第11話 妹エリーゼ
家までの道のりは魔王が何かしたのか、全く魔物に遭遇することもなく屋敷に着いてしまった。
着いてしまった……家も騎士団も1年放ったらかしだ。
どちらにも既に私の居場所は無いだろう。
正面から家に帰る勇気はなく、最愛の妹の部屋を訪ねる事にした。
妹エリーゼの部屋は二階だが、近くに木が生えて居てバルコニーには容易にあがれるだろう。
病弱なエリーゼはバルコニーそばのベッドで今日も寝ているはずだ。
魔王との訓練でかなり身体能力の上がった私には木登りなど、簡単だった。
スルスルと登り、バルコニーに降りた。
だが、エリーゼの姿はベッドには無かったのだ。
私は嫌な予感しかしなかった。
いつも愛らしく笑うエリーゼがベッドに居ないなど、私には想像もできなかったのだ。
彼女は病弱で少し動いただけで苦しそうだった。
1年で体調が劇的に良くなるなんて考えられなかった。
そこに兄が帰宅したのだ。
私は我慢ができずに、バルコニーから飛び下り、兄に詰めよった。
「エリーゼは!? エリーゼはどこですか?!」
兄アルバートは突然現れた私に驚いた。
「スカーレット?! 今までどこにいた?!」
逆に怒鳴り返された。
私はエリーゼの事で頭が一杯で何も言い訳を考えて居なかった為に、言葉に詰まった。
「まぁ、とりあえず家に入れ」
腕を引かれた。
兄に腕を引かれて歩いていると、昔兄について回っていた頃を思い出した。
気のせいかアルバートの刺々しさが和らいでいる様に感じた。
メイドにお茶を入れさせると、アルバートは腕を組み私を眺めた。
「それで?」
やはり、雰囲気が優しくなっている。
エリーゼはまさか……私は青くなり、震える声で尋ねた。
「エリーゼがベッドに居なかったのです……まさか……」
病弱だったが、死ぬ程の持病は無かったと思っていた。
だが、部屋もどこか閑散として冷えていた。
私は不安と後悔で泣きそうになっていた。
アルバートは右手で口を覆って吹き出した。
私は呆気にとられる。
兄が笑うところなど数年振りにみた。
冷酷ではあったし、妹も私も疎まれていたのは知っている……だか、こんな風に笑う人ではなかった。
「エリーゼは嫁ぎ先が決まって今は家に居ない」
「そんな! 無茶だわ! エリーゼは病弱でベッドからでれないのに! 酷いわ! お兄様!」
私はいつもの様に兄を責めた。
兄は私を見てぴたりと笑うのをやめた。
「エリーゼは病弱なわけじゃなく、ただの運動不足と肥満だ。スカーレットが甘やかして菓子ばかり与えていたからね。1年で健康になって、社交界デビューして意中の男の家に嫁いだだけだ。俺は何も酷くない」
「運動不足と肥満?」
「スカーレットが毎日大量に菓子をあたえていただろう?」
私を溺愛していた父が亡くなってから、私は寂しくてよくお菓子を自棄食いしていた。
確かに、毎日騎士団の帰りに大量に買って帰り、エリーゼと食べていた。
「私も同じだけ食べてました……」
「毎日寝てるだけのエリーゼと、騎士団で訓練をして帰ってくるスカーレットが同じだけ菓子を食べたらどうなるか……最初はわからなくてもエリーゼを見てたら気づいたはずだ。俺も何度も注意をした」
確かにちょっとぽっちゃりしてたけど、そんなエリーゼは愛らしかった……そんなに注意される程ではなかったはずだ。
私は首を傾げた。
兄はため息をついた。
「1年で何か変わったのかと思えば、お前は何も変わってない!」
兄の刺々しさが段々戻ってきている。
「エリーゼにはしばらく関わるな!それでお前はどうするんだ?!何処かに嫁ぐ気になったのか?!」
やはり家を出ていけと言われるのだ。
「私は剣聖になりたいのです」
「そんなものになってどうするんだ?!貴族令嬢なのだからいい加減諦めろ」
アルバートは右手を額に当て、自分の眉間をゆびで摘まんだ。
「女が剣で生きて行くのは難しい……趣味で剣を続けられそうな家を選らんで嫁げば良いだろう?」
「そんな家が無いことくらい私にもわかります。」
アルバートはため息を吐いた。
そして、私を真っ直ぐに見た。
あまりに真剣な顔だったので私はどきまぎした。
「スカーレット。俺では駄目だろうか?」
「はっ?」
「血の繋がりも無いし、俺に嫁いでくるなら好きにしていい。」
はぁぁぁっ?!
確かにアルバートには妻は居なかった。
顔は良いが刺々しい性格に難があって恋人さえいたことがない。
だからと言って、妹で間に合わせようとするとは思いもしなかった。
そんなに兄はモテないのだろうか?
「……間抜け顔だな」
アルバートは苦笑した。
「小さい頃は俺の嫁になると言っていただろう?」
確かに小さい時は兄が一番好きだった……。
アルバートは両手で自分の顔を覆った。
「そもそもスカーレットにはそんなに剣の才能がない」
言い切られて私は頭に血が上った。
今なら兄にも勝てるはずだ。
「私、兄さんにお願いがあって帰って来たのです。剣で勝負をして私が勝ったら私のお願いを聞いて下さい」
アルバートは首を傾げた。
「じゃあ俺が勝ったら、スカーレットは俺と結婚するんだ。いいね?」
私は頷いた。
「じゃあ勝負は明日しよう」
アルバートは私が諦めたのだと思ってるに違いない。
それはそれは嬉しそうに笑ったのだ。
絶対に私が負けると思っているアルバートに腹をたてながら私は言った。
「私は兄さんに勝って、ユリウスと隣の国に行きます!」
「スカーレットは俺をイラッとさせる天才だな。ここで男の名前が出てくるとは・・・。明日叩きのめす」
アルバートは怒って部屋を出ていった。




