第31話 ひざ
そしてついにキャバリアの王都が近付いてきた。
既に山を抜けて草原となり、脇には王都への路らしきものもある。
アルが前を転げるように走っている。
私がアルっと呼べば私にわふっと愛想を振りまく。
アルバートがポチおいでっと両手を広げればアルバートの腕に飛び込んでいく。
「こいつ可愛いなぁ」
アルバートはアルをわしゃわしゃともふっている。
アルバートが動物が好きなのは本当だ。
アルバートは嘘つきと言うか……9割の本当に1割だけ自分の願望を入れて人を惑わせるだけだ。
あと都合の悪いことを言わない。
まぁ貴族なんてみんな嘘つきなんだが……。
全部が嘘なら騙される事などないんだ。
どれが嘘なのかわからないから騙される。
悔しくて意地になって私は『アル』と呼んでいるが……アルは『ポチ』という名を返すつもりはないらしい。
そして、私は今回の事でアルバートに対する例の罪悪感が綺麗さっぱりなくなった。
今回の事で自分の過ちを赦してもいいと思えたのだ。
ある意味アルバートの言ったとおりでさらに腹がたつが……。
キャバリア王都は綺麗な壁に囲まれている。
アルバートの予想通り、豊かな国なのだろう。
レンセントの王都の壁は修復が間に合わず崩れている場所があり、最近は治安の悪化が問題になっていた。
キャバリアの方か豊か……やはり祖国を愛するレンセント民ゆえに苦い気持ちになる。
キャバリア王都へ入る為には、検問があるようだ……商人の馬車が検問待ちの列を作っていた。
荷馬車とそれ以外は列が分かれているらしく、冒険者らしき人物が並んでいる方に確認をして並ぶ事にした。
魔王とユリウスはこの陽気でマントのフードを被り。
ユリウスに関してはフェイスマスクや手袋も装着している為に、私たちはパッと見にすごく胡散臭い一団だ。
私とアルバートは貴族服に変更するか迷ったが……何かあった時に動きにくい。
更に徒歩の旅人が着ていると場違いな格好だ。
結局防御力重視で騎士団の制服で入国する事にした。
ちなみに旅の間に薄汚れたからと、魔王が魔法で洗浄してくれた。
魔王がマジ万能!
荷馬車の列はほとんど進まない……かなり詳しい検問をやっているらしい。
冒険者は窓口で冒険者証を見せるか、許可証のようなものを持っていればさくさくと進む。
徒歩の列はズンズン進んで、アルバートが窓口に入国許可証を出した。
例のキャバリア特使の魔術師が書き、レンセント国王の署名と、アルバートと私の署名が入っている。
窓口の男はその書類を見ると、目を剥き。
座っていた椅子から転げ落ちそうな勢いで窓口から消えた。
側に警備の詰所があるのだろう、バラバラと人が飛び出てきた。
そして完全に周りを包囲された。
アルバートは薄ら笑いを浮かべて啖呵を切った。
「レンセント国からの客のもてなしがキャバリアにはできないのか!」
周りにいた冒険者や荷馬車の商人が『レンセント』と口々に呟き、さざ波の様に戸惑いが広がる。
多分そこの責任者だろう。
一人の男が進みでてきた。
「失礼しました。申し訳ないのですが、部屋の方に移動をお願いします」
「許可証を出したキャバリア特使である、マーク・ウィンザー殿は権限のない人物だったのか?」
更にアルバートが大声で煽る。
このまま拘束されそうな雰囲気だからだ。
「申し訳ありません。マーク・ウィンザー氏はキャバリアの筆頭魔術師です。許可証にはなんら問題はありません」
あの魔術師は現在のキャバリアの筆頭魔術師という要職についているらしい。
確かに一番年を取っていて、そしてほとんど発言をしていなかった。
アルバートは貴族らしい尊大さで言う。
「では通したまえ」
「それが……そのう……到着がこんなに早いとは……」
男もどうすればいいのかわからないのだろう。
助けを求めて手に持っている許可証や周りを確認する。
「あ。入国許可はお二人です」
すごくほっとした顔をした。
ここで足止めしたいらしい。
「人間は2人だ。レンセントの伯爵アルバート・ロッシーニ、スカーレット・ロッシーニ。あとの連れはテイムした魔物だ」
魔王とアルバートが手の甲を見せる。
『ひと形の魔物!』『テイマー』にわかに周りがザワザワする。
「……では魔物の登録をお願いいたします」
責任者はほっとした顔で建物に案内する。
要人を案内する部屋なのだろう。
大きなソファにローテーブル。
私たちは案内されたソファに座っている。
ポチは魔王の腕の中だ。
先ほどの男が何やら手に透明な板をもって部下を引き連れてゾロゾロと入ってくる。
アルバートは腕を組み不機嫌さを全面にだしている。
こうしているとスカーレット失踪前のアルバートのままだ。
高飛車で冷酷な貴族……これもまたアルバートの1つの顔なのだ。
「人物の確認だけでいいはずだ。ステータスやテイムした魔物について詳細に明かすつもりはない。テイムした魔物についてもマーク・ウィンザー殿に入国許可を頂いている」
アルバートは堂々と言いきった。
アルバートはテイムした魔物をつれていくかも?って言っただけよね……あれで許可を取ったことになるのか?
だか、相手はアルバートの雰囲気に完全に飲まれている。
「そ、そうですよね。申し訳ないのですが、魔物の種族は教えてもらえますか?」
アルバートは魔王を見る。
念話で確認をしているらしい。
傍目には見つめ合ってるだけだが……。
魔王は右手を出して印をみせた。
「ひと型の2人はアンデッド。これは見て分かるようにウルフだ」
アルバートが説明する。
魔王は無言でポチの尻尾脇のテイムの印を見せた。
10円ハゲみたいになってるのが無性に可愛い。
ユリウスも右腕をマントの外に出し、服を捲りテイムの印を見せる。
肉のない骨を見て、分かりやすくアンデッドであることを責任者は理解した。
「キャバリアではテイマーが珍しいので出来るだけ目立たない様にお願いします。魔物が暴走した場合の責任は全てアルバート・ロッシーニ様の責任となります」
「わかっている。多少胡散臭いがマントや仮面はこのままで過ごす」
レンセントにもテイマーなどほとんど居ないが……魔女の国キャバリアでも珍しいらしい。
私とアルバートは何やら透明な板に手をかざす様に言われた。
レンセントにもある犯罪者を見分ける道具だろうか?
私はあまり警戒せずに手を出した。
「?」
特に何も起こらない。
瞬間にアルバートが私の前の透明な板を投げた。
「ふざけるな!ステータスは明らかにしないと言ったはずだ!」
責任者は青くなって。
「手違いです。申し訳ありません」
机に頭がつきそうな勢いで謝った。
私には何が何だかわからないが、個人のステータスが表示される道具をしらっと出してみせたらしい。
どこに表示されたのかはわからないが……。
後でアルバートに聞いたら、責任者の後ろに立っていた男も透明な板と同じサイズの板を持っていて、私が手を置いた瞬間に驚いた顔で私を見たらしい。
だから詳細に状態が表示される魔道具だと思ったらしい。
アルバートは完全に怒っている……ように見えるが多分冷静にこの場を切り抜けようとしているのだろう。
「わかった。キャバリアであったことの責任は全て女王にとらせる。全てだ。お前のような下っ端に頭を下げられても不愉快だ」
アルバートが冷ややかに宣言する。
わりとめちゃめちゃなことを言っているが、門の責任者は青くなり、ドアを守る警備の兵以外の人間が退出した。
これ以上怒らせたらまずいと思ったのだろう。
そしてそのままキャバリア城からの馬車が来るまで部屋に放って置かれたのだ。
暇だからと部屋を見回すと壁に世界地図が飾られている……。
その地図はレンセントがキャバリアの半分以下の大きさに描かれていた。
「この地図はおかしいわ」
アルバートも隣に来て世界地図を眺めた。
「キャバリアの大きさがおかしいだけで、レンセントの周りの国はこんなもんじゃないか?」
「キャバリアはこんなに大きな国なの?」
アルバートは黙って考えこんでいる。
キャバリアが一番の大国で、レンセントよりも豊かな国だとすると『レンセントから来た人間』という効力が薄い。
レンセント王の後ろ楯が意味をなさない可能性がある。
私は魔王にもたずねた。
「知らないようだ」
アルバートが答えた。
部屋にはドアを守る警備の兵が居る、だからか魔王は口を開くつもりがないらしい……。
私はユリウスを見る。
『そんなには大きく無いと思うけど、昔は王都に壁なんて無かったくらいで……今のキャバリアはまったくわからない』
私は地図を見ながら考える。
「多分……どこの国も自国を大きく描くのね。つまりレンセントが描くキャバリアの大きさが正しくて、キャバリアが描くレンセントの大きさが正しいと言えそうね」
私がそういうとアルバートは驚いた顔で私を見た。
「なるほど。どちらも自国の大きさだけサバをよんでいるのか」
結果、キャバリアはレンセントより少し小さいくらいの大国だろうとアルバートと予想した。
そんなことを言っていたら、メイドがワゴンでお茶を運んできた。
アルバートがメイドを見て動作が止まった。
そして顔を赤くして勢いよく視線を反らした。
私はそんなアルバートを見て気がついた。
メイドの足が出てる!
レンセントでは女性は足首まであるロングスカートをはかなければいけないのだ。
更に中に長めのドロワーズを着用して、ロングブーツをはく。
足をさらすなんて下着姿で人前に出るということだ。
それなのにこのメイドのスカートは短くて膝が見えている。
アルバートが目を反らすはずだ。
アルバートは私が騎士団のズボンをはくことにすら、足の形がわかるから貴族女性がしていい服装じゃない!と騎士団にうったえた事があるくらいなのだ。
私がスカートで剣は振るえないとはね除けたが……そしてしかたなく前の無い巻きスカートのようなものを制服の生地で作ってもらってマントをしない室内などでは巻いていた。
ズボン自体は貴族女性でなければ女性がはくこともあるが……。
スカートがこんなに短くて膝を出すことは絶対にない。
アルバートはどうしていいかわからないらしく、挙動不審になっている。
メイドをちらちら確認したり、立ったり座ったり……。
そして、アルバートはメイドが出したお茶を飲もうとして、ユリウスにカップを奪われている。
こんな状況で何かが入っているかもしれないお茶を飲もうとするな……いつもならアルバートが私に注意しそうな事だ。
「キャバリアではスカートが短いのが流行りなのかしら?」
私はメイドに尋ねた。
メイドの女性はまだ若い。
そして可愛らしい……。
メイドは聞かれた意味がわからなかったのか
「そうですね」
首を傾げた。
「レンセントではあまり足を見せてはいけないことになっているの。だから心配になったの」
メイドはアルバートの挙動不審の意味に納得したのだろう。
「キャバリアでは膝丈のスカートが流行ってます。これはお仕着せなので少し短いかもしれません」
街には膝丈スカートの女性がたくさん居るらしい。
つまり下着姿の女性がいっぱい居るようなものだ。
私は同性な事もありそういうものだと言われれば特に気にならないが、アルバートは大丈夫だろうか……。
「そう。教えてくれてありがとう。もう行ってもいいわ」
私は微笑んでメイドを帰した。
「キャバリアの女性の服は昔からあんな感じなの?」
ユリウスにたずねる。
『多分そうじゃないかな?』
アルバートは部屋の窓から外を見ている。
そして、キャバリア城からの迎えの馬車がきた。




