↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
1/4

第一話 デパ地下 × 小説


ぶくぶく……。


ごぽ……ごぽ……。


150話書いたのに、一日16PV。


私はいま、水の中で静かに目を閉じている。


ぶくぶく……。


ごぼ……。


何も自殺しようというわけではない。


私が書いた小説が、一日16PVだっただけだ。


いや。


今はそれを忘れよう。


ぶくぶく……。


ごぽごぽ……。


水の中で、今日の夕飯について考える。


肉か。


魚か。


昨日は何を食べたっけ。


二十五メートル泳いで、壁を蹴る。


サウナのあと、水風呂の代わりにプールで泳ぐようになって何年になるだろう。


理由は特にない。


もう一度、壁を蹴る。


16PV。


いかん。


忘れよう。


まあ、魚でいいか。



泳ぎ終えて、プールから上がる。


髪はまだ半分濡れている。


ロッカーで服を着て、スマホを見る。


16PV。


…………。


まあいい。


今日の夕飯を探しに、高島屋へ向かう。



     *



小田急サザンテラスを抜け、高島屋へ向かう。


もうすぐハロウィンか。


ここはいつ通っても季節感がある。


新宿駅の線路をまたぐ陸橋を渡る。


下にはいくつものホームが見える。


乗り換えに急ぐ人や、どこかへ向かう人。


別れを悲しむ人もいるのかもしれない。


もちろん、そんなものは見えない。


米粒大の人が見えるだけだ。



高島屋に入り、エスカレーターで地下へ向かう。


今日は何があるのか。


一番胸が高鳴る時間だ。


世間ではここをデパ地下と呼ぶらしいが、私からしたらサウナとプールから最寄りのスーパーである。


髪はまだ半分濡れている。


他の人は、


――雨でも降ったのかな?


くらい思うだろうか。


初めの頃は気にしていた。


今はもう気にしていない。


新宿で他人の髪が濡れている理由を考えている人間など、たぶんいない。


そんなことを知らないほど若くもない。



さて。


本日はどんなものがあるか。


その実力を見せてもらおう。



鮮魚売り場へ向かう。


ふーん。


なるほど。


そうだった。


今日は水曜日だ。


露骨に丸の魚が少ない。


水曜は市場が休みである。


ただ、高島屋は貝が充実している。


生かされたまま売られているものも多い。


水曜日?


貝には関係ない。


今日も元気そうだ。



あー、しかし。


高島屋のタラの切り身。


スーパーとは比較にならないほど美しい。


見ているだけで美味しい。


そう。


もう美味しいのだ。


買っていないのに美味しい。


不思議なものである。



一通り見終わった。


スマホを見る。


16PV。


…………。


増えていない。


まあ、まだ高島屋しか見ていない。


ISETANに行こう。



     *



高島屋からISETANへは、地下をそのまま新宿三丁目方面へ歩けばいい。


冬は暖かく、夏は涼しい。


信号もない。


とてもいい散歩コースである。


仕事をしている人を見ると、急に現実へ引き戻されてしまうんだよね。


スーツ姿で急いでいる人。


電話をしながら歩いている人。


パソコンの入った鞄を持っている人。


せっかく夕飯のことを考えていたのに。



ISETANに着く。


今日も地下は混んでいる。


菓子売り場には行列ができている。


手土産だろうか。


そうそう。


ここのどら焼きは美味い。


美味いが、あの列に並んでまで買う気はない。


デパ地下スイーツには目もくれず、奥へ進む。


生ハムの原木が見えた。


鮮魚売り場はもうすぐだ。



私の知る限り、ここは日本で一番高いスーパーである。


もちろんISETANはスーパーではない。


だが私が食料品を買いに来ている以上、スーパーでいい。



白エビ。


一万二千円。


…………。


少なっ。



寿司も見る。


五千円。


…………。


店で食った方がいいのでは?


毎回そう思う。



そして我が癒やしの鮮魚たち。


いるいる。


水曜日だというのに、さすがに丸の魚が多い。



アマダイ、一尾六千円。


六千円か。


よし。


今度釣ってこよう。



隣はイサキ。


三千円。


今年はイサキが高い。


しかし三千円か。


……いや。


太いな。


素晴らしいメタボっぷりだ。


これは美味いだろう。


ぜひ釣りたい。



一匹ずつ魚を眺めていく。


ふーむ。


なるほど。


今日はこういう感じか。



スマホを見る。


16PV。



…………。



一時間近く経ったのだが。



いや。


気にするのはやめよう。



ISETANを出る。



     *



ただ、ここの惣菜売り場は素通りできない。


食べ物として考えれば高い。


高すぎる。


だが、この盛り付け。


これを作品として見るのなら、その価値はある。


ショーケースの中にてんこ盛りにされた惣菜たち。


大多数は大して美味しくないのに、見た目だけはものすごく美味しい惣菜たちが私を歓迎してくれる。


この照りはどうやってつけているのだろう。


むしろライティング?


ふーむ。


面白い。



そして。


終わってしまった。


マダムたちが群がるISETANの地下を抜けると、また現実世界である。


皆、足取り早く新宿駅を歩いている。



新宿駅は川である。


流れに乗って歩けばいい。


岩になってはいけない。



スマホを見ながら歩いてくるやつには、スマホを見ながら歩いてくるやつが当たる。


目には目を。


スマホにはスマホだ。



そんなことを考えながら歩いていると、小田急ハルクへ向かう分岐まで来た。



帰るか。



スマホを見る。



16PV。



…………。



小田急ハルクも見ていこう。



別にPVを待っているわけではない。


肉を見るだけだ。


あそこはイベリコ豚などがいい。


それに、ここからなら大した距離でもない。



ハルクへ向かう。


歩きながら考える。



ここまで高島屋とISETANを回った。


小田急を見ている間に、十くらい増えるかもしれない。



あはははは。



…………。



行こう。



     *



小田急ハルクへ着く。


肉はここで買うのがいい。


イベリコ豚などがおすすめだ。


ただ、京王で買うと一パックあたりの量が増えて、百グラムあたりは京王の方が安くなる。


迷うな。



そして。


ここではあまり魚を見てはいけない。


高島屋、ISETANと見てきたあとにここの値段を見ると、釣り人を現実に引き戻す。


俺の釣った魚、こんな安いの?


精神的に良くない。


次回のモチベーションにも悪い。



肉を見る。


魚は少しだけ見る。


一周する。



スマホを見る。



16PV。



…………。



さあ帰るか。



いや。



待てよ。



京王百貨店も寄って帰るか。


どうせ目と鼻の先だ。



     *



そして私はまた新宿地下街に消える。


行く時は「目と鼻の先」と言う。


歩きながら「結構離れてる」と言う。


ただ、これは分かっていないわけではない。


奮い立たせただけだ。


初動さえ乗り切れば、大抵のことは乗り切れる。



京王の地下食品街へ着く。


私は鮮魚を見られればいい。



なるほど……。


今日はこういう感じか。



ちなみにここで、私は毎回思うことがある。



一枚でも二枚でもいーのよ。


組み合わせは好きにしていーのよ。



この文言で反応できた人は、新宿京王デパ地下住人であろう。


この声を聞きたくて、ここまで来た節もあるくらいだ。



ふむ。


PAULのクロワッサン・オ・ザマンド。


昔よく食べていたな。



いかん。


パンはデザートだ。


その前に今日のおかずを決めなくては。



そうだった。



うちの冷蔵庫に、先週釣ったカンパチがいる。



魚はいいや。



今日も充実した見回りだった。


帰ろう。



京王を出る前に、スマホを見る。



17PV。



…………。



増えた。



一。



高島屋。


ISETAN。


小田急。


京王。



一。



…………。



まあいい。



読んでくれた人がいる。



それでいい。



     *



十五分ほど歩いて家に着く。


今日はよく歩いた。


歩数を見る。


八千歩。


悪くない。



冷蔵庫を開ける。


カンパチがいる。



そうだった。


今日の夕飯はこれでいい。



カンパチを取り出す。



…………。



見る。



…………。



今日は違うな。



カンパチを冷蔵庫へ戻す。



玄関へ行く。


鍵を持つ。


また家を出る。



まいばすけっとへ向かう。



歩きながらスマホを見る。



17PV。



大丈夫だ。



最近、AIを作っている偉い人たちが、AIは人類にとって危険だと言っている。



アンソロピックだったか。


パラリンピックだったか。



どちらでもいい。



とにかく危険らしい。



もう少しの辛抱である。



AIが世界を滅ぼしてしまえば、17PVも17万PVも同じだ。


読者がいないのではない。


読者という概念そのものがなくなる。



そう思えば、少し気が楽になる。



あと少し。


あと少しの辛抱だ。



明日の朝には、もうみんな――



スマホを見る。



18PV。



…………。



増えた。



私はスマホをポケットにしまう。



帰ったら続きを書こう。



その前に。



今日の夕飯、何にしよう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。