8.
手を洗い、冬場なのでうがいもしっかりとしてからリビングに戻ると、コーヒーのいい香りがしていた。
「ミルクと砂糖は」
「私はミルクで」
「僕はブラックでいい」
「はいよー」
トレイの上、ソーサーに載せられた、湯気が立ちのぼるコーヒーカップが三つ。家主の分には、小さな入れ物に入ったミルクが添えられていた。彼の分には何もそのようなものはなかった、彼はブラック派なのだろう。
時刻は昼下がり。一口、それを飲む。
「……モカか」
「お、正解。もしかして、君もコーヒーに詳しかったりする?」
「まあ、好きではある」
「おー、仲間だ仲間だ。後であのサイフォンの使い方教えてあげるよ」
「うん、よろしく」
コーヒーを嗜みながら話し合い、とりあえず一週間、次のような割り振りでやってみることになった。
朝起きて、雪の季節、雪が積もっていたらまず二人で雪かき。家主は朝食はパンを好むが、偶然にも、僕も鎌谷も朝はトーストか菓子パンにコーヒー、という習慣がついていたので、僕がパンと付け合わせを用意し、鎌谷がコーヒーを淹れる。
食後の片付けは交代制。外食をする時があることも考慮して、二回ずつ交代で。その後、午前中は掃除で、毎日それぞれ一箇所をやる。洗濯物があれば適当にやる。その間に、彼女は庭の手入れや猫の世話、あるいは愛車の手入れをする。
昼食は外に食べに行くときもあれば、家でのんびりと食べる時もある。その後は四時までは自由時間で、各自好きに過ごしてよい。昼寝をしてもいいし、掛け持ちの他の仕事をしてもいいし、趣味をしてもいい。三時のおやつやコーヒー、お茶も自由。
そうしたのには彼女曰く、「集中しているときには、おやつをすっぽかすこともよくある」から。いわゆる「過集中」みたいなところがあるのだという。それも才能と言えるのかもしれない。寝食を忘れて何かに没頭することは、メリットだけではなくデメリットもあるかもしれないが、手先が器用だ、ということで彼女に勧められ、趣味として手芸をやり始めた僕は、何かとすぐ気が散るので、その点、彼女が少し羨ましかった。
夕方の四時半から五時ぐらいの間に、僕は夕食の準備を始める。鎌谷にはそれより前に食材の買い出しに行ってもらう。僕が作っている間に、洗濯物を干した日は、鎌谷がそれを取り込んで畳んで各自の部屋に持っていく。夕食が出来上がり次第、彼女を呼び、夕食。一番風呂はもちろん彼女で、その後に僕たちが入る。それから寝るまではまた、自由時間。
なお、日曜日は掃除はお休み。料理もレトルト食品や出来合いの惣菜で済ませることが許された。
僕が一人でこの家の家事をやっていた時は、朝から晩までほぼ働き詰めで、彼女に「こんなにやらせて申し訳ない」と謝られたほどだが、なるほど、二人で分担してみると、それはそれで上手くいきそうだった。
その日の夕食は、全員が揃ったお祝いと称して、家主が洋食レストランを予約してくれていた。そこでイタリアンを頂いた後、僕は彼女に教えてもらった、彼女お気に入りのパン屋に寄り、営業終了時刻間際で一斤だけ残っていた食パンを買って帰宅した。




