1-1・底辺魔女と元魔女狩りのおっさん
「ひひひ! ねーちゃんよ! 大人しくしてりゃー無事に家に帰れるぜ!?」
私は馬車で移動中、大柄な悪党五人に囲まれてしまった。
なので、即座に捕縛魔法でひっ捕らえたのだ。
そう。決して私が捕まってピンチなのではなく、私が見下す立場なのだ。
そして、バッグの中から魔導手榴弾を取り出したのを見た一人が、脂汗をかきながらそんなことを言い出したのだ。
つまり『魔導手榴弾は違法なので、通報されたくなければ自分たちを解放しろ』と。
せめて、もっと謙虚にごめんなさいしろよ。
まぁ、私も人を木っ端微塵にする趣味はない。
なので、こいつらの近くで爆発させて、威力を確かめる。
ついでに、二度と私に関わりたくないとトラウマを与えられればそれでいい。
そして、仮にこいつらが通報しても、今まで通り知らぬ存ぜぬを貫き通せばいい。
証拠はない。
「さて」
『ひい!?』
私が一歩足を出すと、悪党どもは情けない悲鳴をあげた。
反撃されるのが嫌なら、悪いことをしなければいいのに。
そして、また一歩。また一歩と近づいていく。
「ほい、そこまで」
「へ?」
私がちょうど良さそうな設置場所まで近づくと、馬車に乗っていたおっさんがいつの間に私の隣に立っていた。
そして、いつの間にか私の手から魔導手榴弾が消えていた……
「オレ、これから真っ当に稼ごうと思ってさ。
なのに、コレが原因でとばっちりを受けたくないんだよ」
短髪の、見た目四十代から五十代くらいの、少し渋めのおっさんは、少し申し訳なさそうに私に視線を送る。
そしてその手には、私の魔導手榴弾が握られていた……
……何者だよ……?
もし、おっさんがこいつらの仲間なら、この距離だと絶対勝てないぞ……
「ほら。次に誰かに見られても、おもちゃって言い張りなよ?」
おっさんは少し微笑んだ後、すんなり魔導手榴弾を返してくれた。
……仲間ではないのか?
しかし、返してくれたのなら好都合だ。
手が滑って威力を……って……
「ちょっと! これ! なにしたんだ!?」
私が受け取った魔導手榴弾は、いつの間にか『別物』に変わっていた。
いや、正確に言えば『入れ物』は私のものだ。
だが、中身の術式が書き換えられていて、これでは爆発どころか起動すらできない。
「だから『おもちゃ』だろ?
そんな物騒なもの持ってたら、オレまで巻き添え食っちゃうからね」
おっさんは特に表情を変えることもなく、言い放った。
「く……」
……悔しい……私に気づかせないレベルで術式の書き換えを行いやがった……
悔しい。
悔しい。
けど……
「なぁ、おっさん。その高速書き換え、どうやったんだ?」
私はおっさんの服をぐいっと引っ張って、好奇心あふれる眼差しで、その言葉を口にしていた。
私の魔導欲は、悔しいを通り過ぎて即座に探究心へと変わっていたのだ。
術式の高速書き換えそのものは『魔女』である私だってできる。
だが、一般人……ではなさそうだが、絶対的な魔力量で劣る男性が見せたこの芸当に、私は興味津々だ。
何か特殊な魔術を持っているのかもしれない。
そう思うと、私の魔導魂が踊り出す。
「教えるのは構わないが、まずはこいつらをどうにかしよう。
キミもこんなところで、おっさん達と野宿なんてしたくないだろう?」
「それは確かに」
野宿そのものは慣れたものだが、このおっさんを敵に回したら……
身の安全を考えるのなら、日があるうちに、とっとと目的の町に向かったほうがいい。
「でも、こいつらを脅して手を出させないために、魔導手榴弾でぶっ飛ばそうと思ってたんだが。
おっさんがそれを台無しにしたんだから、別の手段があるんだよな?」
「……キミは見た目によらず、なかなか過激なことを言うんだな……」
ふむ。つまりおっさんは、私が美少女だと認識しているのか。
まぁ、その通り。
私は自他共に認める美少女魔導研究者だからな。
「悪党相手なら手っ取り早いし」
「それを否定はしないが……
まぁ、ここはオレに任せてくれ」
そこまで言うのなら。と、私は一歩下がって、おっさんの方法を見ることにした。
「ゲセン。おまえも落ちぶれたものだな」
「……お、おまえ……クロウか……!?」
会話を聞くと、どうやら二人には面識があるようだ。
「なんでおまえがここに!?」
「さっきも言ったが、オレは真っ当な生活をしようと思っているんだ。
だから、オレたちは今日会わなかった。そして、彼女は何もしていない。
わかったな?」
「…………あぁ」
ゲセンと呼ばれた悪党は、クロウというおっさんの言葉に静かに頷いた。
「よし。それじゃあ、チャンスを与えよう」
クロウはそう言って、私の捕縛魔法をいとも簡単にちぎって見せた……
……おいおい……マジで何者……
私があっけにとられていると、一つの可能性が頭の中をよぎった。
そしてそれは最悪の出会い……
「オレの実力は衰えた。
だが、まだまだお前らに負けるとも思っていない。
だから、おまえらがこのまま帰るのなら、オレは何も見なかったことにする。
もし、下手な行動をとったら」
「わ、わかってる! わかってるさ!
おい! おめぇら行くぞ!」
クロウに凄まれたゲセンたち悪党どもは、ゆっくりと、だがクロウを気にするそぶりを見せながら、その場から立ち去っていった。
ここで定番の展開なら『騙されたなこの野郎!』と言って、物陰から襲いかかってくるが……
「さて『休憩』もここまでにして、行こうか」
クロウは悪党たちを見送ると、私に向かってにこりと微笑む。
「…………」
それを見て、私はびくりと体を静かに震わせた……
だが、それを悟られないように平静を装って、いつもの魔導研究者としての顔を見せる。
そう。私はあくまでも一般の美少女魔導研究者だ。
「あいつらの態度を見るに、おっさん、あんた脛に傷を持ってるな?」
私の疑念をここで解決しておきたい。
「まぁ、長く生きてりゃ一つや二つあるもんだよ」
私の質問に、クロウは顔色こそ変えないものの、はっきりとは答えない。
「私はさぁ、あんたに魔導手榴弾を見られたわけだ。
そして中身の術式まで変えられたんだ。
それを『最初からおもちゃだった』とは言わせないぞ。
それで、あんたが『魔導手榴弾を持った女性がいた』なんて通報したら、私は終わりだ。
捕まって拷問とか受けるぐらいなら、ここでおまえもろとも自爆してやる。
そうなりたくなければ、あんたの秘密も話せ」
私は言いつつ、バッグの中にあった魔導手榴弾三つを地面に転がした。
この距離で爆発すれば、二人とも木っ端微塵だ。
しかし、内部魔力は私の魔力なので、爆発方向はある程度操作ができる。
つまり、私は助かる。
……相手が普通の人間である、という前提だが……
「おいおい。なかなか過激なことをするな……
……わかったよ。
オレだってせっかくまともな職に就けそうなんだから、こんなところで終わりにしたくもないしな。
オレは『元魔女狩り』なんだ。
だから、さっきまで見せた技術はその時に培ったものなんだ」
…………
その言葉を聞いた瞬間、私の心音が跳ね上がった。
もちろん悪い意味……いや『魔女』である私にとっては、死刑宣告と同等の言葉だ……
逃げ……られるかな?




