第32話 キャバリア王都
キャバリア城から迎えの馬車が来たからと、責任者の男とさっきのメイドが部屋にきた。
アルバートはさっと目をそらす。
メイドから責任者はアルバートの様子を聞いたのだろう。
だから意味もなくメイドを伴って現れた。
私はメイドの足に動揺するアルバートにイラッとしたが……しょうがない。
「では行きましょうか?お兄様」
特にドレスではないからエスコートが必要ではないが……私の意図がわかったらしい。
アルバートは私の顔を見て微笑んだ。
「流石に疲れたわ。城に着いたらわたし早くお風呂に入りたい。それにお腹も空いたわ。キャバリアの城はどんなところかしら?……」
私はアルバートを見ながら他の人間が口を挟む間を与えないくらいの勢いで、まったく意味の無いことをまくし立てた。
アルバートは相づちをうちながら私を見ている。
そして案内された馬車に乗り込んだ。
迎えに来たのはあのマーク・ウィンザー特使の部下の魔術師らしい。
やはりかなり高齢の男だ。
そして、キャバリアとレンセントの文化の差をここでも感じた。
レンセントでは髭が生えていて、腹が出ている方が貴族のスタイルとしては正しい。
そして、タップリのギャザーや布を使った動くのに邪魔な貴族服が素晴らしい富の象徴なのだ。
だから女性のお茶会用ドレスは床を引きずってしまうほど裾が長く、メイドにスカートの裾を持たせるのが流行りだ。
もちろん中に更にスカートをはいてだ。
そして椅子に座るとメイドが美しく裾をさばいて、それはもう一枚の絵画の様に整える。
だから女性は公式の場所ではメイドをぞろぞろ連れて歩く。
迎えにきたヨーク・ターリアと名乗った魔術師は、要職につく人間とは思えない程脂肪がない。
それに側近やメイド、護衛を連れていない。
むしろ騎士団長と紹介された方が納得できそうな体だ。
レンセントには魔術師と言う職は無いため文官の様な役職を想像したが……魔術師は戦うのかもしれない。
あと魔術師ヨークはレンセントで見たら、下っ端の下男として扱われる様な全く飾りのないシンプルなシャツにズボン、ベストに細身のジャケットを着ていた。
あとはマント。
レンセントのデザインに比べるとシンプル過ぎる。
たぶんキャバリアは機能を優先するデザインが主流なのだ。
もし私とアルバートがここで貴族服を着ていたら……キャバリアではぞっとするくらい浮いただろう。
騎士団服は機能優先なので、迎えに来た男と並んでも違和感が無かった。
アルバートも同じ事を思っているに違いない。
「持ってきたドレスはキャバリアでは着れそうもないわ。後で服を買わないと……アルバートにはレンセントの貴族服よりも、キャバリアの服の方がきっと似合うわね」
私は常々あのビラビラした貴族服が兄の美貌を損なっていると思っていたのだ。
「まぁあれは民族衣装だから仕方無いのだけど……」
私はため息混じりに言う。
「民族衣装か……そう考えると救われるな」
アルバートがしみじみと言った。
アルバートもあの貴族服には思うところがあるらしい……。
馬車に乗り込む際に眺めた街並みはレンセントとは全く違った。
民家が三階建て以上あるのがまずレンセントと違う。
路が土ではなく、綺麗に同じ四角い石が並べられている。
そしてゴミや汚物がないし、人が路に座りこんでいたりしない。
「キャバリアには奴隷が居ないのですか?」
それらしいみすぼらしい格好の痩せた陰鬱な顔の人間が居ない。
レンセントでは外を歩くのはほとんどが平民と奴隷だ。
貴族は馬か馬車で移動する。
「女王が廃止されたのです」
魔術師は誇らしげに言った。
「犯罪をおかしたものはどうなるの?」
「女王様に魔物に変えられます」
ユリウスがびくりと反応した。
「魔物に変えて食べるのかしら?」
「労役を課します。今乗っている馬車を引いている魔物は元盗賊なのです」
「まぁこわい」
レンセントとは法も違うらしい。
女王が法なのだ。
レンセントでの評判はあながち間違ってはいない。
「女王はどんな方かしら?」
顔を合わせてすぐに怒らせて魔物に変化させられる可能性があると言うことだ。
「素晴らしい方です」
質問の仕方を変えても抽象的な答えしか帰って来ない。
馬車には窓があったが、カーテンがかかっていて私の位置からは外が見えない。




