1-6・講習会
クロウが威勢のいい若者に『教育』を施したのち、私たちが向かったのは地下大講堂。
これから支部長リィンによる『魔物討伐協会』に関する講習が行われる。
なお、原則として欠席者は即除籍となる。
なので『教育』を受けてすっかり大人しくなった若者も、最後の最後で講堂に入ってきた。
ただ、若者の行動をあざ笑う者も少なからずいる。
私としては若者の自業自得でしかないので、どうでもいいことだ。
むしろ自然な状況とも言える。
「うん。あそこで腐らないでいれば、ちゃんと伸び代はあるからね。
若者には頑張って欲しいものだよ」
そんな若者を見て、私の隣に立つクロウがそう口にした。
あざ笑う者を咎めないのは、生き恥も勉強、とうことなのだろか?
……というか、なぜ私の隣に……?
またリィンに睨まれそうなんだが……
「その若者の心を折ろうとしたおっさんがよく言うよ」
「いやいや。あれは支部長様の命令で仕方なくだな……」
おっさんは慌てた様子でパタパタと手を振る。
うん。可愛くはない。
「へぇ。さすが幼馴染だけあって心が通じ合っているというか、相性の良さは抜群なんじゃないか?」
別にクロウたちに恋愛事情なんてどうでもいいが、少しでもクロウにリィンを意識してもらって、とっととくっついて欲しい。
そうなれば、私の方に近寄ってこなくなるだろ。
リィンの方は束縛が厳しそうだし。
「まぁ、幼い頃はずっと一緒にいたからなぁ。
でも、オレが仕事で故郷を離れなくちゃいけなくなった時は、結構ひどいこと言われたんぜ。
まぁ、故郷を捨てて逃げるやつ、みたいに思われたのかもしれんが」
……鈍感すぎる。昔からそうなのか……
こりゃ期待できないなぁ……
「でも、こうやって大人になって再会したら、その時のことも、ちっとは許してくれたのかな?」
「そうだともそうだとも。
だから、まぁ職場では上司と部下の関係であっても、一度そこから離れたら、それはもう昔馴染みなんだ。
存分に話に花を咲かせて、もっと昔のような仲の良かった頃に戻った方がいいぞ」
「はっはっはっ。
ルシアは若いのにしっかりしているねぇ。
まぁ、おっさんも昔のように仲のいい友達に戻れるように努力はするよ」
……これはダメだ……
クロウは、私のような小娘に本音を語っていないだけかもしれないが、これが本心から出てくる言葉なら……
リィンがもっと積極的にいかなきゃ、これは無理だろ。
そんなことを話していると、リィンが講壇へ上がった。
……そして素早くクロウの姿を見つけたようで、同時に私へ刺さった視線が痛かった……
……ほら、とばっちり……
「リィンがあんな目をするなんて……」
クロウも違和感を覚えたようだが、おまえのせいだよ。
「ルシア。よくわからないけど、気に入られてるのかもしれないな」
ぎゃくうううう!
なんでそんな結果出しちゃうんだ!?
おまえ『元魔女狩り』だろ!?
気配をちゃんと読め!
嫉妬だよ嫉妬!
気づけよ!
なんで恋愛に関しては世界の誰より無能になるんだよ!?
……やっぱり、私にとってのこいつは疫病神だった……
術式に目が眩んで、話しかけたのがまずかった……
「……それでは『冒険者ギルド』あらため『魔物討伐協会』へ所属するための講習を始めます」
リィンの目は納得していなかったが、ここで私情を挟むわけにもいかず、講習を開始した。
「みなさんご存知かもしれませんが、二つの組織の大きな違いは『冒険者ギルド』は『魔女の討伐、および魔王の遺物である魔物の討伐』が主な仕事でした」
そう。
それが私が『冒険者ギルド』に所属しなかった理由だ。
いくら報酬がよくても、自分を狙っている奴が周囲にいる状況に身を置くなんて、度胸の問題ではない。
もはや狂っていると言っても過言ではない。
ちなみに『魔女討伐』なのに『冒険者』なのは、過去、勇者が魔王を目指し、各地を旅しながら魔女を討伐したことに由来している。
「しかし、現在では『魔女』の存在は確認されず、そして『魔女狩り』による一般人への冤罪」
「…………」
この言葉に、クロウは少しだけ影を落とした。
後悔しているのか、あるいは自分の『魔女狩り』としての働きは正義だったと、言い聞かせているのか。
「世界各国はこれを大きな問題とし、ついには世界会議によって『魔女の絶滅』と『魔女狩り』の廃止が宣言されました。
それと同時に『冒険者ギルド』は解体され、新たに『魔物』を主な討伐目的とした『魔物討伐協会』が発足されたのです。
宣言通り『魔女』は絶滅しましたが『魔物』は動植物が変化したものです。
そして『魔物』を絶滅させることは、生態系を絶滅させることと同義であり、すなわち不可能です。
ですが『魔物』による被害を未然に防いだり、起きてしまった被害に対処することはできます。
その解決に当たるのが、我々『魔物討伐協会』なのです」
つまりは『魔女が狙われる』ことは『表向き』ありえない話となる。
なので、仮に私が『魔女』だと疑われても『魔女討伐禁止令』がある限り、昔のように『あ、魔女だ。やっちまえ』という風に簡単にやられることはない。
ただし『表向き』の話である。
『魔女狩り』自体は、そもそも公的な仕事であり、おそらくクロウも誇りを持って働いていたはずだ。
なので『純然たる魔女』である私の正体がクロウにバレた時、クロウはどのような行動に出るのか?
……それがもう、不安で不安で不安で……
そんな私の不安をよそに、リィンの講習は続く。
「では、肝心の仕事の受け方ですが、まずは『魔物討伐協会』に集まる依頼の中から、自分に合ったものを探して受けてください。
基本的には依頼を見つけた人、受けた人の早い者勝ちです。
ただし、仕事は確実に成功させること。
個人では不可能だと思った場合、必ず相談をすること。
このルールが守られない場合は、報酬が下がる、あるいは除籍と考えてください」
まぁそりゃそうだ。
人間は失敗するものだ。
とはいえ、発足したばかりなのだから、いきなり信用を失うわけにはいかないだろうからな。
「しかし、そうなると受諾できない依頼が出てくる場合もあります。
そうなった場合、協会側が選別した人材を割り当てます。
ただし、これに関しては拒否権があります。
誰しも得手不得手がありますからね」
リィンは穏やかに言うが、おそらく今後の報酬に影響が出てくるはずだ。
そりゃ、対処できる数が多い優秀な人材には多くの報酬を与える。
できないというのなら減らす。
当たり前のことだ。
というわけで、私はクロウと依頼が被らなければそれでいい。
なーんてこと考えていたら、変なところで共同戦線になったりするんだよなー。
はははー。
……って、笑い事で済めばいいけどな……
この後もリィンの講習は続いた。




