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底辺魔女と元魔女狩りのおっさん  作者: 山岡桃一


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9/9

1-9・三角関係+1

 『魔女』も元は普通の人間であり『魔女化』した時点で肉体の成長は止まる。

 なので、私が17歳と言い張るのにはちゃんと根拠があるというわけだ。


 ……『魔女化』したのは15歳だが……


 当時の私は確かに、周囲の女性と比べれば華奢で、絶壁と揶揄され続けてきた。


 まぁ、私も別に自身の慎ましやかな体を気にしているわけではないが、バカにしてくるやつに対しては別だ。


 今までもきっちり仕返ししてやった。


 つまり、私を子供扱いした、目の前の豊満な女性ソフィに対して、私はありとあらゆる手段を使って仕返しをしてやらなければならない。


 ……とは言っても、それは状況によりけりだ。


 今回の場合、私は組織に所属している。

 なので、私怨で揉めるわけにはいかない。


 最悪除籍となった場合、報酬ももちろんだが、研究施設まで立入禁止になってしまう。

 そうなったら、今まで通り潜り込むしかない。

 

 とはいえ、おそらく討伐協会の警備は堅牢であり、面倒だろう。


 それに私は、ここにいる誰よりも人生経験豊富な大人だ。

 今回の失言に対しては、クロウの失点によってまかなってもらおう。


「おい、ク」


「こら、ソフィ。

 人を見かけで判断してはダメだと、前にも言っただろう?」


 私がクロウに失点を告げる前に、クロウはソフィに注意した。


 く……これではクロウに失点を言い渡せない……


「ご、ごめん……」


 するとソフィは、素直にクロウに向かって謝罪した。


「違うよ。

 こっちのルシアに謝るんだ」


「……ごめん」


 どうやらソフィはクロウの言葉には逆らえないようで、私に対しても素直に……


 ぎりぃ……


 ……いや、わずかな歯ぎしりとともに謝罪した。


 ……私、そんなに恨み買うようなこと……


 してるかも。


 多分こいつ、リィンと同じでクロウに惚れてるから、クロウと組む私のことが気に入らないんだ。


 ……意外とモテるのか、このおっさんは。


 まぁ、よくよく見てみれば、渋みの効いた男ではある。

 だからと言って、私の好みであるかといえば、よくわからない。


 恋愛なんてしたことないし、私は魔導的に優秀かどうかしか見てないからなぁ。


 クロウはその点は魅力的ではあるけど『元魔女狩り』というのが大きな難点だ。


「それで、おっさん。

 こっちの女性……ソフィはおっさんの愛人なのか?」


 この場にリィンがいたら修羅場になりそうな質問だが、私がこのまま恨まれたままなのは今後が怖い。


 なので、クロウとソフィの距離を縮めておき、私への被害を最小限に押さえておく必要があるだろう。


 リィンとの修羅場は、私がいないところでやってくれ。


「そんなんじゃないよ。

 昔、ちょっとした事件があって、そこで知り合ったんだ」


 私の質問に、クロウは極めて冷静に答えた。


 ふぅむ……


 挙動不審に陥ったりしないところを見ると、クロウはソフィに対して、その手の感情はないのか。

 あくまでも、ただの子供として見ているようだ。


「そうさ。アタシはおっさんの愛人なんかじゃないぞ」


 ソフィも愛人を否定した。


 なんだ。恋愛感情ではなく、師匠的な立場として私にその位置を取られると思ってからの憤りだったのか。


「あの時……そう、あの辛い時にアタシを助けてくれた。

 その優しさは、幼いアタシでも胸にくるものがあったのさ」


 ん……? これは恋する乙女の表情……


「だから、愛人なんて生ぬるいものじゃない。

 あの時の約束通り、私が大きく、そして強くなったら結婚するって約束したんだ!」


 そのソフィの大声によって周囲はざわつく。


「おい、おっさん。

 おまえ、幼子に手を出したのか?」


「ち、ちち違うよお!」


 そして、私が冷ややかな目をクロウに向けると、今度は取り乱した様子で、大きく手を振って否定した。


「いいや、違わないね。

 おっさん、あのとき『私が大きくなったら結婚してくれる?』って聞いたよな?

 そしたらなんて言った?

 『あぁ。君が大きく、そして強くなったらね』って、優しく撫でてくれながら笑って言ったんだ。

 つまり、アタシたちは結婚できるのさ!」


 ……あぁ。子供の対応に困った大人がやりがちな、アレか。


 だが、私はクロウに助け舟を出さない。


 これで、修羅場はクロウとリィン、そしてソフィの三角関係となり、私は外れることになるのだから。


「そ、それは……その……」


 クロウはソフィに失望を与えないためか、はっきりと『あの時は冗談。励ますため』とは言えないようだ。


「だから、えと……ルシア、だっけ?

 アタシと依頼を変わってくんないかな?」


 ソフィは笑顔の中に邪気を込めて、私の肩に手を置いた。


 ……ふむ。


「なぁ、支部長の抽選によって選抜されたんだが、それを私たちの意見だけで変えてもいいのか?」


 まずは協会の規律を確認することが最重要だ。

 なので、受付の女性に聞いてみた。


「当人同士の話し合いによって、協会に申告すれば可能ではあります」


 そう話す受付の言葉に、少し引っかかるものがある。


「……もしかして、先任者の評価に関わるとか?」


「…………」


 私が小声で聞くと、受付は視線だけをそらした。


 ……ダメだ。初任務でこれはダメだ。

 仕事は楽したいが、評価を落とすのはいけない。


「それじゃあ、若い討伐員が勉強のために古参のおっさんについていくのはどうだ?」


 私が再び問うと、受付は視線を戻した。


「それは構いませんが、原則として依頼を正式に受けた者にしか報酬は出せません。

 もしそれでよろしければ、若き討伐員の成熟のために、協会は帯同を許可しています」


「だそうだが、どうする?

 私も変わってやりたいが、報酬は欲しい」


「もちろん付いていくさ!

 そこでアタシが強くなったってことを証明すればいいだけの話だからな!」


 ソフィは笑顔でそう言ったが、どうもその視線は私を排除したいんじゃないか? と疑ってしまう。


「おっさんもいいだろ?」


「あぁ。若者の成長を促すのもおっさんの役割だしな」


「よっしゃ! それじゃあ早速行こうぜ!」

 ソフィは喜びつつ、クロウの腕に自分の腕を絡める。


「こらこら。動きづらいだろ」


 そのクロウは特に鼻を伸ばすような様子は見せず、若干困惑しているようだった。


 本当に恋愛関係、というか女性関係に興味はないのか、ソフィをただの子供だと思っているのか……


 なんにせよ、こんな場面をリィンに見られたら、明日にはソフィの姿が見当たらなく……


「…………」


 いるんだよなぁ……物陰から覗く黒フードの姿が……


「ん……」

 クロウも当然その姿に気づき、軽く手を挙げた。


 多分、これから仕事に行ってくる的な、軽い気持ちだったんだろうけど……


「…………」


 明日は修羅場かな……

 お願いだから、私を巻き込むなよ……

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