表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
相合傘 -千春と千秋 そのⅠ-  作者: 関戸守
第一章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
5/14

5.

 言われた通り、手を洗って、ソファーに腰を下ろす。猫は気まぐれだ、手を洗いに行くときには僕に付いてきたが、リビング・ダイニングに戻ると、僕から離れていった。別荘だから、大きなテレビやホームシアターもあるのだろうかと思ったが、意外にもそれらの類いは見当たらなかった。ソファーの背後の開け放たれた窓から、夏の木漏れ日が室内に注ぐ。

「水戸さん、こんな時間ですが、空腹ではありませんか」

 言われてみれば、朝六時にコンビニのおにぎりを二つ食べて以来、お茶は時折飲んでいたが、固形物は何も口にしていなかった。昼食を食べてから電話する、という手もあったか、と、今更ながら思う。

 そこで僕は一つ、思いついた。僕はこの家に、家政夫の募集で来たのだ、その中に調理の仕事も含まれている。まだ雇われてはいないが、ここは一つ、腕をアピールするチャンスではないのか。

「まあ、そうですね……何なら、何かお作りしましょうか」

 案の定、彼女は目を丸くした。いきなりそんな提案をされるとは、思ってもいなかったであろう。

「よろしいのですか」

「テストのつもりで見ていただければと。えっと、食材は……」

「あるもの何でも、お好きに使ってください。私、料理が苦手なもので、大したものはないのですが」

 そう言うのなら、してもよい、と受け取ってよいだろう。台所に向かうと、麦茶の入った透明なグラスを、彼女は適当に置いた。どんな食材がどこに入っているのかを教えてもらい、目に入ったものの中から作れそうなものを脳内で検索する。

「パスタでも」

「お願いします」

「そうだ、何人前作れば」

「二人でいいです。私、一人暮らしなので」

 僕の勘は当たった。彼女はここに一人でいる。しかも、その言い方から、ここは彼女にとっては「別荘」ではなく、一年中住んでいる「自宅」のようだ。

「え、こんな大きい家に、お一人なんですか」

「ええ。特に掃除が大変なので、誰か雇おうと思ったのです」

「……失礼ながら、他のご家族は」

「祖父母や両親は既に他界しました。三つ上に姉が一人いるのですが、結婚して今は大阪にいます。他の親戚とは疎遠です。今は私と愛猫の他には、ここには誰もいません」

 彼女は、ソファーの上、彼女の隣に座った猫を撫でながら言った。姉がいて、その彼女は既に結婚している。ということは、今ここにいる愛香は、見た目によらず、本当はいい年なのだろう。

「そうでしたか……ですが、そんなところに男性を雇っても大丈夫なのですか」

 麦茶を一口、二口飲んでから、流しの下から玉ねぎを出し、丸ごと一玉、皮をむいで食べやすい大きさに切りながら聞いてみる。

「男性の方が都合がいいのです。特に力仕事がある訳ではありませんが……後で事情はお話しします。でも、貴方がしているような心配は無用です。これでも合気道の有段者ですので」

 なるほど、それなら男性との万が一があっても大丈夫ということか。冷蔵庫の中にしなびかけた水菜があったので、それも一口大に切る。

「入り口の紙には書いていませんでしたが、猫の世話は」

「みいは私によく懐いていますので、私がします。庭の手入れもしなくて結構ですよ。もし何か気付いたことがあれば、私にお知らせしてくれたので構いません」

 鍋を調理器具置き場から出し、お湯を沸かす。その間に、フライパンを五徳に載せ、小さいボトル入りのオリーブオイルを回し入れ、玉ねぎを炒める。それに火が通れば、賞味期限が近付いていたツナ缶をフライパンに投入し、沸騰したお湯に塩を少々、七分茹でのパスタを二束(ほど)く。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ