1-2・二人の目的地
『元魔女狩り』だろうが『現役魔女狩り』だろうが、ただの一般人だろうが関係ない。
こんな身体能力を見せる相手に、体力貧弱な私では普通の方法で逃げるのは無理だ。
……普通じゃない方法はあるにはあるが……覚悟がいる……
だが『良心的』つまり『魔女しか狙わない魔女狩り』であれば、私の正体に気づかれない限りは無事でいられる。
それは私の過去の経験からも明らかだ。
「すぅ……はぁ……」
私はこの場から無事生きて帰るために、まずは大きく深呼吸をする。
「大丈夫かい?」
そんな私を見て、クロウは心配そうな表情を浮かべる。
……『良識派』か?
「あぁ……ちょっとびっくりしただけだからな……
ほら『魔女狩り』といえば、悪い噂も聞くだろ?」
「……そうだな」
私の言葉に、クロウは少し影を落とした。
これはつけ入る絶好の好機だ。
これが嘘偽りのない態度であるなら、クロウは『良識派魔女狩り』と期待ができる。
そうなれば、私も演技のやりがいがあるというものだ。
「おっさん。いや、クロウ。
もし、おまえが『悪い噂側』の『元魔女狩り』なら、私を『魔女』として処刑しろ。
ご覧の通り、私は違法魔術である魔導手榴弾を持っている。
『魔女裁判』としては十分な証拠だろう?」
私は言いながら、体を震わせる……という演技だ。
『悪い噂の魔女狩り』は、一般人であっても疑いを持つ相手には容赦ない。
そして『魔女』と決めつけ『魔女裁判』つまり処刑を行う。
クロウがもし『悪い噂側』だとすれば、ここで決着をつけておかないと、もう私では対抗するすべがなくなってしまう。
「はは。度胸のある子だね。
まぁオレはその『悪い噂』が嫌で組織を抜けたんだよ。
あぁ、一応組織を抜ける時に壊滅させておいたから、オレと関わったからって狙われることはないよ」
…………組織壊滅って……
今度は本当に体が震える。
普通にヤバいやつじゃん……
だが、この言葉を信じるのなら……というか、そこにしか希望が見出せないのだが……
私の正体がバレなければ大丈夫だろう。
なぁに、今まで騙し通してきたんだ。今回だって大丈夫大丈夫。
「ならいい。
それと、クロウが『悪い噂の魔女狩り』に所属していた、っていう弱みも握らせてもらったから、これでお互いの秘密は対等だよな?
『悪い噂の魔女狩り』って『魔女狩り』仲間からも相当嫌われてるって聞いたことがあるぞ?」
実際『魔女狩り』というのは、元は魔王軍の残党狩りであり、公的な仕事だった。
その信用を踏みにじったのが『悪い噂の魔女狩り』だ。
真っ当に生きるなら、知られたくない情報のはずだ。
私は体の震えを抑え込み、毅然とした態度で笑顔を見せる。
「な、なかなか策士だねぇ……」
そんな私を見て、クロウも笑みを浮かべた。
「オレは、クロウ・レイジレンス。
45歳の、見ての通りのおっさんさ。
秘密を共有するなら、名乗って仲良くしておいた方がいいだろ?」
そうクロウは言いつつ、右手を差し出した。
これを拒否はできない。
『魔女』として、元とはいえ『魔女狩り』と仲良くするなんて絶対に嫌だが、生き残るための苦渋の決断だ。
「私は、ルシア・ガルブレイ。
年齢は想像に任せるが、若いぞ」
私も名乗りながら、その右手を取った。
…………もし、私が『魔女の王』つまり『元魔王』と知ったらどうするんだろ?
まぁ『魔王』に関しては、勝手に祭り上げられただけの被害者なのだが……
今はしがない底辺魔女の美少女魔導研究者にすぎない。
もっとも『魔女狩り』にはそんなことは関係ないしな。
「確かに若いな。15歳くらいか?」
「17歳だ……」
……私が思わず反論すると、クロウはニヤニヤと笑みを浮かべた……
……イラつく……
「おいこらおっさん。
いい年したおっさんなんだから、馬車ぐらい操れるんだろ?
結局このまま野宿なんてのはごめんだぞ」
私が襲われたこの森の奥までは、御者を装った悪党が馬車を操っていたのだ。
ちなみに私は無理。
「はっはっは。お安いごようさ」
クロウは豪快に笑うと御者席に座る。
「さ、行こうか」
「安全運転で頼むぞ」
私はそれを見て、クロウに近い客席に腰を下ろす。
すると、馬車はゆっくりと安定して動き出す。
「で、おっさん。私の魔導手榴弾に何をして使用不可にしたんだよ?」
『魔女狩り』の件を除けば、これが最も重要な話だ。
「まぁ簡単なことさ。
『魔女狩り』の相手って『魔女』だろ。
そして『魔女』は魔法を使う。
魔法攻撃もそうだが『魔女』の魔力防御は固く、簡単に打ち破れるものじゃない。
だが、その魔力防御も魔法に変わりないんだから、それを構成する術式を書き換えてやれば、魔力防御は機能しなくなる。
だからオレは、苛烈な魔女の攻撃をしのぐための戦闘技術も磨いた。
だが、この術式変換に訓練の大半を割いてたんだよ。
そうすりゃ、ルシアの魔導手榴弾の書き換えなんて、寝ててもできるさ」
「……なるほど」
理にかないすぎた答えだ。
クロウの言ったことは何一つ間違いがない。
それは魔法戦における常套手段だ。
だがそれは、膨大な魔力を持つ魔女だからできる戦法であると思っていた。
実際、普通の魔法使い程度では、魔女の魔力防御を構成する術式を書き換えるどころか解析すらできない。
結果、魔女にダメージを与えられない。
『魔王』討伐のために異世界から召喚されたという勇者がいたが……
あいつ以外でそんなことができる人間がいるとは……
さすが『魔女狩り』だ。ぶっ飛んだ人材だこと。
「で、そんな凄い技術をもった人間が、どんな真っ当な職に就くんだ?
もしかして魔術生産工場で、世のため人のため、世界の発展のためにせっせと働くのか?」
風が強くなった馬車の上。
私は肩まで伸びた黒髪を少しかき上げる。
そして、いたずらっぽい笑みを浮かべ、少し大きな声で聞いた。
『魔王戦争』以降、世界は魔法文明から魔術文明へと徐々に変わり始めている。
それは、かつて魔女に頼っていた時代ではない。
普通の人でも魔女並みの生活ができる世界だ。
「はっはっはっ。
それもいいかもしれないが、実は『魔物討伐協会』に幼馴染がいてな。
そこで働かないかと誘われたんだよ」
「え……?」
実は私も研究資金と旅の資金を稼ぐために、偽造身分証を使って『魔物討伐協会』に所属することが決まっている。
その『魔物討伐協会』がある町へ向かうために、この馬車に乗っていたのだ。
クロウからは術式に関する話が聞けたから、もう用済みでいいんだけど……
……まさか、同じ『魔物討伐協会』所属……なんてことはないよな?
各地に支部があるもんな?
『元魔女狩り』クロウとはどこかで別れるよな?
……ちょっと不安になってきた……




