6.
「そういえば、お仕事は何かなされているのですか」
それも気になることの一つであった。見た目が若く、学生のような印象を受けたので、どんな仕事をしているのか、想像ができなかったからだ。
すると、あれを見てください、と、彼女は猫を撫でるのをやめ、壁に掛かっていた一枚の絵を指さした。それは、この建物を描いたもののようだった。タッチからして水彩画のようだが、素人のそれのような感じはしない。これは、もしや。
「あなたが描かれたのですか」
「ええ。画家をやっているんです。上の階にアトリエがございます」
「……すごいですね」
「いえいえ、好きの延長線上です。子供の頃から絵を描くことが好きで、それが今もずっと続いているだけです」
僕は少し、うらやましいと思った。子供の頃から、何か夢中になれることがあって、それを職業にまでしてしまえる人など、そう多くはない。僕だってそうだ。
「でも、素敵だと思いますよ」
「ありがとうございます」
再び麦茶を口にし、時間が経ったところでパスタを水切りする。それを炒めた玉ねぎとツナを入れたままのフライパンに投入し、水菜も入れてしまってから、最後にパスタのゆで汁で溶いたコンソメスープをかけて、火を止めればできあがり。適当な器に盛って、彼女の前に出すと、ぱあっと彼女が表情を輝かせた。
「すごいです……私にはなかなかできません」
「まあ、どうぞ」
僕一人なら、食器はフォークだけか、それすらも面倒な時は、箸でパスタを食べてしまうものだが、相手は上品なお嬢様にして芸術家だ、フォークとスプーンの両方を二人分出した。思っていた通り、彼女は右手にフォーク、左手にスプーンを持って食べ始めた。僕はその一口目を観察する。
フォークで麺を持ち上げ、スプーンの上でそれに巻き付けて、水菜を一切れ載せて、一口。彼女にはじっくりと味わっているが、僕にとっては緊張の数秒間。
そして、その後、彼女は満面の笑みと共に、僕の人生を決定的に変える一言を放つのであった。
「……水戸さん、ぜひうちに来てください! 採用です!」




