1-7・相棒
「講習は以上となります。
今後は各自の判断にお任せします。
依頼を受けてもいい。
今日はもう帰ってもいい。
訓練をしてもいい。
基本的に、受け付け時にお渡しした『討伐員証』を持っていれば、この『魔物討伐協会』内は自由に行動していただいて結構です。
ただし、それは礼節あってのこと。
不要な行動は『教育』の対象になるので、あしからず」
最後に含みをもたせたリィンの言葉で、講習は締められる。
さて。
確か『魔物討伐協会』は、対魔物用魔術を開発する施設があるとのことだが、まずはそこへ行ってみるか。
『不要な行動』でなければ、超接近しても大丈夫だろ。
むしろ、200年以上に渡って魔導研究を行なっている私に研究成果を見てもらえるのだから、誉れと思われるべきだ。
まぁ、私の実年齢なんて口が裂けても言えないが。
「さて、と。
長い長い支部長殿の説明で疲れたし、一息ついてから仕事を探すか。
ルシアも一緒に休むか?」
クロウは軽く体を伸ばして私に問う……
なんでこいつは私に軽々しく絡んでくるんだ?
もっと同世代と仲良くすればいいのに。
もしかして、口では私のこと小娘だから興味ないと言いつつも、実は下心ありありで見ているとか?
まぁどちらにしても、私の答えは拒否だ。
そもそも『魔女狩り』と一緒にいたくない。
それに、これ以上リィンに睨まれたくない。
なんか変な理由つけて行動制限されそうだし、報酬減らされそうだし。
そんな私が思ったことを、できるだけ角が立たないように口にしようとしたところ……
「あぁ、そうそう。
発足初日に、誰も依頼を受けないなんてことがあっては今後の信用に関わってきます。
なので初日の今日だけは、皆さんが依頼を探す前に、協会によって仕事を割り振りましょう」
リィンがそんなことを言い出した。
まぁ、リィンの言う通りだな。
協会のやる気を一般の人に見せなければ、依頼は入ってこない。
となれば、儲からない。
つまり私たちは報酬がもらえない。
そして、この支部が解散になったら研究施設を見学できない。
……でも、どさくさに紛れて資料をいくつか持って帰れるかも……?
……うーん……
「もちろん全員というわけではありません。
今から抽選を行い、選ばれた討伐員は依頼を確認して、任地へ赴いてください」
リィンがそう言うと、協会の職員らしき人が青白い水晶玉のようなものを持ってきた。
「これは先ほど説明した、受け手がいない依頼を割り振る時に使うものです。
各個人が依頼を受ける時には、必ずこれに触れ、協会の割り振りの可否を登録しておきます。
では、実際に行なっていきましょう」
リィンは水晶玉を一度軽く叩く。
すると『530』という数字が浮かび上がった。
「すべての依頼には数字が振ってあります。
そしてこれは依頼番号です」
受ける依頼が確定すると、先ほどとは違う職員が、おそらく該当する依頼書を持ってきた。
へぇ。
おそらく、協会内のどこかに母体となる水晶があるはずだ。
そこに登録してある情報を、各端末の水晶と共有しているんだろうな。
一つ持って帰って、内部の術式を見てみたいものだな。
「……この依頼は二人で当たってもらうことになります。
では次に、担当してもらう討伐員を決めます」
続いて水晶玉を軽く叩くと、討伐員証に記載してある討伐員番号が浮かび上がった。
『00512』
『00333』
「……私だ……」
えぇ……せっかく開発室を観察したかったのに……
まぁいいや。拒否権はあってもないものだし。
それに、金を稼ぐのも目的の一つだし。
できれば、相方となるやつに全部押し付けて楽したいけど。
「あ、オレだ」
………………
「………………」
依頼の担当者が決まった瞬間、クロウ以外の二人……私とリィンは硬直した。
……まぁ、これでリィンが意図的に操作できない、というのは判明したよな……
「ルシアと出会ってから、何かと縁があるな。
意外といい相棒になるかもしれないな」
……おい、口を慎めよ。
リィンをそれ以上怒らせるな。
「わ、私はもうちょっと、ど、同世代と組みたかったけどなぁ……」
私は言いつつ、チラリとリィンに視線を向ける。
「…………では続けます」
リィンも、ここで露骨に嫉妬心を見せるわけにはいかない。
秘めたるものは心にしまい、粛々と支部長としての仕事を続けていく。
あれぇ……私、こんなに運が悪い女だったっけなぁ……?
「……以上です。
では各々、受諾できるかどうかの可否を伝え、可能なものは依頼を確認して、任地に赴いてください。
以上。解散」
リィンは10個の依頼と、10組の討伐員を選抜したのち、解散を宣言して降壇する。
「さて、ルシア。
これでオレたちの2回目の共同作業になるな。
がんばって稼ごうぜ」
クロウは笑顔で右手を差し出す。
「…………」
私はその言葉を聞いて、全力でクロウのふくらはぎを蹴り飛ばした。
「いたぁ! な、なんだよ……? おっさんじゃ不満なのか?」
私の行動に対し、クロウは若干しょぼくれた表情を見せた。
ただ、痛がるそぶりは見せるものの、やはり私程度の蹴りではダメージを一切負っていないようだ。
「おっさんが強いのはわかっている。
戦力としては申し分ない。
だがな、周囲に」
特にリィンに。
「対して誤解を生むようなことを言うんじゃない。
おっさんは少し、女性に対して配慮が欠けているんじゃないのか?」
「う……それ、リィンにも言われたことあるぞ……」
やっぱり。
この恋愛系無能男が。
「それじゃあ、いい歳したおっさんなんだから、今後、私に失礼があった場合には失点な。
これが溜まりに溜まった時、おっさんの実力の秘密を一つずつ教えてもらう。
それでいいだろ?
なぁに、教えたくなければ、配慮というものを意識すればいいだけの話だ」
「わ、わかったよ……
まぁオレも、何度も言われたから直さなきゃとは思っていたから、今回は勉強させてもらいます」
「よろしい」
くくく。
この手の無自覚男は、いくら意識しようがやらかすものだ。
そして失点を重ねること間違いなし。
つまり、私は労せず……リィンの圧力はありそうだが……クロウの実力の秘密を知ることができる。
元とはいえ『魔女狩り』と組むなんて、本当に嫌なんだ。
このぐらいの褒美がないとやってられない。
「それにしても、ルシアは若いのにしっかりしてるな。
今回相棒として心強いよ」
おっさんは言いつつ、私の肩を軽く叩いた。
「はい、失点」
「えぇ!?」
思ったよりも早く失点がたまりそうだな。




