1-8・依頼内容
「と、ところで、どんな依頼なんだろうな?」
早速失点して苦笑いを浮かべるクロウと、今回の依頼内容を確認するために、講堂から移動する。
「んー。おっさんが一発ぶん殴ってそれで終了、ってぐらいの依頼だと楽なんだけどな」
今回は抽選による選抜だったので仕方がないが、クロウの実力を考えれば、戦力として私は必要がない。
とっとと終わらせて、魔術開発施設を見学したいところだ。
「はは。オレも魔導生物相手なら楽だと思うよ。
でも、魔導植物だとちょっと厄介なこともあるんだよな」
大別すると『魔物』は動物からの変化と、植物からの変化の二つに分けられる。
そして、私もクロウの意見に賛成だ。
「魔導植物だと、本体の位置がわかりづらいことがあるもんなぁ」
というか、もはやわからないことの方が多い。
「そう。そうなんだよ。
昔、魔導大樹ってのを粉々にしたことがあるんだけど、本体は根だったことがあってなぁ。
掘り起こすのに苦労したよ」
…………
「アーワカルワカルゥ」
……実は私。
『魔王戦争』時代に勇者の足止めをするために、その手の魔導植物を作り出したことがある。
いわゆる『子孫』ではないと思うが、対処の面倒さはよくわかる。
ちなみに『魔物』は『魔王の遺物』と言われているが、正確には『魔女の遺物』であって、私だけが作り出したんじゃないんだよな。
そんな私が魔物討伐で報酬を稼ぐとか、壮大な自作自演だよな。
「それにしても、ルシアは若いのに経験豊富そうだから、今後も頼りになりそうだな」
「はい、失点」
「えぇ!? なんで!?」
クロウは、私の冷ややかな言葉に驚きの表情を見せた。
「おっさんなら知っていると思うが、女性は男性に比べて魔力保有量が多いよな。
それは当然戦力に直結する。
でも、時代は変わっていってるんだよ。
魔術の進歩によって、男性でも女性並み、あるいはそれ以上の戦力を持つことができているだろ?
だから、最近では娯楽小説でも男性が女性を守るようになってきてるんだ。
だから時代についてこれるように、おっさんみたいな『強者』は、女性を守ると言え。
じゃないと、若者からは『ハァ……最近のおっさんは……』とか言われかねないぞ?」
おそらく、将来的には筋力や体力面で勝る男性の方が、戦力的には強くなる。
『魔女』のような一部の例外を除けば、だが。
「う、うぐ……そ、そうだよな……
『魔女狩り』という仕事柄、女性ばかり相手にしてたから、女性は強いものとばかり思い込んでいたよ……」
クロウは事実を認め、しょんぼりと肩を落とした。
「いやいや。それでも、これからできるようになればいいんだ。
例えば、幼馴染のリィン。
彼女の実力は知らないが、守ってもらうことに憧れているかもしれないし」
そして仲をさっさと発展させて、私に二度と迷惑をかけるな。
「それに私だって、魔術に頼らないと大して強くもないんだから、今回の依頼はおっさんにがんばってもらわないといけないし」
これは事実だ。
そりゃ私だって底辺とはいえ『魔女』だ。
一般魔法使いに比べれば圧倒的な魔力保有量を誇るが『魔女』としては少なすぎて、魔法に頼りきれないのだ。
なので、依頼内容をまだ確認していないけど、私は楽に儲けたい。
そして協会内で名声を得て、魔術開発施設を自由に出入りできるようになりたい。
「よ、よし。せっかく無職から脱したんだから、ここはいっちょ、おっさん張り切っちゃおうかな」
クロウは、私の励ましという口車に乗り、一転してその表情にはやる気が満ちた。
「そうそう。これからは『普通の強いおっさん』という一般人としてやっていけばいいんだよ」
「おう。そうだな」
『魔物討伐協会』所属の討伐員が、一般人かどうかはさておいて。
「で、今回の依頼はなに?」
私たちがそんな会話をしつつやってきたのは、依頼受付所から回ってきた依頼が掲示されている、任務発給所だ。
そこで受付を担当している職員の女性に討伐員証を提示して、今回の依頼を確認する。
「今回お二人に担当していただく依頼はこちらです」
提示された任務書に書かれていた内容は……
『魔導植物の調査。状況次第では討伐。
任務地は……』
「……魔導植物か」
「だな」
私たちが先ほどまで話していた『ちょっと面倒な魔物』に当たってしまうとは。
しかも場所を確認すると、案の定森の中だ。
……私は森の入り口でクロウを応援する係、ってわけにもいかないよな……
クロウのほうは、まぁしょうがない、といった程度の表情だ。
厄介とは言っていたが、場慣れはしているんだろうな。
「早速向かうか?
それとも準備してから行くか?
オレはこのままでも行けるが」
場慣れしているだろうクロウは軽装だ。
私も、バッグの中にはいつ何があっても大丈夫なように、万全の体制だ。
なので、すぐに出発できる。
「日があるうちに、とっとと行ってとっとと終わらせよう」
この手の作業は日数がかかるものだが、特に珍しい魔導植物でもなければ、私は滅多に森の中になんて入らない。
野宿なんてもってのほかだ。
依頼内容にも未確認魔導植物といった、私がそそられる文章も記載されていない。
なので、こんなものはさっさと終わらせるに限る。
「よし。それじゃあ」
「おっさん!」
二人の意見が一致したところで出発……女性の声が聞こえた。
ここにはおっさんがいっぱいいるので、それがクロウを指しているのかはわからないが、その声に私もクロウも振り向いた。
そこには、見た目の年齢は私と同じかちょっと上くらい。
背中まで伸びた黒みがかかった赤毛を雑に束ねた、女性討伐員の姿があった。
特徴的……と言っていいのか、綺麗なドレスでも着ていれば、深窓の令嬢と言っても過言ではない美人だ。
「ソフィ……か?」
どうやらクロウの知り合いのようだが、その表情には驚きと困惑が入り混じっていた。
「なんだなんだ? おっさんが他所で作った女か?」
リィンが知ったら発狂しそう。
でも、このうろたえっぷりからはあり得そう。
「そ、そんなんじゃないよ。
昔の知り合い、だと思う……」
おっさんの言葉に嘘はないように思える。
「おっさん! クロウ……だよな!?」
クロウの姿を見た女性は、少し小走りに近寄ってきて、クロウの顔をじっと見つめた。
「お、おう。ソフィ、だよな?
まさかこんなところで会うなんてな。
大きくなってびっくりしたよ」
ということは、少女時代に会っていたのか?
……胸の話じゃないよな?
「そうだ! ソフィだ!
それよりおっさん。選抜依頼なら、こんな子供よりもアタシと一緒に行こうぜ!」
…………なんか、いきなりケンカを売られたんだが?




