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第29話 バーベキュー

フェンリルの群れは魔法を使わずに、じりじりとマッドスパイダーの体力を物理で奪っていく。

魔王とリーダーが手を出さないのは群れのレベルアップをはかっているのだろう。

時間はかかったが、ついにマッドスパイダーは動かなくなった。

そしてその場でマッドスパイダーを解体して食べると魔王が言い出した。

解体はユリウスがやったが、魔王が魔法で焼いてくれた。

味付けと火加減はユリウスが指示していたが……。

不思議な光景だ。

フェンリルの群れと一緒に、マッドスパイダーでバーベキューパーティーだ。

私とアルバートは最初は『蜘蛛』であることに抵抗があったが……。

ユリウスに『強い魔物ほど魔力を持っているから美味しい』と聞いて手を出した。

今食べなければもう一生食べる事のない食材だろう。

解体して焼いてしまえば抵抗感が薄れた事もある。

口に入れた瞬間に旨味が広がる。

食間は鶏のそれだが、味は海老に近い濃厚さがある。

食べたことのない味だが、信じられないほど美味しい!

「美味しいっっ!!」

私は足をばたばたしたい衝動にかられた。

アルバートと私はしばらく無言で食べ続けた。

シンプルに焼いただけでこれだけ美味しいのだ……鍋で何かと煮てもいいだしがでるだろう。

フライも絶対に美味しいはずだ。


アルバートが助けた仔フェンリルにナイフで肉を切り分けてあげている。

仔フェンリルも美味しいのだろう、がつがつと食べている。

そんな姿を見ていると私は過去の後悔を思い出して、苦い気持ちになった。

私はふるふると頭を振って忘れようとした。

全てが片付け終わるとそこそこの時間が経過していたらしい。

「今日はフェンリルの巣に世話になろう」

魔王の提案でフェンリルの巣にお邪魔することになった。

そして私とアルバートはフェンリルの背に乗せてもらうことになった。

ユリウスが用意したというベルトをくれた。

ベルトはフェンリルの負担にならないように考えられているらしく太い。

繋がった三本の輪っかがそれぞれサイズ調整出来るようになっているシンプルなものだ。

1つ目の輪っかをフェンリルの体に通して固定、二つ目の輪っかを自分のウエストに固定すると安定感がある。

そして最後の輪っかを手綱の様に手に持った。

確かにこのベルトがないとフェンリルの背に乗るなんて怖いだろう。

毛を掴む訳にはいかないから、首に抱きつくしかない……だがフェンリルの首は太くて腕がまわりきらない。

さらにフェンリルの背中は馬よりもぐにぐにと動いて安定感がなかった。

馬に乗るように腿で挟むような乗り方はできない。

私はユリウスに感謝した。

ただし不思議なことにフェンリルが凄いスピードで駆けても思ったような風の抵抗は感じない、私はフェンリルの不思議な力に守られているらしい。

フェンリルにも感謝だ。

フェンリルたちが木々の間を駆けぬける。

その様子は神々しく圧巻だ。

途中から顔に感じる空気が冷たくなった。

騎士団のマントのおかげで体はぽかぽかだが、顔とベルトを掴んでいる手は冷たい。

マントのフードを被り、ベルトは交互に片手でもつことにした。

ベルトを持っていない手はマントの中に入れておく。

特に両手を離しても腰のベルトだけで安定感があるのだが……周りの景色の流れていくスピードを見ていると怖くて何かを掴んでいたい気持ちになるのだ……精神の安定の為に。

振り返るとアルバートはすでにフードを被り、……綱の部分を長くしてマントの中で持っているらしい。

そうすればいいのか……!

わざわざマントの外で綱を握りしめていた私の右手はかじかんで動かない。

仕方なくしばらく両手を離し、手を暖めて綱のベルトを長く調整した。

短い方が安定感があるが、長くすればマントの下で持てる。

早くこうすれば良かった!そう思った頃にはフェンリルの巣についた。

崖のふもとにある大きな洞穴がフェンリルの巣らしい。

この辺りは既に雪が積もっていて、王都よりも空気が薄いように感じた。

洞窟に入るとふわりと暖かい風が吹いている。

何故か洞窟内は暖かかった。

今日は既に日が落ちている。

フェンリルに囲まれた洞窟の中で、マットだけをひきマントにくるまって寝ることにした。

魔王とユリウスは金色オーラのリーダーフェンリルと洞窟の奥の方に居る。

金色オーラのフェンリルが魔王の配下だったフェンリルらしい。

群れの増強の為に配下を辞めて山に戻ってきたとさっき聞いた。

マッドスパイダーにさらわれた仔は彼の子どもらしい。

ただ、巣に帰ってくると仔フェンリルは大量に居た。

フェンリルは長命な故に児な期間が長いらしい。

そして半分以上が幼少期に淘汰される。

そんな生物ゆえに多産だと魔王が言った。

助けた仔フェンリルは完全にアルバートになついてしまって、アルバートから離れない。

気がついたらアルバートに隷属契約していてついてくると言っているらしい。

そんな姿を見ていると私は苦い気持ちになった。


そんな気持ちで眠りに付いたからだろう……まだ幼いアルバートが泣き叫ぶ夢を見て、私は飛び起きた。

「大丈夫か?」

既に辺りは少し明るくなりはじめていたが、隣に居たアルバートを私は夢にうなされて起こしてしまったらしい。

アルバートはそばにきて私をのぞきこむ。

青い目が私を心配している。

私は罪悪感に耐えられなくなって、アルバートにとりすがって泣き出した。

「ごめんなさい。お兄様。……ごめんなさい」

「何の夢を見たんだ?」


あれはまだ私が5才くらいだ。

お兄様はこっそり部屋でスライムを飼っていたのだ。

アルバートが幸せそうにスライムを触る様子を見た私は私も触りたいとお兄様に訴えた。

お兄様は危ないからと触らせてくれない。

だから私はお父様に言いつけた。


……私はそんなつもりは無かった。

ただ私も触ってみたかっただけだった。

お父様はスライムを始末してしまったのだ。

小さい頃はただお気に入りの玩具をお父様が兄から奪いとっただけだと思っていた。

でも最近知ったのだ。

魔物とは友好契約を結べる事を。

兄にはテイマーの才能が昔からあったに違いない。

今もあのスライムを飼い続けていたら稀少なテイマーとしての未来があったはずだ。

私はなんて事をしたんだろう!

じくじくとした罪悪感でいっぱいになり、今日は気鬱だった。

そしてただただ泣き叫ぶ幼いアルバートの夢を見たのだ。


アルバートは泣きながら謝る私をなだめて、涙を拭いてくれる。

「相変わらずスカーレットは考えが浅いな」

昔からよく言われていた台詞を苦笑混じりに言われた。

だが、その言葉には私を責める響きは無かった。

「ポチはスライムと違って知能があるから触っても大丈夫だよ」

アルバートは昼間アルバートが子フェンリルをもふっているのを見ながら、私が手を出さない事に気がついていたのだろう。

だがしかし……。

「ポチ……?」

神獣フェンリルに『ポチ』と名付けるアルバートのセンスも大概だ。

一瞬で涙が引っ込んだ。

アルバートはよしよしと私の頭を撫でる。

「そもそもテイマーの才能があったら既に他の魔物をテイムしている」

「だから『ポチ』が……」

「さっき魔王が言っていただろう?今は魔王と友好契約をしているから壁が薄いんだ。本来ならこんなことにはならない」

「でも……」

少なくともあのスライムは兄になついていた。

「それにあれはね……どこかで父にばれて同じ結果にしかならないんだよ。だからスカーレットが気にする話じゃない。むしろポチと契約できたのはスカーレットのおかげだ。それでチャラにしてもお釣りがくるだろう?」

アルバートは気にするなと言う。

つまり兄の才能を潰したのはお父様なのだ。

私は少しだけ罪悪感が軽くなった。

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