第30話 アイスドラゴン
朝は昨日のマッドスパイダーの肉の残りをつかったスープと、アルバートがマジックバッグから出したパンだ。
朝からユリウスと炊き出しである。
大量のスープを作った。
火力はやっぱり魔王が大活躍だが、持ってきた野菜を刻んだりするのは私とユリウスの仕事だ。
「ユリウスは王子なのにどうして料理ができるの?」
『魔王城が長いからね。自分で作らないとまともなものが食べれないと思うと、何でもできるようになってしまったんだ』
私はユリウスと話ができる事が嬉しくてしょうがない。
『それに王子だった時もクローネがね……』
魔女クローネはかなりの変わり者だ。
城の離れに隔離されたユリウスが病弱で外に出れないと知ると色々な物を持ち込んだらしい。
魔物を持ち込んで解体して見せ、料理を作ってくれたらしい。
『おかげで今何でも解体できるし、料理ができる。クローネが居たから今も僕は生きていける』
ユリウスは刻んだ野菜を鍋に投入する。
『僕がクローネを傷つけたなら、僕はクローネに謝りたい。だけど臆病者の僕は長い間動く事ができなかったんだ。スカーレットがあの国に連れて行ってくれると言ってくれたから……』
「そんなこと言ったら!私はユリウスが居なかったら今頃のたれ死んでたわ!」
そして私とユリウスは手を繋いでありがとう!って言いながらくるくる回る。
これはちょっとくせになってきたわ。
私から見るとユリウスはすごく可愛いのだか、アルバートはくるくる回る私と魔物のユリウスが不思議な躍りを踊っているようにしか見えないらしい。
アルバートは奇妙な物を見る目で見ている。
マッドスパイダーは予想通りに煮ても絶品で、フェンリルにも好評な朝ごはんだった。
そしてフェンリルの巣がある崖を見上げる。
今日はこの崖を登るらしい。
ここから先は人間の足では難しい斜面だろう。
頂上はもう近い……。
ユリウスは昨日と同じようにフェンリルにベルトを固定して、二本目を私のウエストに留める。
『今日は垂直に近い崖を登るから、もう一本も留めよう』
昨日手綱として握っていた、三本目のベルトで私のわきの下を留めた。
つまり、私はフェンリルにべったりと張り付いている荷物の様な状態だ。
これは体勢が苦しい……。
私はアルバートにもユリウスの言葉を伝えたが、アルバートは私を見て昨日と同じで良いと言った。
だか、フェンリルが崖を走り始めるとほぼ垂直なのだ。
足が下に流れる為に脇の下のベルトにぶら下がっている様な状況だ。
アルバートを見ると手綱の根本を掴んで耐えているが、ウエストのベルトだけだと左右に振れている。
私はアルバートを見てるだけで酔いそうになり、ユリウスに感謝した。
幸い頂上はすぐそこで長い時間では無かった。
フェンリルから降りるとアルバートは酔ったのだろうぐったりしている上に、手の握力が死んだっと青い顔で言った。
フェンリルが駆けている風の抵抗は感じ無いけど、自分の体重に対する重力に関してはフェンリルの力は及ばないらしい。
私は私で今朝早く起きたせいか息苦しくめまいがするような気がする。
そして頭が痛い。
「フェンリルとはここまでだ」
ポチを抱っこした魔王が言う。
今日はフェンリルの群は狩りにでたらしい。
だからここにいる大人のフェンリルは三頭だけだ。
アルバートを乗せていたフェンリルと私を乗せていたフェンリル。
それからリーダーのフェンリルはお見送りらしい。
「帰りにまた頼む」
魔王はリーダーのフェンリルに声を掛ける。
そしてフェンリルはあっさりと巣に戻る為に崖を下っていく。
それを見ながらフェンリルで下るのでなくて良かった……そう思ったが、今度は巨大なドラゴンが一直線に向かってくる。
魔王の配下だったアイスドラゴンだと聞いてわかっているのだが……だがしかしドラゴンなのだ。
私とアルバートは圧倒されている。
アイスドラゴンは今まで見た魔物の中で一番大きい。
山の頂上には降りて来ずに、側でホバリングしている。
魔王がアルバートにポチを渡して片手でアルバートを掴みあげ、私はユリウスにお姫さま抱っこされた。
おぁ……魔王の持ち方が想像と違う!!
私はがっかりした。
そしてドラゴンの首の付け根に降ろされた。
アイスドラゴンにキャバリア側の中腹で降ろしてもらった……ギリギリ雪がある辺りまで降りてくれたらしい。
そして私とアルバートは疲労でダウンした。
そのまま中腹で更に一泊することになった。
「人間だと山越えでも約一週間はみた方がいいみたいだな」
魔王はテントの中でぐったりしている私とアルバートを眺めながら言う。
翌日は私もアルバートも完全に復活した。
そして徒歩でキャバリアの国境を目指し始めた。
すでに下界にキャバリアの王都が見えている。
「色々疑問があるけど……最初から魔王とユリウスが私とアルバートを抱えて山を飛ぶのでは駄目だったの?」
「この山に居る元配下はフェンリルとアイスドラゴンだけだ。ユリウスと俺は高く飛べない。敵に攻撃された時に両手が塞がっていると……盾に使うぞ」
言われてみれば魔王もユリウスも高い所を飛んでいるイメージは無い……が何やら釈然としない。
「じゃあフェンリル無しで、最初からアイスドラゴンで飛べば良かったんじゃないの?」
「人は急激に高度を上げると死ぬ。それからアイスドラゴンはそんなに下には下がれない。
全てをフェンリルで移動するなら可能だが……」
うむっと魔王が言う。
フェンリルで下るのは……逆宙ずりになるということだ。
「すみません。魔王が正しい!」
私はすかさず叫んだ。
「急激に高度を上げると何故死ぬんだ?」
アルバートは納得がいかないらしい。
「酸素が上手く取り込めなくなって、頭が痛くなったり、眠れなくなったり、調子が悪くなるんだ」
私とアルバートは多分まさにそれだ。
「そうなった場合はどうするんだ?」
「高度を下げればいい」
「そうならない予防策は無いのか?」
アルバートはしつこく聞く。
「環境に体が慣れるまで留まる。急激に高度をあげなければいい。だからフェンリルで3日の距離を一週間掛ければ問題ない」
「フェンリルで一週間か……」
それでも海路よりは早い。
アルバートはやっと納得したらしい。
「あとこの山の魔物は他には何が居るんだ?」
「知らん。俺が関係あるのはマッドスパイダーとフェンリルとアイスドラゴンだけだ」
「マッドスパイダーは倒しただろう?」
アルバートは納得がいかない顔をする。
「先日のはエサに釣られて巣を出てきた下っ端だ」
「「えさ?」」
私とアルバートはポチを見る。
ポチは魔王の腕の中でわふっと可愛く吠えた。
「こいつは兄弟の中で一番魔力量が少ない。だが、知能は高い様だ。アルバートとは隷属契約する程に気があったのだろう?」
魔王がにやりと笑う。
そういえば私がユリウスと隷属契約して居たのは何故だと友好契約をした時に聞かれて……私が誤ってユリウスに名前を付けてしまったからだとアルバートに説明した気がする……。
私はばっとアルバートを振り返った。
「まさかアルバート!? わざとこの子に名前をつけて、隷属契約したの?!」
アルバートはへらりと笑った。
これはイタズラがばれた時の顔だ。
「だから俺にはテイマーの才など無いと言っただろう?」
悪びれなく言ったアルバートに、私は久しぶりにイラッとした。
そうだ私の兄は昔から自分の都合のよい様に言う男だった!
私はきーっ!っと叫んだが、魔王がにやにやしながら言った。
「まぁ、隷属契約はポチが納得しない限り結ばれない。つまりこいつは淘汰されずに群れをでるのにアルバートを利用したんだ。自己責任だ」
ポチは可愛くわふっと鳴いた。
確かにそう言われると……あざと可愛い。
私はポチを撫でた。
「まって! じゃあ今日の狩りは別の子がおとりにされているの?!」
魔王は楽しそうに笑った。
「ごちそうはたまに食べるからご馳走なんだ。今日はもっと雑魚を狩っているだろう。普段はおとりに子を使ったりはしない」
つまりは魔王が来るから、村の大切な家畜を一匹潰しました的な歓迎だったと言うことか……。
「この子アルバートに似てるから私アルって呼ぶわ。ねっ?アル?」
私はわしわしとアルを撫でた。




