第二話 熟成 × 小説
朝食を作る。
朝日が差し込み、部屋は暖かい。
今日は卵を使い切らなければならない。
スクランブルエッグにするか。
……いや。
だし巻き卵の方がいいだろう。
卵を割る。
砂糖と昆布つゆを入れる。
少し味を引き締めるために、塩も忘れずに。
私は少し甘めに作るのが好きだ。
食べる時に、ほんの少し醤油をつける。
これが美味しい。
フライパンを温める。
その間に、昨日書いた小説を開く。
気になっていた場所を読み返す。
……。
違うな。
文章を変える。
もう一度読む。
さっきよりはいい。
料理に戻る。
危ない。
小説を書いている場合ではない。
卵液を流し込む。
そういえば。
冷蔵庫には、昨日食べなかったカンパチが残っている。
どうしようか。
スマホを見る。
8PV。
……。
カンパチを捌くか。
包丁を握るか、ペンを握るかの違いだ。
……。
8PV。
変わらない。
カンパチを捌こう。
*
釣りをするようになってから、魚を捌くのも随分うまくなった。
最初の頃は百均の包丁しか使っていなかった。
それでも特に困らなかった。
ところが、薄造りを作ろうとすると上手くいかない。
専用の包丁を買った。
そのうち普通に出刃包丁も買った。
しばらくすると、包丁を研ぐようにもなった。
必要になったから買っただけなのに、気がつけば増えている。
小説も同じなのだろうか。
今のところ増えているのは話数だけだ。
150話ある。
PVは8。
考えるのはやめよう。
カンパチを取り出す。
朝からお造りにするくらいなら、もう大した手間ではない。
寿司にするわけではないので、小骨を一本ずつ抜く必要もない。
真ん中の血合いごと包丁で切り落としてしまおう。
皮を引く。
包丁を入れる。
皿に並べる。
だし巻き卵。
カンパチのお造り。
朝食としては悪くない。
カンパチを一切れ食べる。
……。
うん。
釣った翌日に食べた時より、明らかに旨みが増している。
あの時は、あっさりしすぎていた。
タイみたいだな。
これはハズレかな。
そんなことを思った。
今は違う。
ねっとりとした舌触り。
噛んでいると、甘みも感じる。
美味しい。
魚というのは面白い。
釣った直後が一番美味しいとは限らない。
時間を置いた方が美味しくなる魚もいる。
……。
私の書いた物語も、時間とともに熟成するのだろうか。
パソコンを見る。
一話を開く。
読む。
……。
熟成というより、傷みかけている気がする。
直そう。
二話を開く。
……。
ここもだ。
三話。
……。
なるほど。
一話から二十話まで、書き直そう。
そうだ。
残りのカンパチも手当てしておこう。
冷蔵庫から残りを出す。
包んでいたペーパーを新しいものに替える。
もう一度ラップをする。
水分をそのままにしておけば、臭みの原因になる。
ほんの少し手を入れるだけでいい。
カンパチはペーパーを替える。
小説は文章を替える。
こまめな手当てが大切なのは、たぶん同じだ。
残りのカンパチは、もう少し寝かせよう。
小説は、もう少し直そう。
その前に。
せっかく作った朝食が冷めてしまう。
いただきます。
だし巻き卵を一口。
うん。
少し甘い。
醤油をほんの少しつける。
ちょうどいい。
カンパチも一口。
美味しい。
今日はいい朝だ。
スマホを見る。
9PV。
……。
増えた。
一人。
あぁ……。
パソコンの俺か。




