1-3・三角関係?
「よぉ。おはよう」
「ん……あぁ……」
私が宿から出ると『元魔女狩り』のおっさん、クロウが待ち構えていた。
これがただの待ち伏せなら、私なりの『撃退方法』というものがある。
ただ相手はおっさんでも『元魔女狩り』だ。
昨日見た実力の一端からして、正面切って勝てる相手じゃない。
そんな奴が、同じ宿に泊まり、同じ『魔物討伐協会』に所属し、同じ集合時間とは……
……胃が……胃が痛い……
「どうしたどうした? 若いのに元気がないな?」
クロウは笑ってそう言うが……
こちとら気持ちと見た目は若いが、おまえより200歳くらい上だ。
というか『魔女』が『魔女狩り』を目の前にして元気になれるかよ……
「もしかして朝メシ食ってないのか?
それならオレが奢ってやる、と言いたいところだが、初日ぐらいは遅刻しないほうがいいだろ?
途中で何か歩きながら食えるものがあったら、奢ってやるよ。
さ、行こうぜ」
……確かに、いきなり遅刻とかしたら今後の評価に響いて報酬を下げられるかもしれないな……
「それじゃあ、早速あそこのミートパイでも奢ってくれ」
もともと食べ歩きながら向かう予定だったのだ。
これで朝メシ代が浮いたな。
「それに、こんな可憐な少女と一緒に歩けるんだから、おっさんも鼻が高いだろ?」
「え……いや、さすがに年の差がありすぎて、そういうのは……」
私を前にして、なんという贅沢な。
普通の男なら、私の靴ぐらい舐めたいだろ?
「それじゃあ、可憐な姫を守る騎士だ。栄誉だろ?」
「……爆弾を持った、って痛い痛い! 蹴るな!」
町中で言っていい言葉じゃない。
私を処刑台に登らせるつもりか?
私は相手が『魔女狩り』であろうと、容赦なく脛を蹴り上げた。
「ほらもう。おっさんのせいで余計な時間食っちゃっただろ。
ほら、早く買ってきて」
「き、気性の荒いお姫様だなぁ……」
クロウはぶつぶつと言いながらも、私が所望したミートパイを買ってきた。
「うん。おいしい。
さ、行くか」
「へいへい。お姫様」
良心の呵責に苛まれて『魔女狩り』を引退しただけあって、私が普通の可憐な少女を演じていれば、クロウは怒ることはなさそうだ。
しばらくは利用できそうかな。
私たちは町の雑踏をすり抜け、しばらく歩く。
すると、かつては『冒険者ギルド』と呼ばれていた、石造りの要塞のような建物が見えてくる。
そしてその頃には、私たちと同じように各地から集まった、これから『魔物討伐協会』に所属する面々が見え始める。
わかりやすい武器を持った人。
魔法使いっぽい人。
場に合わなさそうな、ちょっと奇抜な人と様々だ。
この中に、どれだけ私が興味をそそられる魔術を持つ者や、未知の技術を持つ者がいるのか……
お金も大事だが、貴重な魔術などが集まってくる場所と見込んで、私もわざわざやってきたのだ。
期待を裏切らないでくれよ。
「お姫様。顔が緩んでるけど、そんなにミートパイがおいしかったか?」
……おっと。つい顔に出てしまっていたか……というか……
「もうお姫様はいいから」
「わ、わがままだなぁ……」
「女の子はわがままなんだ。おっさんもよおく覚えておけ。
ほら見てみろ。
周囲の人間はおっさんに比べて若いし、どちらかといえば私に近いんだぞ。
その中におっさんが入って行くんだ。
若者との付き合いだと割り切れ」
「う……なかなか痛いところをついてくるね……」
実際、クロウのような例外や、強化魔法に秀でていないと、若者の方が動けるのだ。
なので、ここに集まるかつての『冒険者ギルド』所属の人材でもいれば、それは私の魔導研究としての標的になる可能性が高い。
……それにしても、この街道の突き当たりに鎮座する要塞のような建物。
看板こそ『魔物討伐協会』と新調されているが、かつては私が近寄りたくない場所の一つだったんだよな。
そんな私が今、この門をくぐることになるとは……
「クロウ。クロウ」
「ん?」
私が感慨にふけっていると、黒のローブに身を包んだ女性が、クロウを小声で呼んだ。
「えと……」
クロウの知り合いではないのか、女性に少し訝しんだ視線を向けている。
「もう、私よ私」
クロウのその態度に、女性は少し不機嫌そうだったが、フードを取るとその顔には笑みが浮かんでいた。
「なんだ、リィンだったのか。
どうしたんだ? わざわざこんなところに」
リィンと呼ばれた女性は、クロウよりもだいぶ若く見える。
年齢は二十代後半ぐらいだろうか?
栗色の髪を纏めた美人で、気品のある女性だ。
「せっかく来てくれたんだから、幼馴染として久しぶりにお出迎えをしようと思ってね」
……ということは、クロウと同年代なのか?
全く見えないが『魔女』かな?
「そうだなぁ。十年ぶりぐらいか?
いやぁ、今回は助かったよ。
いくら昔の蓄えがあるからって、ずっと無職のままでいるわけにはいかなかったからな」
そういえば『魔物討伐協会』には、幼馴染がいると言っていたが、この人がそうか。
「いいのよいいのよ。
あなたみたいな実力者がこの『魔物討伐協会』に所属してくれたら、紹介した私も鼻が高いもの。
さ、受付はあっちだから、また落ち着いたらお酒でも飲みながらお話ししましょう」
「そうだな。久しぶりにお前と飲む酒は美味そうだ。
さて、ルシア。あっちみたいだから、行こうか」
「おう」
「ちょっと待って」
クロウが私を呼んだ瞬間、リィンの声のトーンが一つ下がって、クロウの肩を鷲掴みにした。
……そういうことか……
「な、なんだよ?
時間にはまだ余裕があるはずだけど、あまり長話はできないぞ」
違う。そうじゃない。
鈍感か、おまえは。
と、クロウのことを気にかけている場合ではない。
私は『標的』になり得るので、すこーしずつすり足でこの場から離れることにする。
ずしん……
と、そんな私の肩をリィンの手が捉えた……
「どういうご関係かしら?」
……その笑顔、怖いんだけど……
「旅の馬車で出会ったんだ。
目的地が同じだから、一緒に来ただけだよ」
クロウはリィンの気持ちを察せないようだが、誤解を生む言葉も使っていない。
よし、いいぞ。
「本当に?」
今度は私に言葉が突き刺さってきた。
「本当本当。
……えーと……失礼な言い方になってしまうかもしれないが、年齢や好みのことを言うと、私はそういうのではない。
むしろ」
私はリィンの手を取って、クロウの手に重ねる。
「お似合いお似合い」
これぞ必殺『強引に恋人成立』だ。
「まぁ。まぁまぁまぁ」
どうやらリィンはお気に召したようで、顔の骨格が変わるほどの怒りの表情から、とーっても穏やかな表情に変わった。
「なんだなんだ?」
おっさん一人、この状況に気づけず。
ずっと『魔女狩り』で、恋愛感情は捨ててきたのかなぁ?
まぁ、私も恋愛なんてしたことないけど、クロウと違って察することはできるから。
「じゃ、私は受付に行くから。
お二人仲良く」
「お、おおーい?」
私は二人を残し、足早にその場を去って行くのだった。
私ってば、恋の仲介人やっちゃったなぁ。
これだけ善行を重ねれば、私にもいいことあるだろ。
楽しみ楽しみ。




