自分を卑下してはだめ」


「そんなことしてな……」


「カシアは素敵な女の子。私の大好きな大親友よ。私の……大事な幼馴染と、結婚する……大切な人よ」


「……うん」


 特に自分を軽く見ているつもりはないが、ライラにこんな顔をさせたくないあまり、カシアは頷いた。


(ほんと、良い子なんだよね……ライラ)


 心から思ったから、カシアはそのままを口にした。


「ライラがダリルと結婚してくれたら良かったのに」


「!?」


 「本当に、そうできたら良かったわね。」って、笑ってもらえると思っていた。


 そうやって笑い合えると、思っていた。


「……ライラ?」


 親友は一気に耳まで赤らめた後、それからくしゃりと表情をゆがめた。


「そんなこと言うカシアは……嫌い」


「え?」


 ぽろりと、大きな瞳から滴が零れた。カシアは目を見開く。


「ごめんなさい……今は……ダメ」


 ライラはそれだけを言って、立ち上がって、茫然とするカシアを置いて走り去ってしまった。


 カシアならば全力で走れば追いつける。「ごめん」って謝ればいい。そう思うのに、足がすくんで動けなかったし、今はそうするべきじゃないということは分かった。だからといってどうしたらいいのかは全く分からなかったけれど。



・・・*・・・*・・・*・・・*・・・



 帰宅後、カシアは食事を拒否した。そんな事態は初めてだったので家族全員に驚愕されたが、ろくに説明もせずにカシアはそのまま自室に引きこもった。ライラの表情が、声が、いつまでもいつまでもカシアの瞼の裏と耳元で反芻していた。


「どうしたらいいの? 何がダメだった?」


 ひとり呟くカシアの視界に、昨日ウィスタリアが押し付けてきた恋愛小説が目に入る。


(これに答えが書いてあるのかもしれない)


 カシアはのろのろと机まで歩き、本を開いた。気が散るのを必死で集め続けて一通り読んだ。でもやっぱり意味が分からない。登場人物の気持ちがまるで分からない。


「答えなんて書いてないよ、リア……」


 泣き言を言いそうになって、カシアは頭を思いっきり振った。


「だめだ。これだけは私が自分で理解しないとダメな気がする」


 次に登場人物の名前を紙に書き出して状況整理をした。誰が誰を好きで、誰を大事に思っているか相関図を書いた。矢印がたくさんあり過ぎる。


 読み込みながら、登場人物の感情をも書きだした。そして気づく。


「たくさんの矢印の方向が、大好きな人への気持ちを邪魔してる……?」


 大好きな人、大事にしたい人は一人じゃない、でも、誰よりも大切にしたい人だけはたった一人なのだと分かった。


 そして、その誰よりも大切にしたい人を、気がつけば見つめてしまうものらしい。そして……その人のことを考えると、顔が熱くなって、涙が出そうになるらしい。


「……あ」


 ライラは泣く前に、一気に赤面していた。あの時話していたのは誰のことだったか……。


「ダリル……?」





・・・*・・・*・・・*・・・*・・・




「……そっか。ライラとダリルは……」


 徹夜で読んで書きこんで、自分たちの状況も書きだして、カシアはやっと分かった。ウィスタリアが言おうとしていたこと。窓の外はすっかり白んでいる。


「ライラはダリルを好きで……ダリルもライラを好き」


 朝の光が自室に入り込んできたころ、カシアは茫然と呟いた。目の前の紙にはダリルとライラの間に書かれた両矢印がある。そしてダリルと線で繋がっている自分の名前を見てハッとした。婚約者と書いてある。


「私だ、邪魔してるのは……」


 よりによって自分が、大事な二人にとっての邪魔者なのだということに気づいてしまった。


「……よし」


 カシアは腰に手を当てた。


「学院なんて行ってる場合じゃない。今日は休もう!」




・・・*・・・*・・・*・・・*・・・


 昨日に引き続き体調が悪いと訴える娘、または姉に目を剥いて驚いて心配しまくる家族に大丈夫だと明言して再び自室に引きこもり、カシアは改めて妹に借りた恋愛小説の山を前に仁王立ちしていた。


「答えがここにあったのなら、解決策も絶対この中にあるはずっ!!」


 そう息巻いて徹夜明けの真っ赤な目で更に読み込んだ数時間後。


「これだわ……っ!」


 婚約破棄させるための最高の方法があちらこちらの物語に書かれていた。


『〇〇、私は、この△△と紡いだ愛によって目が覚めた! よって、お前とは婚約破棄とする!』


 様々なバリエーションがあるとはいえ、ここに積んだ恋愛物語全てのおよそ三分の一くらいの作品には、冒頭で婚約破棄の場面が描かれていた。そこではヒロインの婚約者が他の女性の肩を抱いて婚約破棄を申し出ている。そしてひどい目にあったヒロインは必ずと言って良いほど確実に更に良い相手と巡り合い、結果的に幸せになるのだ。


「私がこの浮気男の役になりきればいいのよね。ダリルが主役。そして主役の真実の相手がライラ! これで完璧だわっ!!」


 そう叫んだ直後、カシアは意識を手放しベッドに突っ伏すと数秒もしないうちに寝息を立て始めるのだった。





次回(6/13 17:15)、カシアの作戦立案。

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