第12話 勝負
私は朝早く起きて、素振りをした。
そして、ちょっとずるいけど騎士団の制服を着る。
ユリウスの為だから絶対に負けられない。
騎士団の制服ほど防御力が高い装備はない。
あの魔王の剣ですら貫けないのだから。
アルバートはいつも通りただの白シャツだ。
私が騎士団の制服を着ているのを見て、眉間に皺がよった。
かなり不機嫌になったらしい。
アルバートはため息を吐いた。
いつもの訓練用の木剣をかまえる。
そして、数度打ち合いをしていて私は気がついた。
兄には私と同じくせがある。
打ち込まれると思うと一拍固まっている。
なぜ?
「もしかして、兄さんは父さんに稽古をつけてもらったのと同じように私に教えましたか?」
私は女だから父さんと打ち合いをしたことがない。
アルバートは頷いた。
「俺の師は父だけだ。」
剣聖を排出する家なのに、子の才能を潰している。
「兄さんは私と同じくせがあります。攻撃をくらいそうだと思うと、一拍固まってしまうくせが」
「うるさい!」
アルバートもそのクセが駄目なものであることに、既に気がついていたのだろう。
そして、感情的になると剣が雑になるのだ。
何処までも私と兄の剣は似ていた。
そのうち兄は私の攻撃をかわすので手一杯になってくる。
「退避と攻撃が分離し過ぎです。せっかく敵が近寄ってくるのに全部回避したら、もったいない」
「うるさい!」
兄はさらに感情的になって剣を振る。
私はいつも兄にやられるように、剣をつかんでいる手に剣を叩きつける。
兄は剣を取り落とした。
私はその剣を足で踏みつける。
「私の勝ちです」
もっとスッキリするのかと思ったが、私の心は鉛の様に重かった。
兄が私に剣の才能が無いと言った理由が痛い程わかった。
兄は私と剣を交えながら、自分の剣の駄目なところを俯瞰的に眺めていたに違いない。
そして私にではなく、自分の才能に絶望していたのだ。
それでも、ロッシーニ伯爵家の当主として家を独りで背負っていたのだ。
兄はまさか負けるなんて思ってもみなかったのだろう。
呆然とそこに座り込んだ。
「やっぱり俺はハインツ家の血ではないから、駄目なのか……」
「そんなこと誰も言ってません」
「実際、スカーレットに負けた」
「これは素晴らしい師と、チート訓練の賜物なので才能とは関係ありません。それに、兄さんが感情的にならなければ、私はまだ勝てなかったかも知れません」
いつもとは完全に逆だったのだ、いつもなら私が兄の言葉に感情的になり、剣が荒くなる。
今日は兄が私の言葉に動揺して剣に鋭さがなかった。
私はそんなに年の離れていない兄が万能だと思い過ぎていたらしい。
若くして伯爵家の当主にならざるおえなかったアルバートは独りで色々な物を背負い。
私はそれを返り見ることもなく……自分がやりたいことだけをやって、気ままに暮らしていたのだ。
兄がイライラして私に当たり散らしたとしてもしょうがなかったのかもしれない。
少し家を離れていたから、私はまともに兄が見れるようになったのだ。
私の中で兄はなんでもできる万能な絶対者だった。
だから逆らおうともがいたし、早く家を出ていけと言われて絶望して死んでも良いと思ったのだ。




