1-4・威勢のいい若者
私は自分で作った『偽造身分証』を受け付けに提示し、これにて正式に『魔物討伐協会』所属となる。
協会側としてはまず人員の確保を優先したのか、実力は自己申告制だ。
なので、一定基準を満たしていればとりあえず所属はできるようだ。
とはいえ、相手にするのは『魔物』だ。
それに報酬は出来高払いだ。
なんの実力を持たない一般人が、わざわざ虚偽申告をしてまで登録はしないだろう。
ちなみに私は、正直に『魔法と攻撃魔術を使える』と申告している。
どんなものかは、もちろん秘密だが。
それにしても、どんどん人が集まってくるな。
100人は軽く超えていて、男女の割合は……半々といったところかな?
これも魔術の発達のおかげだよなぁ。
魔法文明に代表される『魔女至上主義』時代なんて、魔力の関係上、女性ばかりが活躍していたからなぁ。
文明の発達、万歳。
でも、もっと便利な世の中になって、移動とか楽になればいいのになぁ。
馬車はいくら高級でも、長距離だとどうしてもお尻が痛くなるし。
さて、受付が済んだら、次は講堂で『魔物討伐協会』に所属する上での講習があるんだったな。
「おいおい。ここは養老院だったのか?
オレ、来るとこ間違えたか?」
ん?
私がキョロキョロと周囲を見回していると、受付で、若者がおじさんおばさん相手に威勢を振りかざしていたのだ。
どこの時代でもいるよな。身の程知らずってやつ。
年寄りを見たら『生き残り』あるいは『歴戦の兵』だと思え、と父母に教えてもらわなかったのか?
「はっはっはっ。元気がいいねぇ。
その若さだけでも武器になるよ。
それを活かして、今後はキミが時代を作って行くんだ」
その身の程知らずに対応したのはクロウだった。
怒った素ぶりや、逆に煽ったりといった態度を見せず、本心を言っているように見える。
あれが実力者の余裕ってやつだろうか?
私だったら、こっそり水魔法を使用して若者の股間を濡らし、尊厳を破壊してやるところだが。
「おうおう。確かになぁ。オラァ余生の金がありゃそれで十分さね」
「そうねぇ。アタシは孫におもちゃを買ってあげたくてねぇ。
体に鞭打ってがんばっちゃうわ」
と、クロウの周囲にいたおじさんおばさんは、クロウのさらに年上に見えるが、この余裕だ。
時代を見てきた私だからわかる。
絡んじゃいけない人たちだぞ、あれ。
「……この老いぼれども」
若者は全く相手にされていないことに苛立ったようで、顔を真っ赤にしながら腰の獲物に手をかけた。
そんな煽り耐性の低い、自制心の欠片もないやつが組織に所属して大丈夫か?
「何の騒ぎかしら?」
そこへクロウの幼馴染だというリィンが割って入った。
先程までの黒色ローブとは違い、濃紺のドレスコートを身に纏い、さらにその胸元には協会の紋章が刻まれた銀のブローチを身につけている。
これを見ただけでも、協会幹部なのだとわかる。
「お、リ……支部長。
この若者が、この『魔物討伐協会』の未来を担いたいと威勢のいいことを言ってまして」
「ふむ」
クロウは軽そうに見えていても、ちゃんと礼儀はわきまえているようで、リィンを幼馴染扱いしなかった。
リィンもクロウの言葉に支部長らしく、鋭い目線で若者を、まるで値踏みするかのように一瞥した。
「だ……だって実際そうでしょ!?
この人たちよりオレのほうがずっと動ける! ずっと強いはずだ!」
若者は支部長の登場に、若干腰が引けているようにも見える。
権力に簡単に屈するくらいなら、最初から威勢を張らなければいいのに。
「よろしい。
では、こちらの壮年の男性に勝つことができれば、あなたの報酬は引退するまで通常の二倍と約束しましょう」
「え……」
若者は支部長の言葉を一瞬理解できなかったようで、目を大きく開いて間の抜けた表情を見せる。
「これより講堂にて『魔物討伐協会』のあり方を講習するつもりでしたが、ここにいる全員、訓練場へ移動しなさい。
そこで、事の顛末を見届け、証人となるのです。
講習はその勝負が終わった後に執り行います」
だが支部長リィンは冗談で言ったわけでなく、その場の全員に声が届くように、そう宣言した。
「……本気か? 本気で言ってるのか? このおっさんに勝つだけで生涯報酬二倍とか……」
若者はその言葉に簡単に釣られ、これ以上ないほど口角が上がった。
あーあ。ただの見せしめだと気付かずに。可哀想……じゃなくて、自業自得か。
「二言はありません。
なんなら、協会幹部の椅子も用意して差し上げましょう」
「……おっさんに勝つだけで幹部……」
若者の妄想は止まらない。
金、権力、そして女と自分の思いのままの未来でも思いついたのか、下卑た笑みが浮かんでいた。
「本気でやりなさい」
それを見たリィンは少しだけ笑みを浮かべて、クロウの肩に手を置いた。
「……まぁ、若者の指導も年寄りの仕事か」
クロウは少し面倒くさそうにため息を一つ吐く。
「さぁ、訓練場はこちらです」
そう言って案内するリィンの表情には、憎悪が浮かんでいた。
……やっぱりクロウをバカにされた個人的感情か……
怖い怖い。




